ダッ!
授業が終わるや否や、柳瀬健太は逃げるように教室を飛び出した。
「くっそ‥!」
先程の授業にて、健太は驚きのあまり目玉が飛び出すのではないかと思った。
赤山雪の隣に、なんと青田淳の姿があったのだ。
健太の胸中が苛立ちに染まる。
「つーかなんでインターン生だっつーのに、しょっちゅう大学来てんだよ!
あんなんでもクビになんねーのか?!」
呼び止められないように、健太は飛ぶように教室を出て来た。
そして次の授業へと向かうわけだが、そこにも不安要素は満載だ。
「あ‥でもアイツと俺、授業めっちゃ被ってんだよな‥」
「次の授業は‥と」「こんにちは」
不意に掛かった声に、思わず健太はギクリとした。
顔を上げると、そこには彼の姿がある。
「!!」
青田淳。
彼は健太と目が合うと、ニッコリと微笑んで右手を上げた。
思わず顔が引き攣る健太。
視線は、包帯ぐるぐる巻きのその手に釘付けだ。
健太は動揺を隠し切れない体で、少々どもりながら声を上げる。
「おっ‥お前‥どうしてここにっ‥!」
「先輩が一服しに来るかと思って。前もこの辺りでよくお見かけしたので」
そう飄々と答える淳に、健太は何も言えずに固まった。
口元をひくつかせて浮かべる笑いが、滑稽なまでに二人の間を彷徨う。
「は‥」
「はは‥」
苦い顔で後退りする健太のことを、淳は何も言わずにじっと見つめていた。
口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
その笑顔を見て、健太の第六感がシグナルを鳴らした。
ヒヤリとする感覚の中、健太はわざとらしいまでに大きな声を立てて笑う。
「ははは!」
「そうそう!俺も連絡しようと思ってたとこ!お前大学来てるって聞いてさぁ!」
健太は幾分大仰なアクションで、淳の来校を歓迎し始めた。
「いや~よく来たな!会えて嬉しいぞ!なぁ!HAHAHA!」
しかし淳の右手に目を留めた健太は、さすがに表情を引き攣らせる。
「あ‥それで‥手‥は大丈夫なのか?重傷‥なのかよ?」
「まさか骨折とか‥」
恐る恐るそう問う健太。
しかし淳は依然として何も言わない。ただ微笑んでいるだけだ。
「‥‥‥‥」
二人の間に沈黙が落ちる。
気まずくなった健太は、思いついたように赤山雪の名を口にした。
「あ!赤山は?すげー怒ってただろ?赤山。なぁ?」
やはり淳は無言だ。そして先ほどよりももっとニッコリ笑っている。
健太は冷や汗が止まらなかった。
すると健太は大声で、今まで連絡しなかったことの言い訳を口にし始めた。
「い‥いやぁ~!」
「下手にメールしたらもっと怒らせちゃうかと思ってよぉ、
落ち着いてからお前と赤山に直接会って話したかったんだ。だから‥な?」
「分かってくれるよな?」
調子良くそう口にする健太。
淳はそんな健太に対し、笑顔を浮かべたままこう返答した。
「俺の方は大丈夫ですよ。かえって気分が良いくらいです。
おかげで雪が俺のことを随分心配してくれて」
「そ、そうか?!」
淳の言葉を額面通りに受け取り、健太は喜んだ。
ガハハと笑い声を上げながら、得意のおべっかで淳を褒める。
「そりゃ~良かった!さっすが青田!心が広いよなぁ~~!昔だったら大将軍並みの器だぜ!
しっかしやっぱそうだよな~!生きてる以上色々あんのはしゃーないことだしな!」
「先輩後輩同士で火花バチバチなんてことになったらどーしよーかと思って、
心配したんだぜ~?」
健太は言葉を続けながら、だんだんと話を曖昧な方向へと向かわせて行った。
責任の所在をうやむやにする、健太の常套手段である。
「平和に解決出来る問題だって、怒ってちゃ‥なぁ?ははは!
