青田淳にメールを打ち終わった後、佐藤広隆は二人に向き直ってこう質問した。
「ところで、どうしていきなり二人で勉強を?」
その問いを受けて、静香は甘え口調で話し出す。
「広隆ぁ〜あたし脅迫され‥」
「静香さんってば今度こそ本気で勉強したいからって!
だから学校に来てって誘ったんです〜!で す よ ね〜?」「ウ、ウン‥」
凄い形相で同意を迫る雪に押されて、
静香は自身の置かれている状況を今一度思い出し、ようやくそれに乗っかった。
「そ、そうなのよ〜!勉強するって決めたのぉ〜!」
「あ‥そうなんだ‥仲良いんだね」
「仏頂面禁止!こっちがしたいっつーの」「は‥」
けれど二人共本心ではやはり相容れない関係のようだ。
やがて雪は佐藤に促され、帰宅する運びとなった。
「先帰りなよ」
「ほ、本当にありがとうございます」
出る準備をした後、静香の耳元で雪が囁いた。
「全部解き終わったらそれを写メして下さい。
さもなければ‥」
ニッコリ
笑顔で釘を刺す雪に、屈辱に悶ながら叫ぶ静香。
佐藤はただオロオロと彼女たちのやり取りに翻弄されている。
「ありがとうございます〜!」「うわあああー!アイツブチコロスゥゥゥ!!」
そして佐藤と静香は、二人でテキストに向かうことになった。
観念する静香のその横顔を、佐藤は咳払いをしながら嬉しそうに見つめている。
時間は刻々と過ぎて行った。
「はいコーヒー」「サンキュー」
「この基本原理は‥」
「広隆ぁ〜あたし頭痛ーい。頭痛‥」「ただ分かんないだけだろ!」
「あああ〜」「ちょ、ちょっと待って」
自由奔放に振る舞う静香に、やはり振り回される佐藤。
頭が痛いと言う彼女の為に、ダッシュで薬局に行ってきたようだ。
「ほら、頭痛薬‥はーはー」「サンキュ。でも後で飲むわね!」
「もう一度見てごらん。
ここの基本原理は‥」
時計を見ると、勉強を始めてから一時間が経過していた。
「ううーん‥」
「広隆ぁ〜」「ダ メ!」
甘えるような口調な静香に、今度こそ振り回されまいと佐藤は強くそう言い切った。
静香は唇を尖らせながら、頑なな態度の佐藤のほっぺたを突っつく。
「え〜?まだ何も言ってないわよぉ」
「もう何も聞かないからな!勉強しなさい!」
つれない態度の佐藤に、静香は溜息を吐いて愚痴をこぼした。
「だってぇ〜勉強も休憩しながらじゃないとぉ〜」
「君が赤山からどう言われてるのか、何か理由があるんだろうけど、大体見当はつくけどね」
「なにはともあれ、勉強するってことは良いことだよ。さ、早くページを進めよう」
結局佐藤も雪側の意見という結論に、静香は憤慨して立ち上がった。
「ちょっと!だからってアンタまであたしにこんなこと!アンタに何の関係が‥!」
「それじゃ赤山に連絡しても良いんだな?」
「いやそれはちょっと‥」
「だったら勉強しよう」
「まだ一章目も終わってないよ。俺のタブレットPC貸そうか?」「広隆ぁ‥」
あくまで勉強を進めようとする佐藤に、静香は溜息を吐いて甘えを零した。
しかし佐藤の視線は、彼女自身にではなく彼女の持ち物に注がれている。
「なんでこんなに冷たいの?あたし達一緒にお酒飲んだ仲じゃん?ねー?」
ブランド物の薄手のバッグ、そして机の上に開かれた電算会計のテキスト。
どれも、彼女の本心とは違う気がした。
「ところで‥ずっと考えてたんだけど」「え?」
「君は美術を学びたいから、この大学にモグリにまで来たんだろ?
けどいきなり授業に来なくなって、今更電算会計の勉強を始めて‥」「あ‥」
佐藤から切り出されたその話を、静香はのらりくらりと交わす。
「まぁそれは色々事情がさぁー‥」
けれど佐藤はそれを流さなかった。
真っ直ぐに正直に、その正論を静香に向かって突き付ける。
「俺には、君がしたいことを突き詰める切実さが足りないように思えるよ」
「本気で何かしたいって人は、君のようには行動しない」
静香は目を丸くしながら、佐藤の話を聞いていた。
そしてその意味を理解するにしたがって、心がカッと熱くなる。
自分はもう飛べない鳥なのだと、古傷を抉られている様な気がしてー‥。
「は?!何なのよ!」
静香は力任せに机の上に置いてあったノートをその場に投げつけた。
そのままコートを羽織り、佐藤に背を向ける。
「もういい。帰る」「帰るの?」
「一人でやるわよ!マジでもう付き合ってらんない‥」「じゃあ赤山に連絡‥」
ブルブル‥
けれど佐藤のその一言が静香を止めた。
静香は引き攣った笑顔を浮かべながら、もう一度彼の方を振り返る。
「広隆ぁ〜?アンタそんな子じゃなかったじゃん?
