超人日記・俳句

自作俳句を中心に、自作短歌や読書やクラシックの感想も書いています。

<span itemprop="headline">チッコリーニのサティの永遠の無垢</span>

2013-11-14 20:21:38 | 無題

青澤隆明の現代のピアニスト30を読んで、チッコリーニのCDを聞きたいと思った。
そこでエリック・サティのピアノ曲全集(旧録音、1967-1971録音)を聞いた。(全集とはいえ欠けている曲あり)。
チッコリーニのサティは明朗なサティである。かと思えば時に思い深げに弾く。サティの移り気な人を喰った題のついた奇妙な旋律を淡々と弾きこなす。
薔薇十字会の最初の思想など淡泊でよい。
ナザレ人の前奏曲は祈りに近い。星たちの息子への前奏曲も宗教的な世界を扱っている。
短い曲がごまんとあるが、短い曲も一曲一曲題を追って聞いて行くと、興味津々である。
スケッチとクロッキーの手帖という曲だけ20分あって長い。
スケッチブックをめくっていろいろな過去の絵を眺めるように、曲想が浮かんでは消えて行く。
来し方行く末を思い至らせるような曲である。
エリック・サティの音楽は家具の音楽を自称していて、佇まいを聞かせる背景のような音楽ということで、環境音楽の先駆けとなったし、教会旋法を取り入れた調性の不安定な独自の旋律が現代音楽の先駆けとなった。
けれども通俗性と実験性の絶妙なバランスを持ち、ぶよぶよした犬のための前奏曲とかひからびた胎児のような奇抜な名をつけた小品に事欠かないが、耳を惹きつけるジムノペディやグノシェンヌなどの有名曲のほか、全体として朗らかな祈りの時間を共有した感覚に浸らせる。
聞き終えた感触は、サティは誰の心にもある、祈りのような感覚を音楽で伝えているという実感である。
チッコリーニの弾く明朗な遠い空の色のような演奏がサティ全曲演奏に祈りを響かせているとも言える。

青澤隆明さんが言うにはチッコリーニの演奏には時代を越えた無垢があるという。
晩成してより天真爛漫に解き放たれた演奏は、自在な時間感覚で音楽の喜びを奏でるらしい。
近年の演奏会はようやく長い道のりを経てたどり着いた、見晴らしの良い地平で伸びやかに歌われると聞く。CDで聞いても時間を越えた無垢が一音一音からあふれ出てくるのが聞き取れる。
サティの本質的な祈りに気づかせてくれただけで、このCDは聞く価値があった。チッコリーニの晩成の境地を実際に聞いてみたい。
ナザレ人前奏曲を青空に響かせて弾く永遠の無垢



コメント
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