水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (70)維持(いじ)

2021年04月21日 00時00分00秒 | #小説

 この世の物や物事はすべて劣化し、消耗する。少しでもそうなるのを食い止め、維持(いじ)することに努めれば、物や物事の寿命は延びることになる。人の命もまた然(しか)りで、天寿は仕方ないが、身体をケアして維持すれば長寿を保てる訳だ。まあ、維持しない方が病(やまい)に倒れたとしても、それは私の与(あずか)り知らぬところである。^^
 とある温泉である。源泉が湧きだす近くで腕を組みながら話す二人の男がいる。どうもこの温泉で店を出すご主人と番頭らしい。
「しかし妙だっ! ここ最近、白い湯が赤茶けて出る…」
「旦(だん)さん、ひと月ほど前の地震のせいじゃないんですかっ!?」
「おっ! そういや、そんなことがあったな…」
「泉質が変わったのは、確か…あの頃からですよっ!」
「なるほど、そういうことか…。こればっかりは維持しようがないっ!」
「自然には勝てません…」
「うちのが実家へ帰ったのも、あの頃だったな…」
「そうでした、そうでしたっ! 確か、地震のあとでしたよね、奥さん出ていかれたのは…」
「ああ…。人間関係を維持するって~のも疲れるっ!」
「はいっ! で、どうします!?」
「んっ!? 待つしかなかろ…」
 番頭は、その言葉に泉質と奥さんの二つの意味を感じた。
 すべてに言えることだが、維持するのは疲れるほど難しいのである。^^

                   完


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