「うわっ‥先輩!!」

雪は思わず声を上げた。
傷ついた彼の手から、だんだんと血が滲んで来ている。
その血を見て、今まで固まっていた健太も遂に口を開いた。
「ひぃっ!血が!だだだだ大丈夫か?!」

「後にして下さい!」

しかし雪は厳しい口調でそう言って、健太の介入を許さなかった。
「先輩、怪我してるんです。とりあえず病院行くんで、後で話しましょう」
「え?いやその‥あ‥おぉ。いや‥」

健太はタジタジと狼狽えながら、一応「俺が連れて行こうか‥?」と聞くも、
「結構です。後で連絡しますので」

と雪にバッサリと断られ、ただその場に立ち竦むことしか出来なかった。
「本当に大丈夫ですか?ちょっと見せて下さい」「おいおいおいおいおい!」

すると向こう側から、柳楓と佐藤広隆がこちらに向かってバタバタと駆けて来た。
柳は淳のケガを見て、目を剥きながら憤慨する。
「ぎゃっ!血が!おい、早く病院連れてけ!」「はい、今行くところで‥」
「マジでありえねぇ!!」「キャアアアッ!」

すると今度は聡美と太一が駆けつけ、先程起こった出来事に対して大騒ぎを始めた。
「おいアンタなぁ!絶対何かやらかすと思ってたよ!」
「ああもう!あたしも一緒に行けば良かった!雪、大丈夫?!先輩大丈夫ですか?!」
「うん、大丈夫」「聡美、とりあえず先行くわ」「うん、うん!」
「福井、車のドアを閉めといてくれないか?」「ハイ!」

聡美は厳しい形相で、健太の方を振り返る。
「結局血を見る結果かよ!」

文句を言う柳を押しのけ、聡美は健太をポカポカと叩きながらその巨体を叱責した。
「もうっ!またですか?!またやらかしたんですかっ?!
もう!いい加減にしてよ!この極悪人!」「いやその‥」


すると太一は聡美の手を掴み、幾分強引に健太から彼女を引き離す。
「ええ?!何よ?!離してよ、ちょっと!ねぇ!」

健太は何も言うことが出来ないまま、真っ青になって俯いた。
突然巻き起こったこの事態に、未だ頭がついていかない。
「あ‥くそっ‥」

だんだんと小さくなる、青田淳と赤山雪の背中。
健太は呆然と二人を眺めながら、こう口にするのがせいぜいだった。
「やべー‥」

そして二人は寄り添いながら、病院を目指してゆっくりと進む。
「せ、先輩、大丈夫ですか?」

雪は自身のセーターの裾で彼の手を包みながら、辺りを見回している。
「早く大学病院に‥」
「雪ちゃん、雪ちゃん、落ち着いて」

遠くで健太を責める皆の声がしていた。お前らには関係ないだろという健太の言葉も。
けれど雪の耳には何一つ入って来ない。早く大学病院に行かなければと、ただそれだけが彼女を支配する。
しかしそんな雪とは対照的に、彼は至極冷静だった。
「病院‥病院‥!」
「大学病院にまで行く必要は無いよ。血が沢山出てるから深刻に見えるだけ。
寒いから服捲るの止めな」

彼はそう言って、雪の手から自身の手を外した。
いつものように微笑みながら、雪に向かって声を掛ける。
「俺は大丈夫だから」


じわりと、彼女の目から涙が滲む音が、今微かに聞こえた気がした。
淳は目を丸くしながら、そんな彼女の瞳を見つめる。

そしてケガの無い左手を、彼女の瞳に向かって伸ばした。
その指先に、彼女の心の欠片が触れる‥。

‥と思われたのだが、次の瞬間雪は、彼の傷ついた右手の手首を凝視して声を上げた。
「あっ!これもダメになっちゃってるじゃん!!」

雪の視線の先には、彼が付けている腕時計があった。ガラス部分が割れている。
「手首にガラス刺さってませんか?!」


そのヒビの入った腕時計を見た時、彼の目が諦めに近い色を帯びて沈んだ。
けれど彼はすぐに平静を取り戻し、狼狽える彼女に向かって優しく声を掛ける。
「大丈夫。刺さってないよ。今日は雪ちゃんがくれた時計をしてなかったのが幸いだったな」
「でもこれ‥先輩のお母さんからのプレゼントじゃなかったですか?」

「ど‥どうしよ‥」
「これ、外してポケットに入れてくれる?」「は、はい!」

彼が大切にしていたその時計を、雪はゆっくりと外して彼のポケットに入れた。
未だに向こうでは、健太を責める皆の声が聞こえる。
「それじゃ一旦保健室へ急ぎましょう。この近くだから‥」

そう言いながら、雪が後ろを振り返った時だった。
そこに佇む、彼の姿が見えたのは。

河村亮が、こちらを見ながらその場に立ち尽くしている。
雪は亮の方を見ながら、思わず目を丸くした‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<滲>でした。
泣きそうな顔で先輩を見上げる雪の表情が印象的でした。
先輩の「泣いてる?泣いてる?」攻撃はおあずけでしたが‥。
そして先輩のブルガリの時計、壊れちゃいましたね。それでも雪がくれた時計が壊れてたら‥と思うと、
健太の行く末が恐ろしすぎるのでちょっとホッとしたような‥残念なような‥
次回は<呪縛>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
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雪は思わず声を上げた。
傷ついた彼の手から、だんだんと血が滲んで来ている。
その血を見て、今まで固まっていた健太も遂に口を開いた。
「ひぃっ!血が!だだだだ大丈夫か?!」

