Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

飛べない鳥

2016-12-10 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
青田淳にメールを打ち終わった後、佐藤広隆は二人に向き直ってこう質問した。

「ところで、どうしていきなり二人で勉強を?」



その問いを受けて、静香は甘え口調で話し出す。

「広隆ぁ〜あたし脅迫され‥」

「静香さんってば今度こそ本気で勉強したいからって!

だから学校に来てって誘ったんです〜!で す よ ね〜?」
「ウ、ウン‥」



凄い形相で同意を迫る雪に押されて、

静香は自身の置かれている状況を今一度思い出し、ようやくそれに乗っかった。

「そ、そうなのよ〜!勉強するって決めたのぉ〜!」

「あ‥そうなんだ‥仲良いんだね」



「仏頂面禁止!こっちがしたいっつーの「は‥」



けれど二人共本心ではやはり相容れない関係のようだ。

やがて雪は佐藤に促され、帰宅する運びとなった。

「先帰りなよ」

「ほ、本当にありがとうございます」



出る準備をした後、静香の耳元で雪が囁いた。

「全部解き終わったらそれを写メして下さい。

さもなければ‥」




ニッコリ



笑顔で釘を刺す雪に、屈辱に悶ながら叫ぶ静香。

佐藤はただオロオロと彼女たちのやり取りに翻弄されている。

「ありがとうございます〜!」「うわあああー!アイツブチコロスゥゥゥ!!」



そして佐藤と静香は、二人でテキストに向かうことになった。



観念する静香のその横顔を、佐藤は咳払いをしながら嬉しそうに見つめている。







時間は刻々と過ぎて行った。

「はいコーヒー」「サンキュー」



「この基本原理は‥」



「広隆ぁ〜あたし頭痛ーい。頭痛‥」「ただ分かんないだけだろ!」



「あああ〜」「ちょ、ちょっと待って」



自由奔放に振る舞う静香に、やはり振り回される佐藤。

頭が痛いと言う彼女の為に、ダッシュで薬局に行ってきたようだ。

「ほら、頭痛薬‥はーはー「サンキュ。でも後で飲むわね!」



「もう一度見てごらん。

ここの基本原理は‥」








時計を見ると、勉強を始めてから一時間が経過していた。

「ううーん‥」



「広隆ぁ〜」「ダ メ!」



甘えるような口調な静香に、今度こそ振り回されまいと佐藤は強くそう言い切った。

静香は唇を尖らせながら、頑なな態度の佐藤のほっぺたを突っつく。

「え〜?まだ何も言ってないわよぉ」

「もう何も聞かないからな!勉強しなさい!」



つれない態度の佐藤に、静香は溜息を吐いて愚痴をこぼした。

「だってぇ〜勉強も休憩しながらじゃないとぉ〜」

「君が赤山からどう言われてるのか、何か理由があるんだろうけど、大体見当はつくけどね



「なにはともあれ、勉強するってことは良いことだよ。さ、早くページを進めよう」



結局佐藤も雪側の意見という結論に、静香は憤慨して立ち上がった。

「ちょっと!だからってアンタまであたしにこんなこと!アンタに何の関係が‥!」

「それじゃ赤山に連絡しても良いんだな?」



「いやそれはちょっと‥」

「だったら勉強しよう」



「まだ一章目も終わってないよ。俺のタブレットPC貸そうか?」「広隆ぁ‥」



あくまで勉強を進めようとする佐藤に、静香は溜息を吐いて甘えを零した。

しかし佐藤の視線は、彼女自身にではなく彼女の持ち物に注がれている。

「なんでこんなに冷たいの?あたし達一緒にお酒飲んだ仲じゃん?ねー?」



ブランド物の薄手のバッグ、そして机の上に開かれた電算会計のテキスト。



どれも、彼女の本心とは違う気がした。

「ところで‥ずっと考えてたんだけど」「え?」



「君は美術を学びたいから、この大学にモグリにまで来たんだろ?

