不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Il sogno nel Rinascimento

2013-06-05 15:49:48 | アート・文化
夢の解読といえば、フロイトが有名ですが、
実際には未だ謎の部分も多く
日々研究が続けられている夢の世界。
ルネッサンス時代の人々にとっても
不思議な世界であったことは間違いなく、
遥か昔の神話のエピソードや多くの絵画作品にも
夢にまつわるテーマは多く取り上げられています。
そんな夢の世界を
いくつかのセクションごとにわけて展示する
「ルネッサンス期の夢」という特別展示が
フィレンツェのパラティーナ美術館で開催されています。

小作品が多いのは否めませんが、
ボッティチェッリ、ミケランジェロ、
ラファエロ、コレッジョ、
ロレンツォ・ロット、アンドレア・デル・サルト、
ドッソ・ドッシ、デューラー、アッローリなど
多くの作家の作品が集められ、
「夜と睡眠」、「魂の不在」、「彼岸のイメージ」、
「人生こそ夢」、「不可解な夢」、「悪夢」、
そして「夜明けと覚醒」
というふうにセクション展開されていきます。

ギリシャ神話では夢を生み出す「Sonno(睡眠)」は
「Notte(夜)」の息子であり、「Morte(死)」の兄弟。
睡眠のおかげで我々は夜の間に時空を自在に旅し、
別の肉体に魂を宿して
生きることができると考えられていました。
夢の中では想像の怪物と闘ったり、
性的衝動の力を再確認したり、
タブーを犯したりできると考えられていたのです。

また人間の魂は肉体に捕らえられていると考えていた
マルシリオ・フィチーノは
人が夜眠りにつき、夢を見ている間に
魂は肉体を離脱して
別の精神的な体験をすると考えていました。
こうした観念も含め、彼の諸々の哲学は
メディチ家の思想にも大きく影響を与え、
1400年代後半のフィレンツェの、
そしてルネッサンスの思想の基本ともなっています。
そのようなベースがあって、
芸術家たちは決まり事としての夢の描き方と
創造性を発揮した独自の表現の双方を実現していきます。
だからこそ、ルネッサンス時期の芸術作品を
「夢の世界」というテーマでとらえると
面白いのかもしれません。

滅多に外に出されることのない
ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵の
ラファエロの小さな小さな作品
「Il sogno dei Cavaliere(騎兵の夢/スキピオの夢)」が
今展覧会のために出展され、
ラファエロがこの作品の制作時に
参考にしたであろうといわれる原典
「Punica di Silio Italico
(シリオ・イタリコのラテン詩カルタゴ)」
と共に展示されています。

作品は1503年に
ユリウス二世の教皇選出を記念して制作されたもので、
ラファエロ弱冠21歳頃の作品といわれています。
二人の女性が騎士の夢に現れるシーンを描いています。
この女性は画面向かって左がLa Virtu'(Virtus)で
向かって右はIl Piacere(Voluptas)と解釈されています。
美徳(Virtu')は背景に堅強な要塞をいただき、
額と髪を布で覆い、
右手に剣、左手に本を持って騎兵に差し出しています。
この場合、
剣は現実世界を本は観念世界を象徴していますが
いずれも騎士にとって
欠かすことのできない文武を表しています。
一方、官能(Piacere)は甘く緩やかな背景に
額をあらわにした髪を風に揺らし、
右手にもつキンバイカの花を差し出しています。
中央に眠る騎士のうしろに生えているのは月桂樹の若木で
人生の象徴もしくは
眠る騎士の若さを暗示しているといわれます。
その眠る騎士は多くの説では
スキピオ・アエミリアヌスとしていますが、
ラファエロがモデルとしたのは
Scipione di Tommaso Borghese
もしくはFrancesco Maria della Rovere
ではないかともいわれています。
夢に現れた「美徳」と「官能」のどちらを
若い騎士は選択するべきかということなのですが、
古代ローマ時代ならまだしも、
時はルネッサンス時代、
そして作品が
非常に均整の取れた構図で描かれていることから
ルネッサンスの時代の騎士たるもの
文武に長け、同時に快楽も享受できる
肉体と精神をもつべきであるという
メッセージがこめられていると
捕らえるべきなのかもしれません。
また快楽とはいえ、
Piacereが手にしているキンバイカは
夫婦間の愛の象徴であることから、
夫婦相互の貞節(つまり浮気するなと)を
奨励しているとも考えられます。
Sognodelcavalierelondra

様々な芸術家による夢の解釈、
非常に興味深い展示だと思います。

Il sogno nel Rinascimento
会場:Galleria Palatina(パラティーナ美術館)
会期:2013年5月21日から2013年9月15日まで
*その後2013年10月9日から2014年1月26日までは
パリのリュクセンブルグ美術館で展示される予定。
開館時間:8:15-18:50
休館日:月曜日
入場料:13ユーロ
インフォメーション:
http://www.unannoadarte.it/ilsognonelrinascimento/index.html



