カラダよろこぶろぐ

山の記録と日々の話

秋休みは黒部へ・4

2019-09-29 | ヤマのこと



雷鳥さん(o^^o)

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「う、ううう、、腹!腹が痛い」

うめき声の主はダンナだった


「食べ過ぎた?出たら治るんじゃないの?トイレ行ったら?」
「違う、出ない、そうじゃない、盲腸ってどっちだ?」
「イマドキ盲腸って(笑)」

最初はそんな軽い感じに思って、とりあえず整腸剤を飲ませたが
左の背中脇を押えて、唸りながら寝たり起きたり
額をさわればひんやり、冷や汗か?
普段二日酔い以外、体調悪くすることなんてないダンナ様
年も年だしこれはただ事じゃないかも・・・腎臓?膵臓?何か切れた?と思い始めた

対処の方法を調べたくともここは携帯圏外
どのみちこんな夜中に北アルプスの奥地で具合が悪くなっても
どうすることもできない

この状況の中で私に出来ることはたったひとつ、”手当て”
幸い、個室扱いで他に誰もいなかったので
”お願い、痛みよ治まって”と祈りながらダンナの脇腹をただひたすら擦った

擦りながらも
”こんな状態じゃ歩くことなんて到底無理だし・・・とうとうヘリのお世話になるのか・・・
でも明日から3日間は悪天候だから飛ばないだろうし”
”ここで人生終わったとしても、それはそれで諦めるしかないよね”

”あ、この連休明けの会社、人がいないから休めないんだ”
”動けないダンナだけ置いて下山するなんて冷たいよなぁ”
”ダンナのデカザック、あんな重いの持って降りれないし”
色んなことが頭の中駆け巡る

痛すぎてじっとしていることも出来ないらしいダンナは
いわゆる”のた打ち回る”状態で、部屋の中を立ったり座ったり転がったり
気がふれたのでは?と思うほど不思議な動きをしていた

2時間ぐらい経っただろうか、もうどうしようもなくて持っていた鎮痛剤を飲ませた

しばらくすると、ダンナの動きが止まった

「し・・・しんだ?」

とおそるおそるヘッデンを点けてみると・・・息はしている

様子を伺っていると、寝息をたてはじめたではないか!
鎮痛剤が効いたのか?
痛みが治まったのなら、その後のことは明日考えよう・・・


・・・そのまま私も眠ってしまい、気が付けば外がうっすら明るくなっていた。

「痛くない、歩ける」

いったい何が起きて何がどう良くなったのかは全くわからなかったが、
ふと、あの痛がり方は男性が良くやるアレではないかと気がついた
尿管結石?

だとしても対処の方法なんてわからない
鎮痛剤で治まっているとしたら、またいつあの状態が襲ってくるのかの恐怖から
歩けるうちに出来るだけ下界に近いところまで移動したいと思った
朝食は二人ともあまり喉を通らず、6:00、雨の中双六方面へ出発





雨は幸い小降りで助かった
チングルマの紅葉がかわいらしい道を、まずは三俣蓮華岳まで



昨日はあんなに穏やかだった、正面の台地・雲ノ平山荘





歩きながらも、何度も「痛みは?」と聞いてみるけど
あんなにのた打ち回ったのが嘘のように普通に歩いてる





雨の中、三俣蓮華岳へ
先が見えない、今の自分たちか・・・



こんな景色もない、体調に不安を抱えたまま黙々と歩く雨の稜線で
嬉しいことに6羽の雷鳥さんと出会った
雷鳥は神の使い、私たちを良い方向へと導いてくれるのかも





この日は当初、鷲羽か双六か
気分で歩いて鏡平山荘に泊まる、なんてのんびりな計画をしていた

でもこの天気じゃどちらにしても行けないから
分岐を”中道”経由で急ぎます






10:00 ひとつめの”ほっとポイント”双六小屋へ到着
以前、三俣分岐から巻道に入ったら飽きるほど長かったので、
今回は初めて通る中道を歩いたけど
こちらは登り返しもなく、短時間で歩けて良かった



お腹が空いたとの事で、双六小屋で”五目ラーメン”を食べるダンナ様
頭からびしょ濡れ状態だったが、玄関の土間で休ませてもらってありがたかった




エネルギー補給がすんだらまずは鏡平山荘まで
今回、あちこちの道標がみんなりっぱになって、○や⇒のマークも増え
ずいぶん解りやすくなってるなぁ、と思いました




雨で煙るハナミダイラ
ここを通過するときはいつもこんな天気な気が しなくもない
でもこのルート上で初めて雷鳥さんに会った
今日3回目、頑張って生き延びてくれと願う