どうしてこうなっちゃったのかな〜?」
佐藤はそれには返答せず、淡々とペンでテキストに線を引いていた。
そしてマークした所を、静香に見えやすいように見せてやる。
「ここからここまで」
「ここの部分の既出問題解いてみて。分かんなかったら聞いて。座りなよ」
「‥‥‥‥」
佐藤はそれ以上静香を責めるでもなく、罵倒するでもなく、ただもう一度静香に向き合った。
静香は何も言えないまま、逆に翻弄されている今の状況を受け入れるしかない。
「分かったわよ!」
静香は再び、佐藤の隣に腰を下ろした。
仏頂面でテキストに向かうそんな彼女の横顔を、佐藤は嬉しそうに見つめている‥。
家に帰ってから、雪は静香にメールを送った。
明日も来て下さいね
静香からすぐに返信があった。
Shit!!
安定のクソ呼ばわり‥。
なんだかもう腹が立つのを通り越した雪は、ふぅと息を吐いてそのやり取りを終わらせた。
とにかく、と考えを明日に向かわせる。
とりあえず今日は上手くいったぞ。明日の試験も頑張ろ
雪はそう思いながら、ううんと伸びをした。
試験という荒波を、この羽で飛び越えていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<飛べない鳥>でした。
佐藤先輩と静香、良い感じですね〜〜^^
心から静香を心配してるからこその正論、胸に響きました。こんなに静香に向き合ってくれる人、
今までいなかったんじゃないのかなぁ。雪にしても佐藤先輩にしても、静香にとってのキーパーソンになりそうですね。
そして気になったのはこのコマ↓
佐藤先輩のセリフが抜けている‥。何だったんでしょうね^^;
次回は<看過の代償>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「ところで、どうしていきなり二人で勉強を?」
その問いを受けて、静香は甘え口調で話し出す。
「広隆ぁ〜あたし脅迫され‥」
「静香さんってば今度こそ本気で勉強したいからって!
だから学校に来てって誘ったんです〜!で す よ ね〜?」「ウ、ウン‥」
凄い形相で同意を迫る雪に押されて、
静香は自身の置かれている状況を今一度思い出し、ようやくそれに乗っかった。
「そ、そうなのよ〜!勉強するって決めたのぉ〜!」
「あ‥そうなんだ‥仲良いんだね」
「仏頂面禁止!こっちがしたいっつーの」「は‥」
けれど二人共本心ではやはり相容れない関係のようだ。
やがて雪は佐藤に促され、帰宅する運びとなった。
「先帰りなよ」
「ほ、本当にありがとうございます」
出る準備をした後、静香の耳元で雪が囁いた。
「全部解き終わったらそれを写メして下さい。
さもなければ‥」
ニッコリ
笑顔で釘を刺す雪に、屈辱に悶ながら叫ぶ静香。
佐藤はただオロオロと彼女たちのやり取りに翻弄されている。
「ありがとうございます〜!」「うわあああー!アイツブチコロスゥゥゥ!!」
そして佐藤と静香は、二人でテキストに向かうことになった。
観念する静香のその横顔を、佐藤は咳払いをしながら嬉しそうに見つめている。
時間は刻々と過ぎて行った。
「はいコーヒー」「サンキュー」
「この基本原理は‥」
「広隆ぁ〜あたし頭痛ーい。頭痛‥」「ただ分かんないだけだろ!」
「あああ〜」「ちょ、ちょっと待って」
自由奔放に振る舞う静香に、やはり振り回される佐藤。
頭が痛いと言う彼女の為に、ダッシュで薬局に行ってきたようだ。
「ほら、頭痛薬‥はーはー」「サンキュ。でも後で飲むわね!」
「もう一度見てごらん。
ここの基本原理は‥」
時計を見ると、勉強を始めてから一時間が経過していた。
「ううーん‥」
「広隆ぁ〜」「ダ メ!」
甘えるような口調な静香に、今度こそ振り回されまいと佐藤は強くそう言い切った。
静香は唇を尖らせながら、頑なな態度の佐藤のほっぺたを突っつく。
「え〜?まだ何も言ってないわよぉ」
「もう何も聞かないからな!勉強しなさい!」
つれない態度の佐藤に、静香は溜息を吐いて愚痴をこぼした。
「だってぇ〜勉強も休憩しながらじゃないとぉ〜」