同じ大学の仲間同士、先輩後輩の仲じゃねーか!こんなことでこじれちゃ薄情ってもんよ!」
「はい。俺も後々引き摺るのはちょっと‥」
「特に先輩とは」
えっ
淳が口にしたその発言の意味が飲み込めず、健太は不思議そうな顔になった。
黙っている健太に向かって、淳はこう続ける。
「治療費の要求はしません。必要ありませんので」
「えっ?!マジか!?」
「ただ‥」
そう言って淳がポケットから取り出したのは、
文字盤を覆うガラスにヒビが入った、ブルガリの時計だった。
突然差し出された時計を見て目を丸くする健太。
そんな健太に向かって、淳ははっきりとその責任を突きつける。
「これを弁償頂ければ」
キョトンとしている健太に構わず、淳は冷静な口調で話を続けた。
「頂き物なので、こんな状態じゃくれた方に失礼でしょう?」
「は‥?」
健太は何のことやら、一向に分からない様子だった。
「な‥なんだそりゃ、突然‥」
しかし突如、昨日の光景が説得力を持って浮かび上がる。
揺さぶったせいで転びかけた赤山を庇い、後ろ向きに地面に倒れた青田淳の姿、
そして確かに、
コンクリート杭に手の甲をぶつけていた彼の右手が‥。
「へ‥?」
まるで印籠を突きつけるかのように、淳は故障した時計を健太に見せつける。
「ですから、必ず弁償の方お願いします」
あたかも聖人君子のように、ニッコリと笑いながら。
「‥‥!」
健太は口をあんぐりと開けたまま固まった。
ここで「はいそうですか」と素直に頷く男では当然無い。
「いやいやいやいや!ちょっと待てよ!」
しかし健太がそういう男だということは、淳はとっくにお見通しだ。
動揺する健太に向かって、淳は冷静にその条件を更に続けた。
「おい!それ俺だけのせいじゃねーだろ!しかもその時計‥めっちゃ高いヤツ‥」
「先輩、時計お詳しいでしょう?一度ウェブで検索してみて下さい」
「そこに出てくる中古相場の半額だけ頂こうと思ってますので」
「はっ?!いやだからちょっと待てよ‥!」
混乱のあまり目をぐるぐると回す健太。淳は畳み掛けるように言葉を続ける。
「仰る通り、同じ学科の先輩後輩ですから全額補償にはしないつもりです。
それじゃあまりにも薄情ですからね」「お‥おい‥」
「あと佐藤のノートPCの件も、今は柳一人で補償していますから、半分は出して頂ければ。
先輩も使ったんですよね?」「はぁ?!」
淳は健太の真正面に立って、彼が補償しなければならないもう一つの件についても言及した。
健太は心外そうに声を荒げる。
「おい!その件はお前には関係無‥!」
「え?同期のことを心配しちゃダメなんですか?同じ大学の仲間でしょう?」
「薄情だなぁ」
淳は健太が免罪符にしていた「薄情」という言葉を使って、そう見事に切り返した。
健太の顔がみるみる歪んで行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<制裁(1)>でした。
淳ーーー!!!
(思わずスタンディングオベーション)
やってくれましたね!淳が出来る範囲の制裁で言えば、良い要求では無いでしょうか!
そしてちょっと調べてみました、この時計の中古相場‥
健太に要求しているのはこの半額なので、大体3万円になりますね。
(まぁ日本の相場なので韓国がどのくらいかは分かりませんが‥)
+佐藤のPCの半額補償ということで、健太には痛い出費でしょうが、まぁ自業自得ですからね!(晴れやかな笑顔)
次回は<制裁(2)>です。
☆ご注意☆
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授業が終わるや否や、柳瀬健太は逃げるように教室を飛び出した。
「くっそ‥!」
先程の授業にて、健太は驚きのあまり目玉が飛び出すのではないかと思った。
赤山雪の隣に、なんと青田淳の姿があったのだ。
健太の胸中が苛立ちに染まる。
「つーかなんでインターン生だっつーのに、しょっちゅう大学来てんだよ!
あんなんでもクビになんねーのか?!」
呼び止められないように、健太は飛ぶように教室を出て来た。
そして次の授業へと向かうわけだが、そこにも不安要素は満載だ。
「あ‥でもアイツと俺、授業めっちゃ被ってんだよな‥」
「次の授業は‥と」「こんにちは」
不意に掛かった声に、思わず健太はギクリとした。
顔を上げると、そこには彼の姿がある。
「!!」
青田淳。
彼は健太と目が合うと、ニッコリと微笑んで右手を上げた。
思わず顔が引き攣る健太。
視線は、包帯ぐるぐる巻きのその手に釘付けだ。
健太は動揺を隠し切れない体で、少々どもりながら声を上げる。
「おっ‥お前‥どうしてここにっ‥!」
「先輩が一服しに来るかと思って。前もこの辺りでよくお見かけしたので」
そう飄々と答える淳に、健太は何も言えずに固まった。
口元をひくつかせて浮かべる笑いが、滑稽なまでに二人の間を彷徨う。
「は‥」
「はは‥」
苦い顔で後退りする健太のことを、淳は何も言わずにじっと見つめていた。
口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
その笑顔を見て、健太の第六感がシグナルを鳴らした。
ヒヤリとする感覚の中、健太はわざとらしいまでに大きな声を立てて笑う。
「ははは!」
「そうそう!俺も連絡しようと思ってたとこ!お前大学来てるって聞いてさぁ!」
健太は幾分大仰なアクションで、淳の来校を歓迎し始めた。
「いや~よく来たな!会えて嬉しいぞ!なぁ!HAHAHA!」
しかし淳の右手に目を留めた健太は、さすがに表情を引き攣らせる。
「あ‥それで‥手‥は大丈夫なのか?重傷‥なのかよ?」
「まさか骨折とか‥」
恐る恐るそう問う健太。
しかし淳は依然として何も言わない。ただ微笑んでいるだけだ。
「‥‥‥‥」
二人の間に沈黙が落ちる。
気まずくなった健太は、思いついたように赤山雪の名を口にした。
「あ!赤山は?すげー怒ってただろ?赤山。なぁ?」
やはり淳は無言だ。そして先ほどよりももっとニッコリ笑っている。
健太は冷や汗が止まらなかった。
すると健太は大声で、今まで連絡しなかったことの言い訳を口にし始めた。
「い‥いやぁ~!」
「下手にメールしたらもっと怒らせちゃうかと思ってよぉ、
落ち着いてからお前と赤山に直接会って話したかったんだ。だから‥な?」
「分かってくれるよな?」
調子良くそう口にする健太。
淳はそんな健太に対し、笑顔を浮かべたままこう返答した。
「俺の方は大丈夫ですよ。かえって気分が良いくらいです。
おかげで雪が俺のことを随分心配してくれて」
「そ、そうか?!」
淳の言葉を額面通りに受け取り、健太は喜んだ。
ガハハと笑い声を上げながら、得意のおべっかで淳を褒める。
「そりゃ~良かった!さっすが青田!心が広いよなぁ~~!昔だったら大将軍並みの器だぜ!
