淳はあることを思い出していた。
記憶の始まりは平井和美との出会いに遡る。
彼女と出会ったのは、彼女が大学に合格し、淳が休学する少し前だった。

首席で入学したという彼女に挨拶をすると、頬を染めて黙り込んだ。

それから、時間は二年間飛ぶ。
次に彼女と言葉を交わした時、彼女は二年生になっていた。

成績も上位を維持し、首席カップルと周りからからかわれることもあった。
彼女が隣りに居ると他の女後輩や新入生が寄ってこないということは、ありがたかった。

そんな折、平井から今回の学年首席は赤山雪という後輩だったと聞かされる。

周りの人間が話す赤山の評判は、良いものが多かった。
淳にとってはどうでも良い存在だったが、彼女についての意見を求められると、適当に褒めることもあった。
「礼儀正しいし性格も明るいし、要領も良いみたいだな」

ある日、平井和美がポツリとつぶやいた。
「あたし、赤山さんってそんな言うほどすごいとは思わないなぁ‥」

「すごい?」
尚も平井は赤山についての見解を続ける。

皆が口をそろえて誉めそやすが、自分にはどこが良いのかサッパリわからない、
性格も謎だし、服装もダサい。
いつも疲れきってる顔をしてるから、見てるこっちが憂鬱になってくる‥。
平井の口は止まらなかった。後から後から赤山についての不満が口をついて出る。
淳は苦笑いを浮かべた。

「単にみんなはあの子の長所を少し褒めただけだろう?
それが納得いかないからって、そうやたら非難するのは良くないよ」

淳は、平井のそういった態度から、むしろ平井の方が悪印象に見えるようになるよと軽い注意をした。
平井の顔は強ばっていた。

淳は、平井和美が赤山雪に嫌悪感と劣等感を持っていることを知った。

「平井」、と淳は和美を呼び止めた。
「今度のTOEICの自主ゼミの件だけど、皆に俺が君のゼミに参加するって言ったんだって?」

和美は慌てた。
「すいません、先輩が来るかもしれないって言っただけなのに、
みんなそれを絶対来るもんだと誤解しちゃったみたいで‥」

和美の表情は沈んでいた。
淳は続ける。
「横山から雪ちゃん以外の女子はみんな、俺が平井のゼミに行くと思ってるって聞いてさ。
あとで何かあっても困るし、ちゃんと話しといてくれよな」

和美の顔に猜疑心が浮かんだ。
「ってことは‥佐藤先輩のゼミには、赤山さんもいるってことですか?」

「ああ」
淳は微笑んだ。
その後、度々二人が言い争う場面を見かけた。


赤山を呼び止めて優しい言葉を掛けるたびに、


彼女の表情が歪んでいくのが、

手に取るように分かった。

そして赤山が振り回されていくのを、

ただ見ているだけでよかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

淳の手のひらに、複数のボールが乗っているイメージを持ってほしい。
ボールには名前が付けられている。
平井和美、横山翔、柳瀬健太‥
指先の向く先に、ある人物が居るとする。
例えば自分を嘲笑った後輩。
自分が受けた屈辱と同じ災難を受けされるにはどうすればいいだろうか?
答えは簡単。
一歩も動かずとも、
表情を変えなくとも、
手のひらをほんの少し傾けるだけで、
ボールは転がっていく。
ボーリングのピンのように、倒れるのを見ているだけ。
倒れたピンは、自分を攻撃したボールを見て憤慨するだろう。
その先の自分は一歩も動いていないのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳>手のひらの上の災難、でした。
最後のモノローグは完全私の解釈ですので、そう思って読んで頂ければ幸いです。
平井和美を巻き込んで、淳と雪の水面下の攻防が始まりましたね。
雪が淳の不信について「自分の気のせいか?」と何かと謙虚に思い直すので、
読者としてはもどかしいですね。
さて、次回は淳と雪の間により大きな溝が出来ます。
それは雪の何気ない一言から始まるのですが‥。
では!
記憶の始まりは平井和美との出会いに遡る。
彼女と出会ったのは、彼女が大学に合格し、淳が休学する少し前だった。