けどいきなり授業に来なくなって、今更電算会計の勉強を始めて‥」
「あ‥」



佐藤から切り出されたその話を、静香はのらりくらりと交わす。

「まぁそれは色々事情がさぁー‥」



けれど佐藤はそれを流さなかった。

真っ直ぐに正直に、その正論を静香に向かって突き付ける。

「俺には、君がしたいことを突き詰める切実さが足りないように思えるよ」



「本気で何かしたいって人は、君のようには行動しない」







静香は目を丸くしながら、佐藤の話を聞いていた。

そしてその意味を理解するにしたがって、心がカッと熱くなる。

自分はもう飛べない鳥なのだと、古傷を抉られている様な気がしてー‥。



「は?!何なのよ!」



静香は力任せに机の上に置いてあったノートをその場に投げつけた。

そのままコートを羽織り、佐藤に背を向ける。

「もういい。帰る」「帰るの?」

「一人でやるわよ!マジでもう付き合ってらんない‥」「じゃあ赤山に連絡‥」



ブルブル‥



けれど佐藤のその一言が静香を止めた。

静香は引き攣った笑顔を浮かべながら、もう一度彼の方を振り返る。

「広隆ぁ〜?アンタそんな子じゃなかったじゃん?

どうしてこうなっちゃったのかな〜?」




佐藤はそれには返答せず、淡々とペンでテキストに線を引いていた。

そしてマークした所を、静香に見えやすいように見せてやる。

「ここからここまで」



「ここの部分の既出問題解いてみて。分かんなかったら聞いて。座りなよ」

「‥‥‥‥」



佐藤はそれ以上静香を責めるでもなく、罵倒するでもなく、ただもう一度静香に向き合った。

静香は何も言えないまま、逆に翻弄されている今の状況を受け入れるしかない。



「分かったわよ!」



静香は再び、佐藤の隣に腰を下ろした。

仏頂面でテキストに向かうそんな彼女の横顔を、佐藤は嬉しそうに見つめている‥。








家に帰ってから、雪は静香にメールを送った。

明日も来て下さいね



静香からすぐに返信があった。

Shit!!



安定のクソ呼ばわり‥。



なんだかもう腹が立つのを通り越した雪は、ふぅと息を吐いてそのやり取りを終わらせた。

とにかく、と考えを明日に向かわせる。



とりあえず今日は上手くいったぞ。明日の試験も頑張ろ



雪はそう思いながら、ううんと伸びをした。

試験という荒波を、この羽で飛び越えていく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<飛べない鳥>でした。

佐藤先輩と静香、良い感じですね〜〜^^

心から静香を心配してるからこその正論、胸に響きました。こんなに静香に向き合ってくれる人、

今までいなかったんじゃないのかなぁ。雪にしても佐藤先輩にしても、静香にとってのキーパーソンになりそうですね。

そして気になったのはこのコマ↓



佐藤先輩のセリフが抜けている‥。何だったんでしょうね^^;


次回は<看過の代償>です。


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籠の鳥

2016-12-08 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


河村亮は元職場の同僚と共に細い路地の上にいた。

同僚の男は、痛そうに顎を押さえている。

「うう‥歯がグラグラする‥」「また殴られたんかよ」



亮は溜息を吐くとこう言った。

「もういい」



「吉川‥そろそろあの野郎をシメねぇとな」



亮が見据える先には、自身と男を支配する元職場の社長・吉川がいた。

今まではただ逃げてばかりだったが、どうやら反旗を翻す結論に達したようだ。



同僚の男は腫れた頬に手を当て、幾分恐縮しながら謝った。

「ごめんね亮‥俺のせいでここから逃げらんないんだろ」

「いーっつの。それよか診断書とか録音とか録画とか、

そういうの集めんの忘れんなよ。わかったか?」
「うん、全部準備してるよ」



亮は男の肩に手を置くと、ゆっくりと低い声でこう口にした。

「今度こそぜってー逃げ切って、お互い真っ当に生きて行こうぜ。な?」






亮からそう言われ、男は嬉しそうに微笑んだ。

籠の鳥であった自身に、亮は出口の光を見せてくれる。

「分かったよ‥!」



不意にポケットの中に入れてあった携帯が震えたので、

亮はそれを取り出した。蓮からメールだ。

亮さん、一次合格だって!連絡来た?行こーぜー!







