不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Flagellazione di Cristo

2006-05-30 06:42:00 | アート・文化

レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画に隠された謎が
注目を浴びる昨今。
絵画作品には他にも
色々と謎が隠されたものがあります。

謎なのかなんなのか、
描いた本人にしかその意図はわからない
ということなのだけどね。

ウルビーノの国立マルケ州美術館に所蔵される
ピエロ・デッラ・フランチェスカ
(Piero della Francesca)の
「キリストの鞭打ち(Flagellazione)」も不思議な作品。

Flagellazione

一見すると何の関係もないような
二つの画面が共存するこの作品。
レオナルドのように画家であり、
建築家であり数学者でもあった万能選手。
彼のそんな素質を表すように
二つのシーンはきちんとした黄金率で分割されています。

左部分が主題の「キリストの鞭打ち」のシーン。
そして主題であるはずのこのシーンよりも
前面に描かれる右側の三人の人物。
三人の中央に描かれた人物の
うつろに虚空を見つめる存在感のない目つき。
これが謎めいた感じを見る者に与えるらしい。

一般的に解釈をすれば、
左半分は当然キリストの鞭打ちのシーンであり
玉座に座しているのはローマのユダヤ総督ピラト。
あんまり謎じゃない。
問題は右半分の三人の人物らしい。

通説では右の三人の中央の人物は
1444年7月22日に若くして暗殺された
ウルビーノ公オダントニオ・ダ・モンテフェルトロ
(Oddantonio da Montefeltro)。
勇猛な傭兵隊長であり善政者としても名を馳せた
鼻のえぐれたフェデリコの異母兄弟。
そして脇の二人は暗殺者とも
ウルビーノ公の顧問・相談役とも。
いずれにしても暗殺の原因を作ったのは顧問たちだというし
最終的にはどっちであったとしてもあまり謎じゃない。

これ以外に絵画自体がフェデリコの依頼によるもので
モンテフェルトロ家の統治・繁栄を称した作品であり
右の三人はフェデリコの前任者たちであるという説。
(この場合も中央の人物は異母兄弟であるオダントニオ)
この場合は賞賛の絵画ということになり
これまたとりわけ謎でもなんでもない。

こうした説以外に昨今有力とされてきているのは
1453年にトルコ人によって包囲され
陥落したコンスタンティノープルを象徴しているという説。
これだと確かに「謎」っぽい。
この説では鞭打ちされるキリストこそが
当時イスラムによって包囲された
ビザンティウム(コンスタンティノープル)。
よって鞭打ちのシーンで
ターバンを巻いた男性はトルコのスルタンであり
ピラトと思われる人物は
実は東ローマ帝国皇帝ジョヴァンニ8世なのだ。
実際この人物は皇帝の色とされる
緋色のタイツを履いて描かれているので一応納得。
この場合右側の三人の中央の人物も
コンスタンティノープルってことになるらしい。
でなければこの歴史的大事件に関わった
三人だというけど誰だ?
謎だ。

当時の東ローマ帝国を現代のアメリカ合衆国にたとえた
この説を唱える研究者は増えてきているようで。
世界の中心であったコンスタンティノープルの陥落は
1400年代の「9・11事件」に匹敵するのだという結論。
謎解き終了?

歴史の一大事を描きとったのが
ピエロ・デッラ・フランチェスカの「キリストの鞭打ち」であり
1400年代当時の世界ではこの出来事は
誰もが知っている「周知の事実」だからこそ
一般市民にも特別な説明は不要だったのだといわれると
確かにそうなのかもぉと納得。
現在の我々には理解不能の「謎」も
当時の一般常識で捉えればアサメシマエに解決。

絵画解釈などというのは
後世で色々こじつけたり薀蓄つけたりしているのであって
描いている本人は特に何も考えていないのかもぉ。

こんなこと書いていると、
でもまた観にいきたくなるんだよね、ホンモノを。
ウルビーノ遠いんだよなぁ…。

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