12:50 二つ目の”ほっとポイント”鏡平山荘へ到着

中に入り、受付のお姉さんに
「すいません、今日予約していたのですが、相方の体調がすぐれないので
今日中に下まで降りようかと思って。
わさび平小屋に変更して頂いても良いですか?」

あ、そうですか
で終わると思っていたら、

「どうされましたか?大丈夫ですか?」

お姉さんがオーナーさんを呼んできた

「ここが痛いって(左の背中脇を指して)言ってませんでしたか?」
「はい、そうです」
「それならきっと尿管結石ですよ!私は二度やってます
今は歩けているんですか?何時に発症しましたか?
石が下まで降りるのに3回痛くなって、出てしまえば大丈夫なんですが。
え?まだ1回しか痛くなってない?んー、でも痛みがないのなら小さかったのかもしれません。
発症してまだ時間がたってないならここで休むのをお勧めしますが
8時間経ってるから下でも大丈夫かな、下ならいざという時救急車も入れるから」


何の前触れもない急な激痛、訳が分からず不安だった私たちにとって
経験者の言葉はとても安心できた


その上、たまたま山荘からパトロールに出発しようとしていた山岳警備隊の方が4名いらして
一緒に話を聞いて、僕も昨日、医者で見てもらって来たばかりだよ、いう経験者がいた


「尿路結石と言っても状況によっては危ないんです
そういう時はすぐにおろさなければいけないけど、この天気でヘリは飛ばない
担いでおろすことになるけど・・・歩けるなら大丈夫かな?
この先下山途中で もしまた痛みが襲ってきたら、すぐに電話して!いつでもウエルカムだよ!」

・・・なんて親切な皆さんなのでしょうか、涙でそう。

体調が悪いと言っただけでこんなに親身になってくれて、
色々アドバイスもくれて
赤の他人なのにダメならすぐに助けにくるから、って。。。

他人を傷つけるのが平気な人間たちが起こす事件が多い中で
困っている人は助けるのが当たり前、と接してくれるこの方々の尊さと言ったら
誰かを助けるためには自分だって命がけなのに
山岳救助という任務で 何度も辛い状況を目にしてきたからこその優しさなのか
彼らの明るさと力強さは 不安でいっぱいだった私たちにどれだけ元気をくれた事でしょう




「いろいろありがとうございました!」

そう挨拶をして紅葉にはまだ早い小池新道を降りていく
はっきりと病名が分かった訳でもないし、今だけ鎮静状態なだけかもしれない
でも、人の優しさに包まれてさっきよりもずっと足取りも軽く



なった、と思ったのは気のせいで・・・
秩父沢を渡る頃にはお腹はペコペコ、足は全体的に痛くなって
もう歩くの嫌かも・・・



と最後の力を振り絞って登山口ゴール!
ここまでくればもう倒れても安心(?)

朝、6時に黒部五郎小舎を発ってから9時間45分、
15:45、三つ目の”ほっとポイント”ようやくわさび平小屋に到着



小屋のお姉さんには鏡平山荘から無線が入っていて
「大変でしたね、ゆっくり休んでください。痛みとか何かあったらすぐに言ってくださいね」

最後まで親切すぎる・・・


わさび平小屋に泊まるのは初めて
お風呂があったので全身びしょ濡れの身体もさっぱりできたし、
手作りの美味しいご飯を頂いて、張りつめていた全身の力が抜けました・・・



突然の出来事でどうなる事かと思ったけど、
痛みが引いて歩けたのは本当にラッキーだったと思う
あのままだったらどうなっていたかと・・・

山を歩いた満足感よりも、山に関わる皆さんの溢れるほどの優しさに
心の中をあったかいもので一杯にしてもらった今回の山旅


山にくるといつも思う
親切にしてもらった分、私もまたどこかで困っている人の力になりたい
人と人との関わりは 利害関係などないシンプルなもの
人に本来備わっている助け合いの心は どこにいても忘れたくないと




長々お読みいただきありがとうございました。






       
【行程】わさび平小屋→新穂高ロープウエイBS7:50→平湯BS→松本BS 松本→(あずさ)→新宿13:30


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追記:帰宅後病院でCT検査等の結果、他の病気ではなくやはり結石だったのでしょうとのことで一安心