亮はすっかり忘れていた蓮との約束を思い出し、思わず目を白くした。

出口の無い現状にもがいている籠の鳥が、ここにももう一羽‥。







都内某所にあるZ社企業ビル。

高層階のオフィスフロアの一角にて、青田淳はぼんやりと佇んでいた。



昨夜耳にした雪の言葉が、鼓膜の裏でずっとリフレインしている。

「今は前よりもっと、先輩のことが理解出来る気がします」



心の中に、重たい澱が溜まって行くような気分だった。

うず高く積まれた防波堤の内側で、水嵩ばかりが増して行く。

「‥‥‥‥」



重苦しい気分を助長させるように、ポケットに入れた携帯電話が、

柳瀬健太からのメールを受信した。

俺、卒業試験も上手くいかんかったし、このままじゃ単位も取れねーかもしれねーんだよ!!

もう少し時計の値段負けてくれたら、定期預金解約して払うからよ。

旅行用に溜めてた金があるんだ‥








雪に聞いた話とその流れを推測するに、もう柳瀬健太には後が無いし味方もいないだろう。

淳は今まで被って来た仮面を剥がし、幾分強い態度での文面を作成する。

治療費も貰わないことにしたのに、これ以上まだ譲歩させるつもりですか?

先輩がしたことを思い出すと腹が立つので、もう連絡しないで下さい。




数分後、健太からの反論が届いた。

お前、そりゃあまりに酷くねーか?

お前がそのつもりなら、俺も赤山に話すぞ。あのハーフ女とワケアリの関係なんだってな!







”ハーフ女”こと河村静香と柳瀬健太は、

以前佐藤広隆を交えて顔を合わせている場面を目にしたことがある。



あれ以降どちらかが淳を陥れる為に、コンタクトを取ったという可能性も高いだろう。

誤魔化しても無駄だぞ!俺は全部知ってんだ!



まるで切り札のように静香との関係性をちらつかせる健太であったが、

淳の態度は変わらなかった。

何を言ってるのか意味が分かりません。

そういう女性がいるなら一度教室に連れて来て下さい。俺明後日学校ですから




ヒッ



柳瀬健太は淳からのその返しに息を飲んだ。

切り札としての”ハーフ女”だったが、特に決定的な証拠を掴んでいるわけじゃない。

つい売り言葉に買い言葉で‥こんなつもりじゃ‥



そんな健太を見透かすかのように、淳から続けてメールが届く。

どうせ来ないと思いますけど。



ジ・エンド‥。

健太の頭の中に、追い打ちを掛けるかのような悪魔直美が嘲笑っている。

「証拠あるんですか?」「証拠証拠」「証拠もないくせに〜」

あ〜オワタ〜



再び健太の携帯が震える。

こういった行動に出ることで損をするのはそちらです。

また連絡して来たら、治療費も請求させて頂きますので




取り付く島もないとはこのこと‥。健太は頭を抱えて座り込んだ。

マジでオワコンだ‥俺‥



そして淳からの最終通告が届く。

あ、それと雪に迷惑掛けないで下さい。



オワタ‥。

ああああ〜〜〜〜









淳は健太へのメールを打ち終えると、続けて柳にメールを打ち始めた。

静香との関係性で一悶着起きる気はしなかったが、横山翔の一件の例もある。

柳に雪周辺の近況について聞いておいた方が良いだろう。

雪に何かあった?

今日健太が赤山ちゃんに絡もうとしてたけど、

アイツ今悲惨な状態だし何も出来やしねーと思う。

もうそんな心配することねーんじゃねーかね〜




柳からの返信は早く、それはいくらか淳に安心感を与えた。

それでも胸の中がざわめく不快感は簡単には消えてくれず、

淳は溜まった澱を放出するかのように息を吐く。



一見何不自由なく暮らしているように見える彼は、実は見えない籠の中に捕らわれている。

大学を出ても‥いや、



どうせどこへ行ったって‥



籠の鳥は、結局幾ら羽ばたいてもそこから抜け出せない‥。

ブルル‥



再び携帯が震え、メールが届いた。

しかし差出人は柳瀬健太でも柳楓でもない。

<佐藤広隆>

卒業試験上手くいった?

ああ。

今赤山から頼まれて静香さんの勉強見てるんだ。

赤山は本当に親切だよな。皆に気を配って







佐藤からの文面を読んだ後、思わず淳は目を丸くした。

そして遠い場所で一羽の鳥が羽ばたく、小さな羽音が聞こえた気がした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<籠の鳥>でした。

それぞれがそれぞれの状況をこじらせ、そこから羽ばたこうともがいているような回でしたね。

健太は自業自得ですが!

次回も鳥繋がりです^^<飛べない鳥>です。

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不本意な約束事

2016-12-06 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
ずーん‥



卒業試験は撃沈、期末試験も芳しくない出来の健太は、

負のオーラを撒き散らしながら机に突っ伏していた。

そんな健太に、メガネを掛けた後輩男子が声を掛ける。

「ちょっと健太先輩、俺らのグルワ課題もあるんすよ?

そっちの方もやって下さいよ!」




雪はそんな彼らを横目で見ながら、(勘弁してよ)と心の中で呟いた。

あんな状態の健太に話し掛け続けるとどうなるか、火を見るより明らかだ。

「うるせーな!俺は追試なんだぞ?!黙ってろ!」「うっ!」



健太は案の定ブチ切れ、感情に任せてメガネ男子の手を払った。

ブルブル‥



「ありえねぇ!試験受けんのは先輩だけじゃないスからね?!

もう知りませんから!」




メガネ男子はそう言うと、肩を怒らせながらその場から去って行った。

雪は複雑な気持ちで、遠ざかる彼の背中を眺める。

過去問騒動の時、最後まで健太先輩側についてくれてた男の子なのに‥



もう完全に皆に見放されてしまった



聡美が「雪!行こ」と促し、その後に付いて行く雪。

最後に目にしたのは、メガネ男子を呼び止めることもなく、机に突っ伏したままの健太の姿だった。



これは明らかに私のせいじゃない



雪は思う。

結局元々そういう人間だったということだ。

私はただきっかけを作っただけ




健太が今の状況に陥ったのは自業自得であり、トリガーを引いたのは雪ではなかった。

突っ伏したままの健太に声を掛けることなく、雪はそのまま教室を後にする‥。






ドドン!



河村静香が、道の先で雪を待ち構えていた。

「おい」



雪は口元を引き攣らせながら挨拶を口にする。

そうだった‥私が呼んだんだった‥ 試験期間中なのに‥

「ゴ、ゴキゲンヨウ‥」



「ゴキゲンでいられると思う?」



静香はあからさまに不機嫌だった。

雪の脳裏に、墓穴を掘っている自分の姿が浮かぶ。

「行くわよ。さっさと終わらせるわ」



静香の電算会計の勉強を見るという不本意な約束事を、雪は果たさなければならなかった。

重い気持ちを持て余しながら、二人はキャンパス内を共に歩く‥。








図書館へと移動した二人。

静かなその空間に、地響きのような静香のうめき声が響いた。

うぐぐぐ‥ぐぐ‥ぐぐぐ‥



「いっこも分かんな‥!!」「しーっ!!」



今にも叫び出さんとする静香を、必死に止める雪。

どうやら参考書の内容は、静香には難しすぎるようだ。

「基本原理とか言ってどこが基本なのよ?!アンタ基本の意味知ってんの?!

「そんなに分からないんなら

ネット講義でも聞いてみればいいじゃないですか!」




「ネット講義って何?」



静香のその質問を前にして、雪はブルブルと震えた。

そもそものスタート地点が遠すぎる‥。

手伝わないぞ‥絶対‥私は試験勉強で忙しいんだ‥

「後ろの回答見て丸写ししちゃっていい?ね〜教えてよぉ」



私は絶対‥

「ん?」



するとそんな二人の元に、一人の男がやって来た。

「二人で何してるの?」



彼の後ろから後光が差している。

シャララララーーーー



「佐藤先輩‥!」「広隆」「えっ?」



佐藤広隆の登場はまさに二人にとって救いだった。

佐藤はただならぬ空気を感じて、静香の隣に腰を下ろす。

「な‥何だか分からないけど、手伝うよ」「大丈夫ですか?試験勉強は‥」

「今日はもう終わったから‥」「ありがとうございます!!」「カモン」



ふーっ‥



一時はどうなることかと思ったが、佐藤の登場によって場の雰囲気は大分軽くなった。

雪は佐藤に対して感謝の気持ちでいっぱいだ。

佐藤先輩‥本当に良い人だ‥






佐藤のお陰で、静香はかろうじて真面目に取り組もうとしているようだった。

そんな彼女の横顔を、雪はじっと見つめている。



今の状況に似た場面を、かつて雪は何度も体験した。

まず思い浮かんだのは、青田先輩に勉強を教えてもらったこと。



そして河村氏に、高卒認定試験の勉強を教えてあげたこと。



ほんの数ヶ月前の出来事なのに、もう遠い昔のことのような気がする。

あんな風に勉強してたのにな‥。

もう学校の外で自分の道を進んでるんだ‥




どこか物寂しい気持ちで、雪は期末試験の勉強に励んだ。

皆それぞれに自分の道を、真っ直ぐに歩んでいることを信じて‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<不本意な約束事>でした。

佐藤先輩が仏に‥笑



あと墓穴!



1部45話にも出てきましたよね〜



懐かしいです。この頃は佐藤先輩はまだ劣等感の塊だった‥。


↑後頭部がウルフ青田に気を取られるが‥笑

また読み返したくなりますね^^


次回は<籠の鳥>です。

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前進と停滞

2016-12-04 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


とうとう期末試験が始まった。

「行くぞ!」



「はい、始めて下さい」



「そこまで。後ろから集めて」「終わった!」「次行こう!」



「試験頑張って!」「頑張りまショー!」



二年生の太一と三年生の雪と聡美はエールを交わし合って、別々の教室へと走って行った。

試験期間中のキャンパス内はどこかソワソワと落ち着かない。









一人ベンチに座って昼食を取る雪の手元で、携帯電話が鳴り出した。

ディスプレイには「萌菜」と表示されている。

「もひもひ、今試験期間なのよ!何か用だった?」

「取り敢えず飲み込んでからにしなよモグモグ言ってるっつの



萌菜は手短に用件を話し出した。彼女らの同級生”ゆりっぺ”のことについて。

「いやゆりっぺが合コンのことでグチグチうるさいからさぁ、自分は彼氏いるくせに

アンタに迷惑掛けんじゃないって言っといたんだけど、したらアンタにメールでキレたって聞いてそりゃないわーって」


「あ、その話?てか試験期間だからそれどころじゃないんだよね。あんま気にしないでいいよ」

「あはは。あの子の方は怒り狂って試験ボロクソらしいよ?アンタは大丈夫?」

「無問題。試験終わったらまた連絡するわ」「ぷははは!オケオケ。試験頑張ってね!」







そうして二人の会話は終わった。雪はパンを頬張りながらこう思う。

イイ感じだ。今日の試験は上手く行きそう



彼女は”ゆりっぺ”のことなど微塵も気にしてはいなかった。

今目の前にある道を、ひたすらに前進するのみだ。

かつて自身を侵食したさざ波は、今や防波堤の向こうで鳴っているだけ‥。







一方様々な問題にその身を晒され続け、停滞しまくりの柳瀬健太は、

不機嫌さを隠し切れない表情で一人廊下を歩いていた。



すると視線の先に糸井直美の姿が見え、健太は思わず息を飲む。



直美は健太の姿に気が付くと、

意味深にニヤリと笑みを浮かべ、皮肉たっぷりに舌打ちした。






そのまま去って行く直美の後方で、健太は嫌な動悸を抑えながら壁際に身を隠していた。

悪魔‥アイツは悪魔だ‥



コソコソと大きな身体を縮こめながら、健太はそのまま教室へと向かった。

壁際に身を寄せながら、室内を伺う。



見慣れたその後姿を見て、健太はドタドタと飛び出した。

「赤山!」



「淳の手の具合はどうだ?ギブス取れたのか?」「どうして小声なんですか」



雪は顰め面でそう返し、健太に向かって引き攣った笑顔で釘を刺した。

「てか青田先輩の話しないでもらえます?まだ許した覚えありませんけど」



しかしそこは鉄面皮の健太。いつもの調子でやり取りを続けようとする。

「またまた〜俺等の仲じゃねーか!その‥淳に上手いこと言ってくれたらな〜って‥」



「はい?何の話です?」



雪は健太が口にした言葉に何か引っかかりを感じた。

しかしその答えを聞く前に、雪と健太の間に柳が割って入った。

「上手く言っておくも何もねーでしょーよ。あっち行って勉強してれば?」

「先輩!もう止めてこっち来て下さいよ!」



ぐぬぬ‥



後輩達にそう窘められ、健太は不満げにその場を後にする。

「くっ‥わーったっつの!」

「おうおう!俺も言うときゃ言いますよ〜っだ!」



遠くなって行く健太の背中を見つめながら、

雪は先程感じた引っ掛かりを無視出来ずにいた。



堅く積まれた防波堤の隙間から、さざ波が幾筋か漏れ出している。

足元を取られるような水量ではないが、それは足先を僅かに濡らして湿らせる‥。




「試験終わります!」



ドドン!



美大前で恵を待っていた赤山蓮は、柳瀬健太の姿を目にした。

健太は不機嫌な様子で、蓮の前を通り過ぎて行く。



フン!



蓮は健太の背中に向かって、エアピストルを向けバキュンと打った。

コンプレックスが弾丸だ。

俺がアイツにスペックで負けてるって?今に見てろ!

「ちょ、待ってよ!」



そんな蓮に向かって、恵は先程聞いた驚くべき話を反芻する。

「どういうこと?!こっちで就職するって?!」「うん!」



「キンカンちゃん、もう離れ離れにならなくて済むぜ!」



蓮は笑顔でそう言うが、恵にとっては青天の霹靂だ。捲し立てるように質問する。

「アメリカはどうなったの?!大学は?!蓮、まさかそれってあたしのためじゃないよね?」

「まーまー、そんなに心配すんなよ!」



「ぜーんぶ分かってるって!」 



自身満々に胸を叩く蓮に、それ以上恵は何も言えなかった。

果たして蓮の決断は、前進なのか停滞なのか‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<前進と停滞>でした。

ゆりっぺのことを全然気にしない雪ちゃんが頼もしい!!

怒り狂って試験ボロクソ‥。中間試験の時の清水香織を彷彿とさせますね‥。小物感‥。

そしてちょこっと遠藤さんが出てきて嬉しい回でしたね。

柳の安定のナイトっぷりも良かった‥。
いつもパーカーなのに試験期間はジャケットなんだ‥とか思ったり(笑)


次回は<不本意な約束事>です。


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微かな違和感

2016-12-02 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
意識の底の方から声が聴こえた。自分の声と彼の声が。

暗闇の中に響くそれは、かつて抱いていた彼への感情と、彼が雪に抱いていた彼の感情だった。

捕って食われる いや、そうじゃない

一人でちゃんとやっていけますから よく間違いを犯すね

気をつけろって言っただろ



それは次第に変化して行く。

彼と彼女はまるで鏡のように、互いに影響を及ぼし合って変わりゆく。

何をそんなに悩んでるの 俺と付き合わない?

