金正恩がマンガ本になりました。しかしたかが漫画というなかれ。作者の河泰慶は対北ラジオ放送「開かれた北朝鮮放送」代表。北朝鮮の人権問題の第1人者で、閉じられた北の住民に世界の情報を流し、世界に向かっても北朝鮮の深刻な実態を伝えておられる方です。
この本の記載は正確と客観性を重んじ、北内部からの極秘通報や、脱北者はじめさまざまなルートから得た情報をもとに仕上げられています。原本の韓国語版は2010年に刊行され、日本語版は2011年7月に出版されました。
同書あとがきは、デイリーNK日本支局長の高英起。私見をいくらかまじえていますが、ダイジェストで紹介します。
北朝鮮人が外国人に政治向きの話をすることはタブーであり、同国内法にふれる。発覚すれば処罰を受ける。それでも危険を冒して聞こえて来る。
「金日成の時代はまだよかった。金正日の時代になってから生活が苦しくなった」
北朝鮮の食糧難が深刻になりだしたのは1990年代中盤からである。金日成の死去は1994年7月だが同年ころに約10万人、それ以降の90年代後半には300万人以上の大衆が餓死した。
食糧難の根本的原因はソ連崩壊後、金日成時代の経済政策の失敗にある。しかしまだいくらか「食べられた」。しかし後継の金正日は絶対権力を握るとともに、軍を最優先する「先軍政治」をスローガンに国家予算を軍に注ぎ込んだ。なかでもミサイルと核兵器開発に力を入れ、一般家族が生命をつなぐささやかな食は無視された。
民衆は当局に期待せず、生きるために勝手に小商をはじめ自立をめざした。ところが2009年末、政府は電撃的に「貨幣改革」(デノミネーション)を断行した。このため、北朝鮮の住民が血のにじむ思いで築きあげてきた生活基盤が破壊されてしまった。民心はますます離反してしまった。
人気のない金正日といまだ根強い人気を持つ金日成。だからこそ金正恩は、祖父の金日成に似せたのであろう。しかし北朝鮮の苦肉のイメージ戦略は、必ずしも成功しているとは言い難い。
2012年は金日成の生誕100年、金正日の誕生70年目、そして29歳になるはずがどうも金正恩生誕30周年の予定だそうです。正日と正恩がともに年齢を1歳偽るのは、10年ごとに金日成生誕祭を大々的に行なってきたため。祖父と父と息子の3人が10年ごとに国をあげて同時に祝ってもらうためである。
そして今年は祖父100周年の「強勢大国」の記念すべき年である。金正日はこれまで公言してきた。「2012年の記念すべき年に強勢大国の扉を開く」と。しかし北朝鮮の民衆からは、露骨に批判の声があがっている。
「一体だれが強盛大国の門を通り過ぎるのか?」
「強盛大国はどの町まで来た? 私たちの町まで来るのか?」
北朝鮮住民は「冷めている」。住民たちが望むのは空虚なスローガンではなく、食べさせてくれる「指導者」だ。また20年以上にわたって、血の粛清を繰り返して権力を掌握してきた金正日と違い、金正恩の無理なデビューはあまりにも早すぎる。早いがゆえに今後、さらなる粛清の嵐が吹き荒れるかもしれない。
一方の韓国は2012年に大統領選挙が控えている。北朝鮮に対して強硬政策を貫き、まさに金正日にとって目のうえのタンコブだった李明博大統領は任期を終える。現時点では、与党ハンナラ党の朴槿惠が最有力候補だ。広く知られていることだが、朴槿惠は1974年に凶弾に倒れた朴正煕の娘である。生存時の朴正煕と金日成は互いに最大のライバル同士だった。仮に、朴槿惠が次期大統領となり、同時に北朝鮮で金正恩が権力を掌握すれば、かつてのライバル同士の孫と娘が相まみえることになる。
○参考書『マンガ 金正恩入門―北朝鮮 若き独裁者の素顔ー』
河泰慶作 崔炳善画 李英和監修 李柳真訳 2011年7月刊 TOブックス発行
<北朝鮮を考えるための緊急集会のご案内>
「どうみる、どうなる金正恩体制」拉致家族・脱北者と北朝鮮専門家のシンポジューム
2月4日土曜日 13時開会 薬業年金会館(大阪谷町6丁目駅横)会費900円
第1部 どうみる 金正恩体制
最新北朝鮮ビデオ上映(アジアプレス大阪提供)
講演 李英和・萩原遼
訴え 有本明弘・嘉代子夫妻(拉致被害者家族)
南新一(在日脱北者人権連合)
斉藤博子(日本人妻)
第2部 どうなる、どうする 今後の対応
講演 久保田るり子・五味洋治
討論 三浦小太郎(司会)
