ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2017.12.28 仕事納めに想うこと~いのちの値段

2017-12-28 21:19:23 | 日記
 今日は仕事納め。昨日の投与翌日とあって、朝から体調はすこぶる悪い。明け方気分が悪くて目が覚め、そのまま眠れず。
 昨夜早めにベッドに入ったので4時間ほどは眠っていたものの、起き出すには余りに早いし、眩暈もするし。1時間ほどぐずぐずしていたら夫がお手洗いに起きたので、ちょっとだけ、と話しかけてしまった。夫はそれで目が覚めてしまったらしく、もう起きる、と寝室を出た。私はその後もしぶとく1時間ほどベッドでウダウダしていた。

 食欲がないので朝食はパンをひとかけ、果物とお茶だけ。夫が出かけるタイミングで息子を起こして「片付かないから早く食べて」と言うと、「お母さんのその台詞を聞くと帰って来たなあと思う。」と。子供の頃からいつもいつも、そう言って急かしてきたのだなと改めて思う。

 出勤すれば昨日溜まったメールなりなんなりやることは山積。既に昨日で仕事納めとしている人もそこかしこに。そんなわけで空席が目立ち、一層事務室が冷えている。
 とはいえ、やることがあるということは不思議なくらい体調不良を忘れる。午前中大車輪で頑張って大分書類のヤマを崩すことが出来た。なんとか6日間の年末年始休暇に突入出来そうである。

 今朝、読売新聞の連載、医療ルネサンス「いのちの値段」読者の声<上>高額治療 社会の負担思う、の記事に眼が釘付けになった。

 昨日の治療納めで今年1年の私一人の支払合計額が出た。32回の通院、3割負担で110万弱である。これでも抗がん剤の量は半分に減量、かつ2投1休を隔週にしたので、実際には既定量より大分少なくなっている。つまり既定どおりに投与したとなれば、この倍はかかったことになる。7割は共済組合に負担して頂き、さらには高額療養費で還付さえして頂いている。

 この記事では、人工透析と高額のがん治療薬(オプジーボ)に対する声が取り上げられていたが、88歳の透析患者さんの言葉が私にとても響いた。「自己負担がわずかな透析に、生活費の4倍近い医療費が費やされる。『社会に尽くしてきたご褒美』と受け止めてきたが、医療体制が整わない途上国で命を落とす子どもの姿をテレビで見るたび、『日本は恵まれすぎ』と感じていた。社会に負担をかけているという『後ろめたさ』から逃れたい気持ちや、透析による延命は自然ではないという思いもある。『元気で動けるうちは思い切り納得できる生き方をして、だめになったら透析をやめる』と考えるようになった。」とあった。

 そう、他でもない。私がこうして治療を続けながら生き長らえているということは、社会に負担をかけている、という後ろめたさが今の私の中にも大きな存在感を持って“ある”のだ。
 もちろん33年間近く働き、欠かすことなく毎月数万円単位の掛け金を支払い続けてきた。若い頃、健康な時は「高いな」と思ったけれど、こうして実際10年近く毎月お世話になっていると、本当に申し訳ない気持ちで一杯になる。

 ある時、思いもかけない人から「(医療費が嵩んでその上還付まであるから、毎月の掛け金は払っているかもしれないけれど)充分モトを取っているよね。」と言われた言葉がずっと胸に突き刺さっている。
 ヨーガの智慧で、考えても仕方のないことは考えない、をモットーにしてはいるけれど、こうした記事を読むことでその後ろめたさが蘇ってきたということは、まだまだ自分の中で浄化し切れていなかったのだ、と思い知らされた。

 勝手な理屈かもしれないが、自分が冗談で言うのは、良い。けれど、他人様からこう言われてしまったら、医療費を使わせて頂いている患者としては立つ瀬がない。「私は掛け金でモトを取ろうなどとは思っていなかった。掛け捨てになろうが、病気にならずに健康でいられた方が良かった。あなたはモトを取りたいの?私の代わりに同じ治療をし続けてくれますか?」と喉元まで出た言葉を飲み込んで下を向き、黙るしかなかった。

 オプジーボなど高額な治療薬について、日本対がん協会長でおられる垣添忠生先生がおっしゃった、高額で保険財政を圧迫するオプジーボは若い人が(優先的に)使った方が良いという思いに対しても、とても心が揺れた。
 確かにまだ現役世代の私は、80代、90代の大先輩からすれば小僧の若い部類に入るのかもしれない。けれど、30代、40代という実際にもっと若い患者さんたちからすれば、私はあと数年で退職する年齢の先が見えた、 “若い人”では決してない世代でもある。そんな私は高額な新薬を使うことを望んではならないのだろうか。

 考えても仕方ないことは考えない、と思いつつもいのちの値段を改めて想う仕事納めの夜である。
コメント
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