「君が赤山からどう言われてるのか、何か理由があるんだろうけど、大体見当はつくけどね」
「なにはともあれ、勉強するってことは良いことだよ。さ、早くページを進めよう」
結局佐藤も雪側の意見という結論に、静香は憤慨して立ち上がった。
「ちょっと!だからってアンタまであたしにこんなこと!アンタに何の関係が‥!」
「それじゃ赤山に連絡しても良いんだな?」
「いやそれはちょっと‥」
「だったら勉強しよう」
「まだ一章目も終わってないよ。俺のタブレットPC貸そうか?」「広隆ぁ‥」
あくまで勉強を進めようとする佐藤に、静香は溜息を吐いて甘えを零した。
しかし佐藤の視線は、彼女自身にではなく彼女の持ち物に注がれている。
「なんでこんなに冷たいの?あたし達一緒にお酒飲んだ仲じゃん?ねー?」
ブランド物の薄手のバッグ、そして机の上に開かれた電算会計のテキスト。
どれも、彼女の本心とは違う気がした。
「ところで‥ずっと考えてたんだけど」「え?」
「君は美術を学びたいから、この大学にモグリにまで来たんだろ?
けどいきなり授業に来なくなって、今更電算会計の勉強を始めて‥」「あ‥」
佐藤から切り出されたその話を、静香はのらりくらりと交わす。
「まぁそれは色々事情がさぁー‥」
けれど佐藤はそれを流さなかった。
真っ直ぐに正直に、その正論を静香に向かって突き付ける。
「俺には、君がしたいことを突き詰める切実さが足りないように思えるよ」
「本気で何かしたいって人は、君のようには行動しない」
静香は目を丸くしながら、佐藤の話を聞いていた。
そしてその意味を理解するにしたがって、心がカッと熱くなる。
自分はもう飛べない鳥なのだと、古傷を抉られている様な気がしてー‥。
「は?!何なのよ!」
静香は力任せに机の上に置いてあったノートをその場に投げつけた。
そのままコートを羽織り、佐藤に背を向ける。
「もういい。帰る」「帰るの?」
「一人でやるわよ!マジでもう付き合ってらんない‥」「じゃあ赤山に連絡‥」
ブルブル‥
けれど佐藤のその一言が静香を止めた。
静香は引き攣った笑顔を浮かべながら、もう一度彼の方を振り返る。
「広隆ぁ〜?アンタそんな子じゃなかったじゃん?
どうしてこうなっちゃったのかな〜?」
佐藤はそれには返答せず、淡々とペンでテキストに線を引いていた。
そしてマークした所を、静香に見えやすいように見せてやる。
「ここからここまで」
「ここの部分の既出問題解いてみて。分かんなかったら聞いて。座りなよ」
「‥‥‥‥」
佐藤はそれ以上静香を責めるでもなく、罵倒するでもなく、ただもう一度静香に向き合った。
静香は何も言えないまま、逆に翻弄されている今の状況を受け入れるしかない。
「分かったわよ!」
静香は再び、佐藤の隣に腰を下ろした。
仏頂面でテキストに向かうそんな彼女の横顔を、佐藤は嬉しそうに見つめている‥。
家に帰ってから、雪は静香にメールを送った。
明日も来て下さいね
静香からすぐに返信があった。
Shit!!
安定のクソ呼ばわり‥。
なんだかもう腹が立つのを通り越した雪は、ふぅと息を吐いてそのやり取りを終わらせた。
とにかく、と考えを明日に向かわせる。
とりあえず今日は上手くいったぞ。明日の試験も頑張ろ
雪はそう思いながら、ううんと伸びをした。
試験という荒波を、この羽で飛び越えていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<飛べない鳥>でした。
佐藤先輩と静香、良い感じですね〜〜^^
心から静香を心配してるからこその正論、胸に響きました。こんなに静香に向き合ってくれる人、
今までいなかったんじゃないのかなぁ。雪にしても佐藤先輩にしても、静香にとってのキーパーソンになりそうですね。
そして気になったのはこのコマ↓
佐藤先輩のセリフが抜けている‥。何だったんでしょうね^^;
次回は<看過の代償>です。
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