「後にして下さい!」

しかし雪は厳しい口調でそう言って、健太の介入を許さなかった。
「先輩、怪我してるんです。とりあえず病院行くんで、後で話しましょう」
「え?いやその‥あ‥おぉ。いや‥」

健太はタジタジと狼狽えながら、一応「俺が連れて行こうか‥?」と聞くも、
「結構です。後で連絡しますので」

と雪にバッサリと断られ、ただその場に立ち竦むことしか出来なかった。
「本当に大丈夫ですか?ちょっと見せて下さい」「おいおいおいおいおい!」

すると向こう側から、柳楓と佐藤広隆がこちらに向かってバタバタと駆けて来た。
柳は淳のケガを見て、目を剥きながら憤慨する。
「ぎゃっ!血が!おい、早く病院連れてけ!」「はい、今行くところで‥」
「マジでありえねぇ!!」「キャアアアッ!」

すると今度は聡美と太一が駆けつけ、先程起こった出来事に対して大騒ぎを始めた。
「おいアンタなぁ!絶対何かやらかすと思ってたよ!」
「ああもう!あたしも一緒に行けば良かった!雪、大丈夫?!先輩大丈夫ですか?!」
「うん、大丈夫」「聡美、とりあえず先行くわ」「うん、うん!」
「福井、車のドアを閉めといてくれないか?」「ハイ!」

聡美は厳しい形相で、健太の方を振り返る。
「結局血を見る結果かよ!」

文句を言う柳を押しのけ、聡美は健太をポカポカと叩きながらその巨体を叱責した。
「もうっ!またですか?!またやらかしたんですかっ?!
もう!いい加減にしてよ!この極悪人!」「いやその‥」


すると太一は聡美の手を掴み、幾分強引に健太から彼女を引き離す。
「ええ?!何よ?!離してよ、ちょっと!ねぇ!」

健太は何も言うことが出来ないまま、真っ青になって俯いた。
突然巻き起こったこの事態に、未だ頭がついていかない。
「あ‥くそっ‥」

だんだんと小さくなる、青田淳と赤山雪の背中。
健太は呆然と二人を眺めながら、こう口にするのがせいぜいだった。
「やべー‥」

そして二人は寄り添いながら、病院を目指してゆっくりと進む。
「せ、先輩、大丈夫ですか?」

雪は自身のセーターの裾で彼の手を包みながら、辺りを見回している。
「早く大学病院に‥」
「雪ちゃん、雪ちゃん、落ち着いて」

遠くで健太を責める皆の声がしていた。お前らには関係ないだろという健太の言葉も。
けれど雪の耳には何一つ入って来ない。早く大学病院に行かなければと、ただそれだけが彼女を支配する。
しかしそんな雪とは対照的に、彼は至極冷静だった。
「病院‥病院‥!」
「大学病院にまで行く必要は無いよ。血が沢山出てるから深刻に見えるだけ。
寒いから服捲るの止めな」

彼はそう言って、雪の手から自身の手を外した。
いつものように微笑みながら、雪に向かって声を掛ける。
「俺は大丈夫だから」


じわりと、彼女の目から涙が滲む音が、今微かに聞こえた気がした。
淳は目を丸くしながら、そんな彼女の瞳を見つめる。

そしてケガの無い左手を、彼女の瞳に向かって伸ばした。
その指先に、彼女の心の欠片が触れる‥。

‥と思われたのだが、次の瞬間雪は、彼の傷ついた右手の手首を凝視して声を上げた。
「あっ!これもダメになっちゃってるじゃん!!」

雪の視線の先には、彼が付けている腕時計があった。ガラス部分が割れている。
「手首にガラス刺さってませんか?!」


そのヒビの入った腕時計を見た時、彼の目が諦めに近い色を帯びて沈んだ。
けれど彼はすぐに平静を取り戻し、狼狽える彼女に向かって優しく声を掛ける。
「大丈夫。刺さってないよ。今日は雪ちゃんがくれた時計をしてなかったのが幸いだったな」
「でもこれ‥先輩のお母さんからのプレゼントじゃなかったですか?」

「ど‥どうしよ‥」
「これ、外してポケットに入れてくれる?」「は、はい!」

彼が大切にしていたその時計を、雪はゆっくりと外して彼のポケットに入れた。
未だに向こうでは、健太を責める皆の声が聞こえる。
「それじゃ一旦保健室へ急ぎましょう。この近くだから‥」

そう言いながら、雪が後ろを振り返った時だった。
そこに佇む、彼の姿が見えたのは。

河村亮が、こちらを見ながらその場に立ち尽くしている。
雪は亮の方を見ながら、思わず目を丸くした‥。

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<滲>でした。
泣きそうな顔で先輩を見上げる雪の表情が印象的でした。
先輩の「泣いてる?泣いてる?」攻撃はおあずけでしたが‥。
そして先輩のブルガリの時計、壊れちゃいましたね。それでも雪がくれた時計が壊れてたら‥と思うと、
健太の行く末が恐ろしすぎるのでちょっとホッとしたような‥残念なような‥
次回は<呪縛>です。
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