夕暮れのキャンパスの一角で、恋人達は顔を合わせた。
「先輩!」
「あ」
淳の姿を見つけた雪はピョンピョンと飛び跳ねながら、
「こっちこっち」と大きく手を振って見せる。
満面の笑みで彼を待つ彼女。
思わず淳の顔から笑顔が零れた。
二人は身体を寄せ合いながら、初冬のキャンパス内をゆっくりと歩き始める。
「ご飯食べに行こう。今日は車無いけど 手がコレだから」「学校までどうやって来たんですか?」
「地下鉄?」
雪の身体に手を回した淳は、ふとあることに気がついた。
「ちょっと痩せた?」
「え?変わってませんよ」「そう?」
行こう
二人は手を繋ぎながら、キャンパスを出て街へと繰り出す。
「聡美、すごく複雑みたいです」
レストランでの話題の中心は、聡美と太一のことだった。
「なかなか気持ちの整理がつかないみたいで‥。期末ももうすぐなのに‥
太一もすごく悩んでるみたい」
友人の悩みの種が移ったかのように、雪の食事のペースは遅かった。
なかなかフォークを持つ手が進まない。
「太一の兵役、元々このタイミングで計画してたみたいだけど‥
よりによって付き合い始めになっちゃうなんて」
淳はそんな彼女を見つめながら、その心情を慮る。
「試験期間中なのに悩みが尽きないな」
「そうなんですよ」
そう言って溜息を吐く雪を、淳は温かな目で見つめていた。
二人は日常に起こった些細な出来事を、穏やかな空気の中で分かち合う。
最初は隣に居ることさえぎこちなくて、開いていた距離はなかなか縮まらなかった。
けれど今はそれがまるで嘘だったかのように、二人は互いの線の中で自然に呼吸している。
止めどなく流れる時間の中で、それぞれがそれぞれの思いや悩みを胸に歩き続ける。
ネオンに照らされた街を眺めながら、雪は彼の隣に立っていた。
先輩
さっき先輩を待ってる時、ふとこんなこと思ったんです。
私、聡美と太一のこと大好きなのに、
こんなことになるまで、私はただ見ていただけだったなって。
二人の間に居たのに、何も助けてあげられなかったなって。
自分だけが苦しんでるんだって思って、自分の悩みにばっかり囚われて、
今まで自分の周りの人たちに、なんていうか‥
ただ表面的に、その場しのぎの優しさで接して来たっていうか‥
うん、そんな感じです。
私は悪い人間じゃないけど、そんなに良い人間でもないんです。
どうせなら良い人間でありたいけれど、
日々に追われていると、そんな風に考えたことすら忘れてしまう。
それも全部、言い訳に過ぎないのかもしれませんけど。
二人は地下鉄に乗り込むと、肩を並べて席に座った。
彼に話した話を思い出して、心の中でこう思う。
最優先にすべきことは何だろう。
いつもの癖で鞄から参考書を取り出すが、顔を上げると彼の笑顔が目に入った。
そうして雪は、今日は一人じゃないんだったと思い至る。
それに加えて周りに目を向けて気を配るには、どうしたらいいんだろう。
雪は参考書を仕舞うと、彼の肩に自身の肩を寄せて微笑んだ。
ふと、彼を見上げてみる。
そして‥
顔を上げると、彼の方も彼女のことを見つめていた。
視線を逸らさぬまま、淳は穏やかな声でこう質問する。
「お昼は食べた?」
「え?いきなり何‥」
突然のその質問に雪は目を丸くしたが、やがてその真意に思い至った。
心配を掛けさせまいと、言い訳を口にする。
「あ‥。いえ、今日はそれどころじゃなくって‥うっかりしてました」
「ちゃんと食べなきゃ」
「痩せたよ?」
淳はそう言って、彼女の華奢な手に自身の手を被せた。
不自由な手が、雪の手を精一杯の優しさで擦る。
雪は彼の隣に座りながら、心が暖まって行くのを感じていた。
二人を乗せた地下鉄は、心地良いリズムで揺れながら、ゆっくりと走って行く‥。
ガタン ゴトン ガタン ゴトン‥
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ふいに思う>でした。
なんとも穏やかな回でしたね。
しかし雪の身体に手を回して「痩せた?」と言う淳に、そこはかとないエロスを感じた私は汚れているのか‥。
次回は<魔法の言葉>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「先輩!」
