水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (53)いいこと

2021年04月04日 00時00分00秒 | #小説

 疲れるという言葉は、どこか嫌(いや)ぁ~~な感じを人に与えるが、なにも疲れて悪いとは限らない。疲れることで、空腹にひとっ風呂(ぷろ)浴びたあとの美味(うま)い喉(のど)越しのビールと料理が味わえる。^^ 疲れたあとにはそんないいことが待っているのである。お彼岸でお墓参りをされる季節になったが、人の世にはそんな妙味のあるいいことがある訳である。^^ 努力しない人には妙味のあるいいことはありません。^^
 お彼岸で賑(にぎ)わう、とあるお墓である。柏葉(かしわば)は残業続きの疲れた身体を引きずり、墓参に来ていた。
「おやっ!? 桜餅さんのご親戚の方で?」
 お隣(となり)の墓で花を手向(たむ)ける見かけない人を訝(いぶか)しげに窺(うかが)いながら、柏葉は思わず訊(たず)ねた。というのも、桜餅の通り向かいの家が柏葉の家で、当然ながら、両家の間にはご近所付き合いがあったからである。
「いえ、そういう訳では…」
「すると、お知り合いの方で?」
「いえいえ、そういう訳でも…」
「…というとっ?」
「ええまあ…。天気もよろしいし、することもなかったもんで、知らない方のお墓参りもいいかな…と。なにか、いいことがありそうな気がしたもんで、つい…。ははは…どこのお家(うち)でもよかったんですよ…」
「… なんだ、そうでしたか…」
 柏葉は妙な人だな…とは思ったが、よくよく考えてみれば、知らない人のお墓へ参って悪い・・という決まりもない訳である。
「それじゃ、私はこれで…」
「はあ! ご苦労さまでした…」
 去ろうとする紳士風の男に柏葉は思わず労(ろう)を労(ねぎら)う声をかけていた。その瞬間、疲れた身体の柏葉も、何かいいことをしたような気分の昂(たか)ぶりを感じ、疲れが取れていた。
 いいことがあれば疲れることも疲れなくなるようだ。^^


                   完


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