超人日記・俳句

自作俳句を中心に、自作短歌や読書やクラシックの感想も書いています。

<span itemprop="headline">「すいか」の瀬戸際感</span>

2008-11-11 23:05:07 | 無題

2003年夏に放映された木皿泉脚本、小林聡美主演の連続テレビドラマ「すいか」は一部では熱烈に受けたが、視聴率には反映されなかったらしい。主人公の小林聡美演じる基子は、30代半ばの信用金庫勤めの会社員。浮いた話もなく、母にいくつになっても世話を焼かれるのに嫌気が差して、家を出てまかない付きの共同住宅に間借りする。この共同住宅はそれぞれの個室の他にダイニングキッチン兼リビングルームがあって、いろんな境遇のいろんな世代の女たちが、ここでご飯を食べ、とりとめのない話をする。
堅実さが取り柄の基子には、いつも気になる人物がいた。同じ信用金庫の友人で3億円を横領して警察に追われている馬場ちゃん(小泉今日子)である。色んな変化が有りつつも平穏な毎日を送る基子と3億円は手にしたが瀬戸際の人生を生きる馬場ちゃんは好対照である。基子は実は馬場ちゃんの劇的な人生に一種の憧れがあって、ドラマの最後に馬場ちゃんは自分と一緒に海外に高跳びしないかと基子を誘う。航空券と大家のゆか(市川実日子)に頼まれた夕食の買い物メモとどちらかを選べと馬場ちゃんは言う。一旦は同情して航空券を手にする基子だが、馬場ちゃんは友達を犯罪の巻き添えにはできないと基子に買い物メモを返す。基子は新しい買い物メモを馬場ちゃんに渡して、今度共同住宅に訪れる時に買ってきてねと約束する。だが瀬戸際の馬場ちゃんは買い物メモに書かれた白滝、牛肉などを唱えながら、光の中に飛び込んでゆく。明示されないが、馬場ちゃんは死を選んだに違いない。
基子の日常にも何が起こるかわからない恐怖があることが、教授(浅丘ルリ子)のせりふなどで暗示されるが、基子の平穏な日常と馬場ちゃんの瀬戸際の人生が明暗を成し、一つ間違えれば人は瀬戸際なのだと実感させられる。このドラマは人生を支える土台の不安定さを多様なエピソードで表現していて凄みのある作りだった。まかない付き共同住宅というライフスタイルも、ゲストハウスに間借りする女性が最近は増えてきて、時代を先取りする設定だった。温かいホーム・ドラマでありながら、瀬戸際の横領罪の馬場ちゃんの登場で平穏な人生のかけがえのなさが浮き彫りにされている。小林聡美の微笑ましい存在感を生かした映画ではフィンランドを舞台に日本食堂を堂々と経営する「かもめ食堂」や与論島で何もしないことを学んでゆく「めがね」が高い支持を受けた。その先駆けである「すいか」の視聴率が伸びなかったのは、テレビというものの難しさだろうか。



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