主催 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会 TEL 072-990-2887 (自由参加)
<2012年1月15日記>
この本の記載は正確と客観性を重んじ、北内部からの極秘通報や、脱北者はじめさまざまなルートから得た情報をもとに仕上げられています。原本の韓国語版は2010年に刊行され、日本語版は2011年7月に出版されました。
同書あとがきは、デイリーNK日本支局長の高英起。私見をいくらかまじえていますが、ダイジェストで紹介します。
北朝鮮人が外国人に政治向きの話をすることはタブーであり、同国内法にふれる。発覚すれば処罰を受ける。それでも危険を冒して聞こえて来る。
「金日成の時代はまだよかった。金正日の時代になってから生活が苦しくなった」
北朝鮮の食糧難が深刻になりだしたのは1990年代中盤からである。金日成の死去は1994年7月だが同年ころに約10万人、それ以降の90年代後半には300万人以上の大衆が餓死した。
食糧難の根本的原因はソ連崩壊後、金日成時代の経済政策の失敗にある。しかしまだいくらか「食べられた」。しかし後継の金正日は絶対権力を握るとともに、軍を最優先する「先軍政治」をスローガンに国家予算を軍に注ぎ込んだ。なかでもミサイルと核兵器開発に力を入れ、一般家族が生命をつなぐささやかな食は無視された。
民衆は当局に期待せず、生きるために勝手に小商をはじめ自立をめざした。ところが2009年末、政府は電撃的に「貨幣改革」(デノミネーション)を断行した。このため、北朝鮮の住民が血のにじむ思いで築きあげてきた生活基盤が破壊されてしまった。民心はますます離反してしまった。
人気のない金正日といまだ根強い人気を持つ金日成。だからこそ金正恩は、祖父の金日成に似せたのであろう。しかし北朝鮮の苦肉のイメージ戦略は、必ずしも成功しているとは言い難い。
2012年は金日成の生誕100年、金正日の誕生70年目、そして29歳になるはずがどうも金正恩生誕30周年の予定だそうです。正日と正恩がともに年齢を1歳偽るのは、10年ごとに金日成生誕祭を大々的に行なってきたため。祖父と父と息子の3人が10年ごとに国をあげて同時に祝ってもらうためである。
そして今年は祖父100周年の「強勢大国」の記念すべき年である。金正日はこれまで公言してきた。「2012年の記念すべき年に強勢大国の扉を開く」と。しかし北朝鮮の民衆からは、露骨に批判の声があがっている。
「一体だれが強盛大国の門を通り過ぎるのか?」
「強盛大国はどの町まで来た? 私たちの町まで来るのか?」
北朝鮮住民は「冷めている」。住民たちが望むのは空虚なスローガンではなく、食べさせてくれる「指導者」だ。また20年以上にわたって、血の粛清を繰り返して権力を掌握してきた金正日と違い、金正恩の無理なデビューはあまりにも早すぎる。早いがゆえに今後、さらなる粛清の嵐が吹き荒れるかもしれない。
一方の韓国は2012年に大統領選挙が控えている。北朝鮮に対して強硬政策を貫き、まさに金正日にとって目のうえのタンコブだった李明博大統領は任期を終える。現時点では、与党ハンナラ党の朴槿惠が最有力候補だ。広く知られていることだが、朴槿惠は1974年に凶弾に倒れた朴正煕の娘である。生存時の朴正煕と金日成は互いに最大のライバル同士だった。仮に、朴槿惠が次期大統領となり、同時に北朝鮮で金正恩が権力を掌握すれば、かつてのライバル同士の孫と娘が相まみえることになる。
○参考書『マンガ 金正恩入門―北朝鮮 若き独裁者の素顔ー』
河泰慶作 崔炳善画 李英和監修 李柳真訳 2011年7月刊 TOブックス発行
<北朝鮮を考えるための緊急集会のご案内>
「どうみる、どうなる金正恩体制」拉致家族・脱北者と北朝鮮専門家のシンポジューム
2月4日土曜日 13時開会 薬業年金会館(大阪谷町6丁目駅横)会費900円
第1部 どうみる 金正恩体制
最新北朝鮮ビデオ上映(アジアプレス大阪提供)
講演 李英和・萩原遼
訴え 有本明弘・嘉代子夫妻(拉致被害者家族)
南新一(在日脱北者人権連合)
斉藤博子(日本人妻)
第2部 どうなる、どうする 今後の対応
講演 久保田るり子・五味洋治
討論 三浦小太郎(司会)
主催 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会 TEL 072-990-2887 (自由参加)
<2012年1月15日記>