水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (65)期待

2021年04月16日 00時00分00秒 | #小説

 期待を余りしなければ疲れることはない。要は、期待することでコトが期待通りに行かなくなったとき、気疲れする訳である。宝くじがそうで、〇千万円とか〇億円という額に微(かす)かな期待を寄せる訳だが、結果は残念ながらガックリする期待外れとなる。今日はそんなテンションを下げさせる疲れるお話だ。^^
 オリンピックが延期となり、金メダルを期待されていた選手がアングリとした顔で街を歩く人々を眺(なが)めていた。人々の顔はマスクも、マスク、そしてマスク姿だった。選手自身にも期待されている自分が、まんざらでもなかったのである。
「ぅぅぅ…」
 選手は呻(うめ)くような無念の声を漏(も)らした。その時、選手のコーチが静かにやってきた。
「おい、喜べっ! お前の好きな店の予約が取れたぞっ!!」
「ええっ! それ、本当っすかっ!!」
「お前に嘘(うそ)を言ってどうするっ! ははは…一日中、お前の好きなウナギ三昧(ざんまい)だっ!」
「特上のうな重、肝(きも)吸い、うな肝(ぎも)の串焼き、櫃(ひつ)まむし、白焼きっ!」
「それに、ウナ茶漬けっ! 堪(たま)りませんねぇ~~っ!」
 選手の下がったテンションは俄(にわ)かに回復した。ところが、その二日後である。
「すまんっ!! 店がしばらく閉店するそうだっ!」
「ええ~~っ!!」
 選手はふたたびの期待外れで、倍、疲れることになった。
 期待しなければ疲れることはないというその一例である。^^

                   完


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