「薄情だなぁ」

淳は健太が盾にしてきた「薄情」という言葉を使って、そう見事に切り返した。
思わず健太の目は点になる。

これはマズイことになったと、健太の本能が警告を鳴らしていた。
健太は真っ青になりながら、必死に淳を止めに掛かる。
「あ‥あ‥青田っ!ちょ、ちょ、ちょい待ち!」

「ここでこんな話‥止めようぜ、な?!一度ちゃんと集まろうぜ?佐藤と柳にも謝る機会作っから‥」
「ええ。謝って下さいね。時計の弁償の件も必ずお願いします。では」

そう言って立ち去ろうとする淳に向かって、健太は往生際悪くジタバタと足掻き始めた。
「おいっ!黙ってりゃつけ上がりやがって‥!待ちやがれ!」

「言わしてもらうが、これは詐欺だぞ詐欺!つーか俺、あん時お前が時計つけてた所なんて見てねぇし!
どっかで壊しといて、俺のことハメようってんだろ?!そうはいかねぇぞ!あぁ?!」

「こっちはなぁ、自分の学費稼ぐのでアップアップなんだよ!
それを承知で金巻き上げようってのか?!卑怯じゃねぇかよ!!」

健太は自身の逼迫ぶりを全面に押し出して声を荒げた。しかし淳にとってはどこ吹く風である。
「マジで言ってんのか?!」「? 破格値を配慮してあげたつもりですが」
「はぁ?してあげただぁ?!」「なぜ突然そんな言いがかりをつけられるのか分かりませんが、」

「人に危害を加えて物まで壊したなら、弁償するのが常識じゃありませんか?
よく考えてみて下さい」

真っ直ぐにそう切り返した淳の正論に、健太はぐうの音も出なかった。
その臆病な瞳の奥にある恐れを、淳の瞳は真っ直ぐに射抜く。


健太の顔がみるみる土色になり、汗が次から次へと止まらなかった。
健太は怒りでブルブルと震えながら、更に大声を出す。
「ふっ‥」

「ふざけんなっ!!」

もうなりふり構ってはいられないと感じたのか、健太はその大きな図体で暴れながら更に淳を責め始めた。
けれど淳は至極冷静に、理性的な言葉を切々と続ける。
「人に濡れ衣着せやがって‥!俺に全部泥被そうってハラだな?!
うわぁ、ひでぇよ!ひどすぎんだろうが!」
「いいえ、ただ白黒ハッキリさせたいだけです」

「あの時の状況が俺の車のドライブレコーダーに全て記録されているので、」

「そこまで仰るのなら、皆の前で是非を問う形にして頂いても結構です」
「!!」

淳が握っていた思わぬ証拠に、
健太は思わず頭を抱えた。

しかしまだ彼は足掻き続ける。
「お、お、お、お前どういうことだこらぁ!」

「それは脅迫だぞ?!時計代返してほしいがためにー‥」
「はは、違いますよ。とんでもない」

淳は健太のその言葉を聞いて軽く笑った。
そして視線を遠くに流しながら、含みのあるその言葉を口に出す。
「先輩の望むようにして差し上げますよ」

「良いご選択を」

「お待ちしています」

そう言って淳は健太に背を向けた。
健太は二の句を継げずに、ただその場で立ち尽くす。

淳の背中が小さくなって行くのに反比例して、健太の心の中に混乱の波が押し寄せて来た。
健太は真っ青になりながら、アワアワと一人取り乱す。
「あ‥な‥どう‥な‥」

「なっ‥!!!」

「なぁぁぁぁ!!!」

巨体の男が叫び声を上げるのを、坂の道の上で一人の男がじっと見ていた。
「ざけんなぁぁぁ!!」

「どうすりゃいいんだぁぁ!!」

河村亮は男の姿を見下ろしながら、数分前の出来事を回顧し始める‥。

左手が思うように動かず、志村教授とのレッスンは無言の内に幕を閉じた。
亮の心が重たく沈む。
「‥‥‥‥」

何が原因でどうしてこうなったのか、それに思い至ってもただ絶望は募るばかりだった。
この先どうやって進んで行けば良いのか、その答えは一向に出ない。

頭を抱え何度も首を横に振る亮。
すると視線の端に一人の男の姿が映った。


大きな図体を丸めながら小走りするその人物。
あれは昨日雪のことを押し退け、淳に怪我をさせたあの人物に他ならない‥。

恐らく雪のことを避け、こそこそと逃げ回っているのだろう。
情けないその姿を見て、亮は呆れ返った表情を浮かべた。

沸々と怒りが湧き上がる。
「あんのクソ野郎‥」

「決めた。少なくともあの野郎をブチ殺してから去るぞ、オレは」

亮は怒りにまかせてあの男の後を追った。
しかし男に追いつくかと思われたその時、聞き覚えのある声が亮を止める。
「こんにちは」


淳だった。
そして亮はその場から、二人のやり取りの一部始終を見聞きしていたのだった。
「うわぁぁぁぁ!」

巨体の男は声を上げて逃げて行く。
もう何度、こうやって淳の前から去って行った人間の姿を目にして来ただろう。

行き場のない感情が、亮の胸中をモヤモヤと曇らせて行く。
亮は苦々しい気分で頭を掻きながら、そっとその場から立ち去った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<制裁(2)>でした。
もう‥健太の往生際が悪すぎて‥
人としての器が小さすぎて何も言えねぇ(◯島康介)
そして思い悩む亮さんが切なくも、イケメンに磨きがかかっていて眼福でした。。
次回は<ふいに思う>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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淳は健太が盾にしてきた「薄情」という言葉を使って、そう見事に切り返した。
思わず健太の目は点になる。