首席で入学したという彼女に挨拶をすると、頬を染めて黙り込んだ。

それから、時間は二年間飛ぶ。
次に彼女と言葉を交わした時、彼女は二年生になっていた。

成績も上位を維持し、首席カップルと周りからからかわれることもあった。
彼女が隣りに居ると他の女後輩や新入生が寄ってこないということは、ありがたかった。

そんな折、平井から今回の学年首席は赤山雪という後輩だったと聞かされる。

周りの人間が話す赤山の評判は、良いものが多かった。
淳にとってはどうでも良い存在だったが、彼女についての意見を求められると、適当に褒めることもあった。
「礼儀正しいし性格も明るいし、要領も良いみたいだな」

ある日、平井和美がポツリとつぶやいた。
「あたし、赤山さんってそんな言うほどすごいとは思わないなぁ‥」

「すごい?」
尚も平井は赤山についての見解を続ける。

皆が口をそろえて誉めそやすが、自分にはどこが良いのかサッパリわからない、
性格も謎だし、服装もダサい。
いつも疲れきってる顔をしてるから、見てるこっちが憂鬱になってくる‥。
平井の口は止まらなかった。後から後から赤山についての不満が口をついて出る。
淳は苦笑いを浮かべた。

「単にみんなはあの子の長所を少し褒めただけだろう?
それが納得いかないからって、そうやたら非難するのは良くないよ」

淳は、平井のそういった態度から、むしろ平井の方が悪印象に見えるようになるよと軽い注意をした。
平井の顔は強ばっていた。

淳は、平井和美が赤山雪に嫌悪感と劣等感を持っていることを知った。

「平井」、と淳は和美を呼び止めた。
「今度のTOEICの自主ゼミの件だけど、皆に俺が君のゼミに参加するって言ったんだって?」

和美は慌てた。
「すいません、先輩が来るかもしれないって言っただけなのに、
みんなそれを絶対来るもんだと誤解しちゃったみたいで‥」

和美の表情は沈んでいた。
淳は続ける。
「横山から雪ちゃん以外の女子はみんな、俺が平井のゼミに行くと思ってるって聞いてさ。
あとで何かあっても困るし、ちゃんと話しといてくれよな」

和美の顔に猜疑心が浮かんだ。
「ってことは‥佐藤先輩のゼミには、赤山さんもいるってことですか?」

「ああ」
淳は微笑んだ。
その後、度々二人が言い争う場面を見かけた。


赤山を呼び止めて優しい言葉を掛けるたびに、


彼女の表情が歪んでいくのが、

手に取るように分かった。

そして赤山が振り回されていくのを、

ただ見ているだけでよかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

淳の手のひらに、複数のボールが乗っているイメージを持ってほしい。
ボールには名前が付けられている。
平井和美、横山翔、柳瀬健太‥
指先の向く先に、ある人物が居るとする。
例えば自分を嘲笑った後輩。
自分が受けた屈辱と同じ災難を受けされるにはどうすればいいだろうか?
答えは簡単。
一歩も動かずとも、
表情を変えなくとも、
手のひらをほんの少し傾けるだけで、
ボールは転がっていく。
ボーリングのピンのように、倒れるのを見ているだけ。
倒れたピンは、自分を攻撃したボールを見て憤慨するだろう。
その先の自分は一歩も動いていないのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳>手のひらの上の災難、でした。
最後のモノローグは完全私の解釈ですので、そう思って読んで頂ければ幸いです。
平井和美を巻き込んで、淳と雪の水面下の攻防が始まりましたね。
雪が淳の不信について「自分の気のせいか?」と何かと謙虚に思い直すので、
読者としてはもどかしいですね。
さて、次回は淳と雪の間により大きな溝が出来ます。
それは雪の何気ない一言から始まるのですが‥。
では!
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