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雪と淳、そして亮と志村教授は、期せずして同席することになった。
この事態の成り行きを黙って見ている亮に対し、雪はジトッとした目で彼を睨む。
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亮は一瞬雪と目を合わせたが、すぐに素知らぬ顔をして目を逸らした。
オレ 知ーらね
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そんな言葉が聞こえて来そうな表情で、プイッと亮はあさっての方向を向く。
雪は開いた口が塞がらないまま、続けて隣に座る淳へと視線を流した。
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淳も一度雪と目を合わすものの、咳払いをしながら目を逸らした。
こちらも知らんぷりと言った態度である。
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亮も淳も、揃って雪と目を合わそうとしない。雪は二人の思惑が分かりかねて頭に疑問符を浮かべた。
この人達‥?!
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犬猿の仲のはずなのに、なぜこの事態を二人は黙って見ているのか。
また二人のいがみ合いに巻き込まれるのかと、雪は頭を抱える。
「うん、やっぱり学食は美味いな!食べながら話でもしようじゃないか」
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雰囲気が混沌とする中、志村教授ただ一人だけは脳天気に料理に舌鼓を打っていた。どうやら学食がお気に入りらしい。
(その横で亮は、教授がお昼を奢ると言ったから付いて来てみれば結局学食かよと言って、密かに睨みを効かせている)
すると、志村教授は斜め前に座る雪に向かって口を開いた。
「あ、前に名刺を渡してくれた学生さんだね?」「あ、はい‥!」
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教授からの質問に頷く雪だったが、亮は頭に疑問符を浮かべた。淳の方を指差し口を開く。
「は?名刺はコイツが‥」
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と、そこまで言いかけた亮だったが、不意に口を噤んだ。
教授から雪に託された名刺が、どういう経緯か分からないが淳に渡ったのだと、亮は無言の内に推測する。
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そして亮はたっぷりと皮肉を込め、淳に向かって礼を述べた。
「へ~へ~。おかげ様で楽しく通ってますぅ~。大学の敷居も跨ぐことが出来ましてぇ!」
「それはそれは、格別なお言葉をどうも」
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すると淳も、慇懃無礼な態度で亮のその皮肉を返した。二人のトゲトゲした空気を感じ、隣で雪が息を飲む。
するとそんな彼等の元に、偶然そこに居合わせた柳楓が声を掛けて来た。
「よぉ~!今日は大学?ここでメシ食ってたんか」
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柳の挨拶に、淳は笑顔で「おう」と返した。
柳はテーブルまでやって来ると、軽い調子で皆に声を掛ける。
「良かったな〜赤山ちゃん!彼氏に会えて!お?お友達?お友達もイケメンだねぇ!」
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いつもと変わらないお調子者の柳。雪はタジタジながら挨拶を返す。
すると柳は淳に向かって、「近い内お礼するから時間空けといて」と言った。
雪はそれがどういう意味か分からず、柳と淳とを交互に見る。
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その視線に気づいた柳は、照れたように頭を掻きながらその意味を雪に説明した。
「今まで沢山助けてもらったからよ。卒業前に一回改めて礼しとこうと思ってさ!」
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柳は大学に入学してからずっと、淳には世話になりっぱなしだったと言った。
母親が病気でバタバタしていた時も家族の様に助けてくれたし、勿論課題や試験でも大いに世話になった、と。
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亮は黙ってそれを聞いていた。雪も初めて聞く柳からの淳の評価を、目を丸くして聞いていた。
柳は親指を立てて見せると、笑顔で雪にこう言った。
「とにかく!赤山ちゃん、こいつ絶対逃すんじゃねーぞ?マジでカッケー奴だからよ!」
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その柳の言葉に、思わず亮は吹き出してしまった。
雪は亮のその態度に、そういうのは止めろと言って睨みを利かす‥。
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やがて柳は淳に「連絡してくれよん」と言ってその場から去って行った。
雪は柳と淳の間にある友情の一片を知って、淳の方を微笑みながら見つめている。
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しかしふと前方から視線を感じて、雪は目の前に座る亮の方を見た。
亮は暫し雪と目を合わせていたが、やがて面白くなさそうにその視線を逸らした。
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その意味が良く分からず固まる雪の前で、
亮は教授から「このまま食べるだけ食べて帰ったらただじゃおかない」と圧力を掛けられていた。
亮は「んなことしねーって」と言いながらもタジタジだ。
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淳は通り掛かる学生達から、しきりに声を掛けられている。
後輩も同期も男子も女子も、皆が淳に向かって頭を下げたり手を振ったり、挨拶を口にして去って行った。
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そんな学生達の様子を見て、志村教授は感心したように淳に声を掛ける。
「ほぉ‥亮の友達は人気があるんだねぇ。人望が厚いようだ」
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教授は学生達の挨拶と先ほどの柳からの言葉を踏まえて、淳をそのように評価した。
笑顔で謙遜する淳に、教授は一つ頼み事をする。
「お友達からも言ってくれないかな。もっと真剣にピアノ弾けって。最近心ここにあらずで全然‥」
「あー!何言ってんすかマジで!」
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亮は動揺しながら教授の口をその手で塞いだ。
気心の知れた仲のようなやり取りをするそんな二人を、淳は口元に笑みを湛えたまま眺めている。
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そして淳は、「熱心に取り組んでいるんじゃないんですか」と教授に向かって質問した。
教授は言葉を濁しながらも、自分なりに精一杯やらせてあげたいのに、とその心を口にする。
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その言葉を聞いた淳は、教授に向かってこう言った。
「そうなのですか。ピアノがそんなに好きなのに‥せっかくのチャンスなのに」
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教授は淳の言葉に頷き、「残念でならない」と言って溜息を吐いた。
亮は目の前で淳と教授にダメ出しされ、白目になって淳に向かって反論する。
「ほっとけっつーの!」
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すると淳が、亮に向かって口を開いた。ニッコリと微笑みながら。
「亮、頑張れよ」
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それは人望が厚く人気者で優等生の、彼の表の顔だった。
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<彼の表>でした。
タイトル通り、先輩の「表」が色濃く現れた回だったのではないでしょうか。
皆から挨拶を交わされ、友人からはその厚い友情をほのめかされ。
初対面の教授が淳を褒めたのも、決して過大評価では無いです。”青田淳”という人間の、表向きの顔は完璧ですから‥。
そして事態はだんだんと淳の心を捲って行きます‥。
次回は<限界点>です。
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お亮さんもさーせっかく金出してもらってピアノ再開したのに身が入らないってダメですよ
努力することも才能ですから
よく努力したらとかありますがそもそも努力する才能が伴わなければ幻影と一緒ですよ
私は基本やっぱり淳派なので、前回~次回の先輩の件は見るに耐えないです。はぁ。辛いっす。
本当、柳は良い男ですよ‥!
ちょっと状況に流されやすいところはありますが、そこも世渡り上手な証拠です。
淳が普通に心を開けるなら、もっと良い友人同士になっていたでしょうにね‥。
^^さん
韓国からありがとうございます!
日本語伝わってますよ!「ウィ大使」というのは多分「台詞」というところが誤訳になっちゃったかな?と思いますが、それ以外は大丈夫です!
おー!ソルはインホの気持ちに少し気づいちゃいましたか!確かに先の展開も踏まえて考えると、微かに感づいているという感じですね‥!
ユジョンとインホの友情関係と、ギョンファンとユジョンの友情関係の比較も面白いですね!
また遊びにいらして下さい♪
うん...私はこちらでホンソルイ自分に対するインホの態度の変化を少し気がついたと思いました。
ホンソルウィ大使が(・・・)であるのもそうだし、
何かを知ってしまったというような意味深長な表情なのも..
そして金ギョンファンを登場させたことも‥
まだも油井を親友だと言うインホ。
現在、油井の友達の金ギョンファン。
しかし、インホは友達がないと言う遺精
過去と現実の乖離...そんなのが感じられたといい思います。
もちろん、個人的な考えであるだけです^^
いつもよく見ています。ありがとうございます。
コメントを書いたことがありますが・・・
このエピソードから柳が時々淳を疲れさせるのは
淳の自業自得だな、と思いました。