これはマズイことになったと、健太の本能が警告を鳴らしていた。
健太は真っ青になりながら、必死に淳を止めに掛かる。
「あ‥あ‥青田っ!ちょ、ちょ、ちょい待ち!」

「ここでこんな話‥止めようぜ、な?!一度ちゃんと集まろうぜ?佐藤と柳にも謝る機会作っから‥」
「ええ。謝って下さいね。時計の弁償の件も必ずお願いします。では」

そう言って立ち去ろうとする淳に向かって、健太は往生際悪くジタバタと足掻き始めた。
「おいっ!黙ってりゃつけ上がりやがって‥!待ちやがれ!」

「言わしてもらうが、これは詐欺だぞ詐欺!つーか俺、あん時お前が時計つけてた所なんて見てねぇし!
どっかで壊しといて、俺のことハメようってんだろ?!そうはいかねぇぞ!あぁ?!」

「こっちはなぁ、自分の学費稼ぐのでアップアップなんだよ!
それを承知で金巻き上げようってのか?!卑怯じゃねぇかよ!!」

健太は自身の逼迫ぶりを全面に押し出して声を荒げた。しかし淳にとってはどこ吹く風である。
「マジで言ってんのか?!」「? 破格値を配慮してあげたつもりですが」
「はぁ?してあげただぁ?!」「なぜ突然そんな言いがかりをつけられるのか分かりませんが、」

「人に危害を加えて物まで壊したなら、弁償するのが常識じゃありませんか?
よく考えてみて下さい」

真っ直ぐにそう切り返した淳の正論に、健太はぐうの音も出なかった。
その臆病な瞳の奥にある恐れを、淳の瞳は真っ直ぐに射抜く。


健太の顔がみるみる土色になり、汗が次から次へと止まらなかった。
健太は怒りでブルブルと震えながら、更に大声を出す。
「ふっ‥」

「ふざけんなっ!!」

もうなりふり構ってはいられないと感じたのか、健太はその大きな図体で暴れながら更に淳を責め始めた。
けれど淳は至極冷静に、理性的な言葉を切々と続ける。
「人に濡れ衣着せやがって‥!俺に全部泥被そうってハラだな?!
うわぁ、ひでぇよ!ひどすぎんだろうが!」
「いいえ、ただ白黒ハッキリさせたいだけです」

「あの時の状況が俺の車のドライブレコーダーに全て記録されているので、」

「そこまで仰るのなら、皆の前で是非を問う形にして頂いても結構です」
「!!」

淳が握っていた思わぬ証拠に、
健太は思わず頭を抱えた。

しかしまだ彼は足掻き続ける。
「お、お、お、お前どういうことだこらぁ!」

「それは脅迫だぞ?!時計代返してほしいがためにー‥」
「はは、違いますよ。とんでもない」

淳は健太のその言葉を聞いて軽く笑った。
そして視線を遠くに流しながら、含みのあるその言葉を口に出す。
「先輩の望むようにして差し上げますよ」

「良いご選択を」

「お待ちしています」

そう言って淳は健太に背を向けた。
健太は二の句を継げずに、ただその場で立ち尽くす。

淳の背中が小さくなって行くのに反比例して、健太の心の中に混乱の波が押し寄せて来た。
健太は真っ青になりながら、アワアワと一人取り乱す。
「あ‥な‥どう‥な‥」

「なっ‥!!!」

「なぁぁぁぁ!!!」

巨体の男が叫び声を上げるのを、坂の道の上で一人の男がじっと見ていた。
「ざけんなぁぁぁ!!」

「どうすりゃいいんだぁぁ!!」

河村亮は男の姿を見下ろしながら、数分前の出来事を回顧し始める‥。

左手が思うように動かず、志村教授とのレッスンは無言の内に幕を閉じた。
亮の心が重たく沈む。
「‥‥‥‥」

何が原因でどうしてこうなったのか、それに思い至ってもただ絶望は募るばかりだった。
この先どうやって進んで行けば良いのか、その答えは一向に出ない。

頭を抱え何度も首を横に振る亮。
すると視線の端に一人の男の姿が映った。


大きな図体を丸めながら小走りするその人物。
あれは昨日雪のことを押し退け、淳に怪我をさせたあの人物に他ならない‥。

恐らく雪のことを避け、こそこそと逃げ回っているのだろう。
情けないその姿を見て、亮は呆れ返った表情を浮かべた。

沸々と怒りが湧き上がる。
「あんのクソ野郎‥」

「決めた。少なくともあの野郎をブチ殺してから去るぞ、オレは」

亮は怒りにまかせてあの男の後を追った。
しかし男に追いつくかと思われたその時、聞き覚えのある声が亮を止める。
「こんにちは」


淳だった。
そして亮はその場から、二人のやり取りの一部始終を見聞きしていたのだった。
「うわぁぁぁぁ!」

巨体の男は声を上げて逃げて行く。
もう何度、こうやって淳の前から去って行った人間の姿を目にして来ただろう。

行き場のない感情が、亮の胸中をモヤモヤと曇らせて行く。
亮は苦々しい気分で頭を掻きながら、そっとその場から立ち去った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<制裁(2)>でした。
もう‥健太の往生際が悪すぎて‥

人としての器が小さすぎて何も言えねぇ(◯島康介)
そして思い悩む亮さんが切なくも、イケメンに磨きがかかっていて眼福でした。。
次回は<ふいに思う>です。
☆ご注意☆
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半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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