水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (68)あと少しで…

2021年04月19日 00時00分00秒 | #小説

 いつやら、別の短編集に[あと一歩で]だったな? と思うが、そんなタイトルのお話を書いたように記憶している。あと少しで…と、タイトルしたこのお話も、ほぼ同じような意味合いである。ただ今回は、疲れるといった見方で掲載したいと思う。勝手に掲載してりゃいいだろっ! と思われる方は適当に寛(くつろ)いでいて下さればそれで結構です。^^
 とある競技場である。アナウンサーが興奮気味に、とある番組の実況中継をしている。それもそのはずで、マラソン距離42.195Kmを走り終えようとするランナーの到着を今か今かと待ち構えているからである。ゴール正面にはテープが二人の役員の手によって張られている・・といった寸法だ。ゲートをくぐり終えた選手が片手でガッツポーズを居並ぶ観客達に見せる。笑顔が零(こぼ)れるのは、あと少しで…という先の見えた安心感と後ろから追ってくるランナーがいないということもあるからだろう。
『は、入ってきましたっ!! つ、疲れていますが、だ、大丈夫でしょう!! 大丈夫ですっ!! が、頑張れ~~っ!!』
 アナウンサーの隣(となり)に座る解説者が、『あんたの方が疲れてるじゃんっ!』といった顔で解説者をチラ見する。グラウンドを一周し、やがてランナーは両手を挙げ、笑顔でテープを切った。
『ぅぅぅ…やりましたねっ!! き、金メダルですよっ!』
『そ、そうですね…』
 解説者は、『疲れるアナウンサーだな…』と思いながらも同調する。そして、『あと少しで…』と早く番組が終わらないかな…と腕時計を見る。
 あと少しで…は、どんな場合でも疲れるのである。^^

                   完


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