Gelsomino

2013-06-05 02:19:08 | アート・文化
多分その繊細さと芳香から
世界各地で好まれているジャスミン(Gelsomino)は
もともと東洋の植物で、
イタリアをはじめとするヨーロッパで最も多いのは
中南米辺りから持ち込まれた種だそうです。
ジャスミンそのものは欧州でも遥か昔から知られていて、
絵画作品にも時折描かれています。
開花時期がちょうど今頃で
5月は聖母マリアの月と考えられていることもあり、
ジャスミンの花も聖母マリアと関連づけられることが多いのです。

そもそも5月を聖母マドンナの月とするのはなぜなのか。
その起源は中世の時代にさかのぼるといわれています。
その当時宗教とは無関係に存在していた
数多くの習慣や歳時をキリスト教の祝日と結びつけていく中で
最も崇高な女性である聖母と
尊重すべき自然の移り変わりの繋がりが次第に強くなったのだといわれます。
最初に5月を聖母マリアの月としたのは
1200年代半ばのCastiglia e di Leonの王
Alfonso X(アルフォンソ10世)だとされています。
16世紀になると、ルネッサンス精神が徐々に下俗的になり
それを悔い改めるために
聖母マリアへの祈りを捧げるようになったともいわれ、
実際、今でも5月に悔悛の祈りを捧げる信者も多いようです。

ジャスミンの花の白い色が
聖母マリアの無垢さそして清らかさを暗示し、
慈愛や父なる神の愛をも象徴するとされています。
従って聖母マリアとともに描かれることはもちろん
父なる神の愛の賜物である幼子キリストが手に持っていたり
聖人や天使の花冠にされていたりもします。
時にバラの花とともに描かれ、信仰の象徴とされることも。

ロンドンのナショナルギャラリーに収蔵されている
フィリッピーノ・リッピ(Filippino Lippi)の
聖母子と洗礼者ヨハネ(Madonnna con Bambino e San Giuseppino)では
画面右下の花瓶に白い野バラとジャスミンが描かれています。
こうした花の花弁が5枚で描かれている場合、
それはキリストが受難の際に受ける5つの傷を暗示しているともいわれます。
Gelsomino





Pentecoste

2013-06-05 02:11:49 | アート・文化
キリスト教では、キリスト生誕、キリスト復活と並んで
最も重要な出来事の一つであるペンテコステ(聖霊降臨)は
キリスト復活から50日後に祝う
エルサレム教会創設の日でもあります。

エジプトに暮らすようになっていたユダヤ人たちが
モーゼをリーダーとして約束の地へ向かう「出エジプト」のとき、
神のお告げとおり、戸口に印のない、
つまり災いを知らされていないユダヤ以外の人々の家では
人間も家畜も問わず、すべての長子の命が奪われました。
神から戸口に印を付けるようにと知らされていたユダヤ人の家だけが
この災いから逃れたため、「過ぎ越し」といわれる出来事です。
過ぎ越しの日から7週目にその年の小麦の初収穫を祝う
「7週の祭り」というものがユダヤの習慣にはありました。
また紀元70年にエルサレムがローマ軍によって滅ぼされて以降は
出エジプトの49日後(7週目)に
シナイ山でモーゼが神と契約を交わしたことを記念して
「神との契約によって生きる民」の律法授与の日として
大切にされている日でもあります。

イエスキリストが復活&昇天する時に
「近いうちに精霊がくる」と告げてから50日後、
(キリスト昇天からは10日後ともいわれています)
ちょうどユダヤ教の7週の祭りで
聖母マリアを中心にキリストの12使徒
(裏切りのユダの代わりにマティアが既に参加)
や従った人々が集まって
祈りを捧げていたところに、
キリストのお告げとおり聖霊が降りてきたといわれます。
復活して歩き回っていたキリストが昇天して
その遺体が見当たらないことで
突然姿を消したナザレのキリストを捜す当局の捜査や
尋問から逃れるために
使徒たちの集まった家の扉はきつく閉ざされていました。
突然雷鳴のような爆音が響き、
閉ざされているはずの家の中に風が吹き荒れます。
すると、その場にいた人々は聖霊に満たされ、
それぞれが突然、聴くものそれぞれの母国語で話し始め、
これを受けて、多くの人がその場で洗礼を受けたと伝えられています。
聖霊の力を借りて、
キリストの死と復活の意味、罪の悔い改め、
そしてキリストこそが救世主であるという布教を行ったことで
イエスキリストを救い主だと信じる人々が増え
小さな集まりができたということで
これをもって「教会誕生」とするので、
ペンテコステ(聖霊降臨)はキリスト教にとって重要な行事となったのです。

絵画作品の中では
天空から聖霊のシンボルである白いハトが光を伴って降りてきて
赤い舌のような炎が聖母や使徒の上に描かれます。
おそらく最も知られているのは
マドリッドのプラド美術館に収蔵されている
エル・グレコ(El Greco)の作品でしょう。
個人的には彼の画法が好きではないのですが。
パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂
(Cappella degli Scrovegni)のジョットのフレスコ画の中では
ゴシック様式の建物風の閉ざされた空間に
12使徒のみが描かれ、聖母マリアは描かれていません。
聖霊も白いハトは描かれず、赤い光線として表現されています。
左から二人目がピエトロで、
「教会の始まり」を観るものに訴えかける構図になっています。
Giotto_scrovegni_pentecost