水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (77)熟(こな)す

2021年04月28日 00時00分00秒 | #小説

 熟(こな)す・・とは思っていたことをやり遂げることである。当然、やってしまわねばならない…と意気込まなければならないから疲れることになる。^^ やってしまわねばならないことはない…と思えばいい訳だが、世の中、そうは問屋(とんや)が卸(おろ)さず、熟さねばならない訳だ。^^
 とある片田舎の魚屋である。主人が店頭に並べた鮮魚(せんぎょ)を見ながら腕組みをしている。どうも思案気(しあんげ)な様子だ。そこへ奥から、おかみさんが顔を出した。
「あんた、どうしたんだいっ! 腕組みなんかしてさぁ~」
「なんだ、おっ母(かあ)か…。いや、なんでもねぇ~んだがな。この魚、売っちまわねぇ~となっ!」
「そりゃ、そうさっ! 売っちまわないと、あんた。払いもあるんだからさぁ~」
「ああ…。そうは言ってもなぁ~。買うのはお客だからなっ!」
「でもさぁ~、熟さないとさぁ~」
「ああ、そりゃ、そうなんだが…」
「心(こころ)一つさっ! 売れるっ! って思やぁ~売れるさっ!」
「ははは…お前の言う通りだっ! 一つ、意気込んで熟すとするかっ!
「ああ、その意気だよっ! 熟すさっ! 疲れるけどねっ!」
「ああっ!」
 二人は決意を新たにお客を待ち続けた。その意気込みが通じたのか、お客が一人…また一人とやってきた。熟せたのである。^^
 熟すには、疲れるのを覚悟で意気込み続けることが大事なのである。^^

                   完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする