不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Il mistero di Stradivali

2008-07-08 07:18:00 | アート・文化

1600年代後半から1700年代前半にかけて
クレモナで活躍した弦楽器製作者
Antonio Stradivari(アントニオ・ストラディヴァリ)。
特にヴァイオリンの製作者としては
彼を超える人材が輩出されておらず
今でも彼の製作したヴァイオリンは最高峰として揺るぎません。
彼の後、イタリアではオペラが主流となり、
弦楽器の需要が減ったこともあり
古い時代の弦楽器が余ってしまい
新たに弦楽器を作る必要性がなくなったことから
優秀な弦楽器製作者としての後継者が育たず
どちらかというと弦楽器修復士の技術が磨かれていきます。
そうした背景もあり、ストラディヴァリを越える製作者が
生まれてこなかったいうのも事実です。

彼の手になるヴァイオリンが奏でる
音色の美しさがなにによるものなのか
それを研究してきた人たちも多くいます。
現在の技術を持ってすれば素材の選定、作製など
技術的に劣ることはないと考える人もいますが、
それでもなおストラディヴァリに匹敵する
名器を生み出せないのはなぜなのか。

今回5本のアンティーク・ヴァイオリンと
8本のモダン・ヴァイオリンをサンプルとして
オランダ人博士とアルカンサスの弦楽器製作者が
行ったテストは医学で用いられているデジタル断層撮影法。
肺気腫患者の肺細胞の密度を調べるソフトウェアを利用して
ヴァイオリンに使われている木材の厚さや密度を調べた結果、
古い時代のものと近現代のものとで
その木材密度には大差はないものの
木目の均等さなどには違いがあることが発覚。
古いヴァイオリンのほうが木目がより均等であるようです。

使われている素材の密度などが弦楽器の振動、
つまり音色に影響を与えるため
今回のテストによる結果は、
ある意味では音色の違いの原因を
突き止めたことになるのかもしれません。
しかし、楽器が奏でる音色というのは
そんなに単純な分析ではすまない部分もあり
今回のテスト結果だけでは
結論は出せないというのが専門家の見解。
今後の弦楽器製作の手助けにはなるかもしれない
という程度のものです。

1600年代の植物体系と現代の植物体系が異なっていること、
気候的な理由によって同じ植物でも
若干変化してきていることなどもあり
現在の弦楽器に使われるカエデやモミは
ストラディヴァリが使っていたものとは異なります。

それに加え、ストラディヴァリは300年の年月を経ており
その年月が素材に与えている影響というものも考慮されるべきで
一概に木目の均等さや木材の密度が
音色を決定しているとは言えません。

当時から高級品としての取り扱いを受けてきた名器たちは
長い年月をきちんとした手入れをされて保管されてきているので
そうした保管状態の良好さも
美しい音色の要素となっているとも言われています。

300年の時が奏でる音だからこそ美しいのかもしれません。