良い人間でいたいけど‥



変わらないものとは何だろう。

長い時を経たとしても、さざ波に揺られ続けたとしても。

「う‥う‥」



雪の意識がだんだんと覚醒に向かう。

鼓膜の裏に響いていた声を振り切って、雪はガバッと飛び起きた。

「奨学金!」



口をついて出たのは、ある意味、時を経ても変わらず欲している「奨学金」だった。

起き上がった勢いで、雪は思わずベッド脇に転げ落ちる。

「ぎゃっ!」



バタン!と大きな音を出して転げた雪に、

淳はベッドの上から声を掛けた。

「大丈夫?」「????」



未だ状況を把握出来ない雪。

淳は彼女に向かって手を伸ばす。

「ほら」

「あ、え‥?あぁ、ハイ‥」



雪が淳の手を掴んで力を掛けた時、不意に淳が眉間に皺を寄せた。

「あっ?!」



雪はすぐに手を離し、心配そうに声を掛ける。

「先輩、手まだ痛みますか?」「え?ううん、大丈夫だよ」



しかし淳はそれを否定し、

まだベッド脇にしゃがんでいる雪を引き上げた。

「さ、起きて。学校行かなきゃ」



「朝ご飯食べてから行こうな」



「それにしてもお行儀よく寝てたね」



はは、と小さく笑いながらキッチンへと歩いて行く淳。

その背中を見つめながら雪は、自身の胸の中に微かな違和感が生じるのを感じる。

寝てない‥?



それは小さな小さな違和感の芽‥。






朝食を済ませた二人は家を出た。雪は大学へ、淳は会社へ。

その分かれ道で、二人は別れの挨拶を交わした。

「送って行けなくてごめんな」「全然です!先輩のお家、大学から超近いですもん」






二人は互いに笑顔を浮かべ、互いの顔を見つめ合った。

頬に触れた淳の手に、心配そうに雪が手を伸ばす。

「手、大事にしてくださいね」「うん」



まだ冷たい朝の空気の中で、繋いだ手がとても温かだった。

「へへ‥」



先にその手を放したのは淳。

「早く行きな」



咄嗟に手を伸ばしたのは雪。

「あっ!もうちょっと‥」



微かな違和感とすれ違いが、二人の間に微妙な空気となって残る。

「あ‥」



淳は微笑みながら、もう一度その手を自分から放した。

「手は大丈夫だから。行きな」「あっ、はい!それじゃ行きますね。気をつけて!」

「うん、雪ちゃんもね」



雪は「何だろう?」と首を傾げながら、そこに漂う空気を微かに気にした。

そんな彼女の背中をじっと見つめる淳。



そして彼は、ニッコリと微笑みながら彼女にエールを送った。

「試験、頑張れよ!」







胸に芽生えた小さな違和感の芽は、その彼の笑顔を目にした途端見えなくなった。

雪もまたニッコリと笑いながら、彼のそのエールを受取る。

「はい!」



「奨学金!」「うっ‥!」



寝ぼけて口にしたその言葉を冗談めかしながら、二人は笑い合う。




彼女の背中が見えなくなるまで、淳はその場で見送り続けた。

淳の胸の中にある違和感の芽は、もう随分と育っている‥。





大学までの道を歩きながら、すっかり冷たくなった空気を感じながら、雪は一人考えていた。

期末試験が終わったら、冬休みで‥



冬休みが終わったら、



三年生も終わり‥



時は刻一刻と流れて行く。

見上げた空に、白い息が溶けて消えて行った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<微かな違和感>でした。

なんともいえない微妙な空気感ですね〜。淳の作り笑い、雪はなんとなく違和感を感じてはいるけど、

その原因にはまだ至らないですよね‥。

三年生も終わり、のモノローグが「もうすぐ連載も終わり」と受け取れて切ない私です


それにしても淳の全身茶色コーデが気になる‥。

次回は<前進と停滞>です。


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