「あ」
淳の姿を見つけた雪はピョンピョンと飛び跳ねながら、
「こっちこっち」と大きく手を振って見せる。
満面の笑みで彼を待つ彼女。
思わず淳の顔から笑顔が零れた。
二人は身体を寄せ合いながら、初冬のキャンパス内をゆっくりと歩き始める。
「ご飯食べに行こう。今日は車無いけど 手がコレだから」「学校までどうやって来たんですか?」
「地下鉄?」
雪の身体に手を回した淳は、ふとあることに気がついた。
「ちょっと痩せた?」
「え?変わってませんよ」「そう?」
行こう
二人は手を繋ぎながら、キャンパスを出て街へと繰り出す。
「聡美、すごく複雑みたいです」
レストランでの話題の中心は、聡美と太一のことだった。
「なかなか気持ちの整理がつかないみたいで‥。期末ももうすぐなのに‥
太一もすごく悩んでるみたい」
友人の悩みの種が移ったかのように、雪の食事のペースは遅かった。
なかなかフォークを持つ手が進まない。
「太一の兵役、元々このタイミングで計画してたみたいだけど‥
よりによって付き合い始めになっちゃうなんて」
淳はそんな彼女を見つめながら、その心情を慮る。
「試験期間中なのに悩みが尽きないな」
「そうなんですよ」
そう言って溜息を吐く雪を、淳は温かな目で見つめていた。
二人は日常に起こった些細な出来事を、穏やかな空気の中で分かち合う。
最初は隣に居ることさえぎこちなくて、開いていた距離はなかなか縮まらなかった。
けれど今はそれがまるで嘘だったかのように、二人は互いの線の中で自然に呼吸している。
止めどなく流れる時間の中で、それぞれがそれぞれの思いや悩みを胸に歩き続ける。
ネオンに照らされた街を眺めながら、雪は彼の隣に立っていた。
先輩
さっき先輩を待ってる時、ふとこんなこと思ったんです。
私、聡美と太一のこと大好きなのに、
こんなことになるまで、私はただ見ていただけだったなって。
二人の間に居たのに、何も助けてあげられなかったなって。
自分だけが苦しんでるんだって思って、自分の悩みにばっかり囚われて、
今まで自分の周りの人たちに、なんていうか‥
ただ表面的に、その場しのぎの優しさで接して来たっていうか‥
うん、そんな感じです。
私は悪い人間じゃないけど、そんなに良い人間でもないんです。
どうせなら良い人間でありたいけれど、
日々に追われていると、そんな風に考えたことすら忘れてしまう。
それも全部、言い訳に過ぎないのかもしれませんけど。
二人は地下鉄に乗り込むと、肩を並べて席に座った。
彼に話した話を思い出して、心の中でこう思う。
最優先にすべきことは何だろう。
いつもの癖で鞄から参考書を取り出すが、顔を上げると彼の笑顔が目に入った。
そうして雪は、今日は一人じゃないんだったと思い至る。
それに加えて周りに目を向けて気を配るには、どうしたらいいんだろう。
雪は参考書を仕舞うと、彼の肩に自身の肩を寄せて微笑んだ。
ふと、彼を見上げてみる。
そして‥
顔を上げると、彼の方も彼女のことを見つめていた。
視線を逸らさぬまま、淳は穏やかな声でこう質問する。
「お昼は食べた?」
「え?いきなり何‥」
突然のその質問に雪は目を丸くしたが、やがてその真意に思い至った。
心配を掛けさせまいと、言い訳を口にする。
「あ‥。いえ、今日はそれどころじゃなくって‥うっかりしてました」
「ちゃんと食べなきゃ」
「痩せたよ?」
淳はそう言って、彼女の華奢な手に自身の手を被せた。
不自由な手が、雪の手を精一杯の優しさで擦る。
雪は彼の隣に座りながら、心が暖まって行くのを感じていた。
二人を乗せた地下鉄は、心地良いリズムで揺れながら、ゆっくりと走って行く‥。
ガタン ゴトン ガタン ゴトン‥
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ふいに思う>でした。
なんとも穏やかな回でしたね。
しかし雪の身体に手を回して「痩せた?」と言う淳に、そこはかとないエロスを感じた私は汚れているのか‥。
次回は<魔法の言葉>です。
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