不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Il Potere e la Grazia

2010-01-19 13:01:24 | アート・文化

ヨーロッパの各国、各都市には
それぞれ守護聖人が存在しています。
この守護聖人や宗教絵画に描かれる
著名な聖人・天使などの人物画を集め
イコノグラフィーとしてまとめた展覧会が
ローマのヴェネツィア宮殿で開催されています。
実在の人物もあれば、伝説の登場人物もあり
キリスト教を取り巻く
さまざまな人物像を描く絵画作品を中心に
一堂に集めた非常に興味深い展覧会です。

中世の時代から人々は守護聖人を必要とし、
彼らの存在を通して
父なる神と交信することを訴求してきました。
それぞれの守護聖人は
その地にまつわる伝統や
伝承される物語に強く結びついています。
時にはその聖人が生まれたといわれる場所であったり、
祀られた場所だったりさまざまですが、
一般市民や武士たちは自分の暮らす土地や愛する人に
災いが降りかからないように守護聖人を篤く奉り、
疫病が流行れば聖人にすがり、
戦場では聖人の名を叫びながら闘ったのです。

そして信仰のために偶像が数多く作られ、
教会はもとより、
個人の家にも小さな聖人像がたくさん祭られました。

もちろん特にきちんとした決まりもないのですが、
今回の展覧会で守護聖人として崇められる人物を見ていたら、
守護聖人に選ばれるためには
単なる善人ではなく信仰心(Fede)が強く、
そして何よりも慈悲の心などの徳(Grazia)を
備えていることが条件となっているような気がします。

そしてこうした守護聖人は
文字の読めない人々にも簡単に認識できるように
黄金伝説(Legenda Aurea)などに描かれる記述を基にして
人物を特定するシンボルとともに繰り返し描かれたため、
人々の中に刷り込まれ
時を経てイコノグラフィーとして確立されたのです。

2000年にわたり、
宗教(カトリック教)はヨーロッパの共通言語であり
守護聖人を描いた芸術作品は
どの時代にも教会の布教の手段であったと同時に
ヨーロッパの人々にとっては
ひとつの回帰点でもあり続けました。

こうしたイコノグラフィーは
現在も宗教絵画を読み解くために非常に重要な要素ですが
その観点からもたくさんの絵画を
世界各地から集約して見ることができるのはまれな機会ですので、
時間のある方は是非足を運んでみてください。

出展作品は西ヨーロッパだけでなく
ロシアまでの東ヨーロッパのものも含まれていて
その芸術的表現の違いや
文化&宗教のベースの違いまで見て取ることができます。

主な作品はアンドレア・デル・サルト「洗礼者ヨハネ」、
カラヴァッジョ「洗礼者ヨハネ」、グイド・レーニ「大天使ミカエル」、
エル・グレコ「フランス王サン・ルイ」、マンテーニャ「サン・ジョルジョ」、
ベッカフーミ「サン・パオロ」、カラッチ「聖カテリーナの恍惚」など。

1月1日からはこの展覧会にルーブル美術館所像の
レオナルド・ダ・ヴィンチ「洗礼者ヨハネ」が加わり、
華を添え、この機会に
1月31日の会期終了までは入場料も無料となっています。

Il Potere e la Grazia
I Santi Patroni d'Europa
会場:Palazzo Venezia
   Via del Plebiscito 118 ローマ
会期:2010年1月31日まで
開館時間: 10:00-20:00、金・土のみ10:00-22:00
休館日:月曜日
詳細インフォメーション

面白い展覧会だったのでカタログ買いました。
35,00ユーロ。
もともと展覧会には
レオナルドの「洗礼者ヨハネ」は含まれていなかったので
カタログには載ってません。
でも特別にレオナルドの作品だけを別冊にして
無料でつけてくれます。
この大盤振る舞いなところがなんとも素敵です。