水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (93)迷い

2022年03月09日 00時00分00秒 | #小説

 迷いがないと気分が明るくなる。その逆に、迷いがあれば、当然、気分が暗くなる。この男、抜歯(ぬけば)も、迷いごとが出来たことで暗くなっていた。
「抜歯さん、どうかしました? 顔色が蒼いですよ…」
 部下の課長補佐代行、目脂(めやに)が訝(いぶか)しげに抜歯を窺(うかが)った。抜歯が暗い顔をしていた理由は、迷いが生じていたからである。もう一人の課長補佐、薄毛(うすげ)と副課長ポストをかけて熾烈(しれつ)な競争を水面下でしている身である。目脂は果たして課長の腋臭(わきが)にどんな袖(そで)の下(した)を送ったんだろう? ヤツのことだから、数万円ぐらいの品か…。だったら俺も数万円の品を…いや、待てよっ! 返って昇格を仄(ほの)めかすというのも見え透いていて逆効果か…。ならば、やはり数千円くらいの毎年の品でいいか…という迷いが生じていたのだ。迷いに迷った挙句、抜歯は結局、数千円の品にすることにした。一方、出世コースの競争相手と目(もく)された薄毛は、腋臭への付け届けのことなどまったく考えていなかったから、明るい顔でルンルン気分だった。♪フゥ~ワンワン~ニャニャ~~♪と、鼻歌も当然、飛び出してくる。その様子を目(ま)の当たりにした抜歯は、偉(えら)い余裕だな…と、いっそう暗い気分になった。
 その一ヶ月後、人事異動が発令され、どういう訳か二人の課長補佐は、別の課の副課長に同時昇格したのである。
 暗く迷っても、明るく迷わなくても、結果が変わることはない・・というお話である。^^

                   完


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