しっかしやっぱそうだよな~!生きてる以上色々あんのはしゃーないことだしな!」
「先輩後輩同士で火花バチバチなんてことになったらどーしよーかと思って、
心配したんだぜ~?」
健太は言葉を続けながら、だんだんと話を曖昧な方向へと向かわせて行った。
責任の所在をうやむやにする、健太の常套手段である。
「平和に解決出来る問題だって、怒ってちゃ‥なぁ?ははは!
同じ大学の仲間同士、先輩後輩の仲じゃねーか!こんなことでこじれちゃ薄情ってもんよ!」
「はい。俺も後々引き摺るのはちょっと‥」
「特に先輩とは」
えっ
淳が口にしたその発言の意味が飲み込めず、健太は不思議そうな顔になった。
黙っている健太に向かって、淳はこう続ける。
「治療費の要求はしません。必要ありませんので」
「えっ?!マジか!?」
「ただ‥」
そう言って淳がポケットから取り出したのは、
文字盤を覆うガラスにヒビが入った、ブルガリの時計だった。
突然差し出された時計を見て目を丸くする健太。
そんな健太に向かって、淳ははっきりとその責任を突きつける。
「これを弁償頂ければ」
キョトンとしている健太に構わず、淳は冷静な口調で話を続けた。
「頂き物なので、こんな状態じゃくれた方に失礼でしょう?」
「は‥?」
健太は何のことやら、一向に分からない様子だった。
「な‥なんだそりゃ、突然‥」
しかし突如、昨日の光景が説得力を持って浮かび上がる。
揺さぶったせいで転びかけた赤山を庇い、後ろ向きに地面に倒れた青田淳の姿、
そして確かに、
コンクリート杭に手の甲をぶつけていた彼の右手が‥。
「へ‥?」
まるで印籠を突きつけるかのように、淳は故障した時計を健太に見せつける。
「ですから、必ず弁償の方お願いします」
あたかも聖人君子のように、ニッコリと笑いながら。
「‥‥!」
健太は口をあんぐりと開けたまま固まった。
ここで「はいそうですか」と素直に頷く男では当然無い。
「いやいやいやいや!ちょっと待てよ!」
しかし健太がそういう男だということは、淳はとっくにお見通しだ。
動揺する健太に向かって、淳は冷静にその条件を更に続けた。
「おい!それ俺だけのせいじゃねーだろ!しかもその時計‥めっちゃ高いヤツ‥」
「先輩、時計お詳しいでしょう?一度ウェブで検索してみて下さい」
「そこに出てくる中古相場の半額だけ頂こうと思ってますので」
「はっ?!いやだからちょっと待てよ‥!」
混乱のあまり目をぐるぐると回す健太。淳は畳み掛けるように言葉を続ける。
「仰る通り、同じ学科の先輩後輩ですから全額補償にはしないつもりです。
それじゃあまりにも薄情ですからね」「お‥おい‥」
「あと佐藤のノートPCの件も、今は柳一人で補償していますから、半分は出して頂ければ。
先輩も使ったんですよね?」「はぁ?!」
淳は健太の真正面に立って、彼が補償しなければならないもう一つの件についても言及した。
健太は心外そうに声を荒げる。
「おい!その件はお前には関係無‥!」
「え?同期のことを心配しちゃダメなんですか?同じ大学の仲間でしょう?」
「薄情だなぁ」
淳は健太が免罪符にしていた「薄情」という言葉を使って、そう見事に切り返した。
健太の顔がみるみる歪んで行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<制裁(1)>でした。
淳ーーー!!!
(思わずスタンディングオベーション)
やってくれましたね!淳が出来る範囲の制裁で言えば、良い要求では無いでしょうか!
そしてちょっと調べてみました、この時計の中古相場‥
健太に要求しているのはこの半額なので、大体3万円になりますね。
(まぁ日本の相場なので韓国がどのくらいかは分かりませんが‥)
+佐藤のPCの半額補償ということで、健太には痛い出費でしょうが、まぁ自業自得ですからね!(晴れやかな笑顔)
次回は<制裁(2)>です。
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