不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Un motivo per rifiutare

2010-11-10 20:52:08 | 日記・エッセイ・コラム

16年もフィレンツェに暮らしていて
それこそ、日常の会話にはまったく苦労することもないし、
ある程度込み入った話でも
なんとかやりくりするくらいの
イタリア語力は身についたと思います。

しかし、私はここにやってきた当初
約1年半まったくイタリア語を喋らなかった、
というか喋れなかった期間もあります。

どちらかといえば語学向きの脳みそなんだろうけど
私の場合、それは
計算力よりも語学能力が上回っているというだけのことで
語学的な天才というわけじゃない。
すごく苦労してクリアした英語だって
今となってはまったく出てこないし、
今毎日使っているイタリア語だって
自由自在に操れるというレベルには程遠いのです。

そんなこともあるし、
向き不向きということもありますが、
私には通訳という仕事は向いていないなぁと常々思います。
人前で話をすることも苦手な上に
アガリ症で内的パニックに陥ることも多いし
即座に機転を利かすことも苦手な私には
公の場での通訳は向いてません。
そのため最近では通訳の仕事は端からお断りしています。

そのときに
「皆さんが思っているほどイタリア語できません」って
はっきり言ってますが、信じてもらえてないようで
変な誤解を招いていたりもするようですが。
本当にお披露目するようなイタリア語力では決してありません。
謙遜でもなんでもなく
私よりイタリア語のできる日本人をよぉく知っているので
正直にお伝えしているだけなんですけどね。

先日フィレンツェで行われた落語の通訳も
依頼を受けたのですが
上記の理由によりお断りしたのです。
協力したい気持ちもあり、
できることなら快く引き受けたかったのですが、
何より私にはそんな大一番の仕事を
引き受ける自信が無いのです。

身近な友人には
もっと自信もってチャレンジすればいいのにとも言われ
自分でも挑戦は大事だと思ったりしますが、
私のせいで素敵なイベントを台無しにすることが
私にはとっても怖いことに思えるのですよ。

当日、仕事をなんとか終えて、ぎりぎりで滑り込んだ落語。
最初のイントロダクションの部分で
申し訳ないけど、
その仕事を断った私が言える身分じゃないけど
明らかに力不足の通訳を目の前にして
こんなことになるなら私がやっておけばよかったと
少しだけ思いました。
それくらい、実は残念な通訳でした。

小物遣いなどのイントロダクションのあとの
最初の演目は「ちりとてちん」だと聞いていましたが
おそらく演者竜楽も通訳に問題があるということを
なんとなく感じ取ったのではないかと思います。
日本語での演目ではなく
イタリア語で準備されていた演目「親子酒」を
先にもってきました。
即座に機転を利かせたのだと思います。

通訳無くても、説明が不十分でも
なんとか会場のイタリア人にわかってもらえる。

実際、竜楽本人のイタリア語力と演技力で
会場は笑いの渦に巻き込まれていきました。

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親子酒が終わって、会場は精気を盛り返して一旦休憩。
この休憩中に
私が次の演目の通訳を引き受けるべきかどうか
本気で悩みましたが、
その時点でも私には決断できなかった。
小心者なんですよ、そう見えないでしょうけど。

しかし、
フィレンツェで育ったであろう
ほぼネイティヴに近い女性が
好意で通訳を引き受けてくれることになり
休憩明けはスムーズな通訳で
他人事ながら安心して聞いていられました。

「ちりとてちん」の説明をイタリア語で聞きながら
へぇぇ、と感心することしきり。
若いのに、しっかりした子だったので
是非紹介してほしいと思ったほど。

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会場も盛り上がって大盛況のうちに終了。
一緒に観劇していた友人のパートナーが
是非一緒に写真を撮りたいということで
控え室にまで押しかけて写真撮影。
すっかり普段着に着替えた竜楽氏の姿は
普通の頭の良さそうなお兄さんでした(笑)。

舞台の上の姿からは想像もできない
控えめでおとなしい方でした。
フィレンツェが好きだと仰ってましたし、
また来年もやりたいということだったので、
また楽しみに待っていようかなと思います。

見終わった後、周りの方々には
「あなた、一番楽しんでたよね」と突っ込まれるほど
昨年に続き今年も思いっきり笑わせてもらいました。
そういう意味でも通訳を引き受けずに
純粋な観客でいられたのは私にとっても幸せだったかも。

後日、
あの夜、途中から通訳してくれた女性は
実は私の知り合いの娘さんであることも発覚。
そりゃぁ、優秀なわけだわねぇと納得。

そんなわけで
私は今後ますます通訳を断ることになりそうです。
それは私の心の問題。
いつか自信がもてるようになったら引き受けますよ(笑)。

やってみたいという好奇心とチャレンジ精神で
新しいことや難しいことに
チャレンジするのはよいことだし
私は他の人の決断に決して口を挟んだりしませんが
自分の決断が及ぼす結果についても
どこまでの責任が取れるのかについても
十分考慮した上で
仕事としてきちんと引き受ける覚悟は必要だと思いますよ。
通訳って、ちょっと会話ができる程度で
安易にできる仕事じゃないのでね。