鱈腹(たらふく)は食堂で友人の控目(ひかえめ)と合い席で昼の定食を食べていた。鱈腹はハンバーグ定食を早々と食べ終えると、いつものように月見ウドンを頼んだ。控目もハンバーグ定食を食べていたが、食べ終えると席を立った。
「じゃあ、お先に…」
控目は鱈腹にそう挨拶して出口のレジへ向かった。
「あっ! そうですか。どうも…」
いつものことだったから、鱈腹は別に気にすることなく控目へ単に言った。レジで控目はハンバーグ定食の料金¥700の硬貨をきっちり支払うと店を出た。ここで、鱈腹と控目との間に支払い料金と時間差が生じた。
控目は会社へ早く戻(もど)ると鱈腹との間で出来た十数分の合い間を利用して、あるコトをしていた。日々変動する株価のデータ解析である。
「おっ! そろそろ、買いどきだな…」
控目はパソコンのキーを叩き、株を買い増した。
一方、その頃、食堂の鱈腹は月見うどんを食べ終え、¥700+¥400=¥1,100の札一枚と硬貨を支払って店を出た。控目の財布には千円札と僅(わず)かな硬貨が残り、鱈腹の財布には僅かな硬貨だけが残っていた。
この二人の差は、ほぼ一定のぺースで日々、続いたから、累積差は莫大なものとなっていった。
そして気づいたとき、控目は会社の大株主となり、執行役員に迎えられていた。一方の鱈腹は肥満ぎみの腹を気にしながら、相変わらずハンバーグ定食と月見うどんを食べ続けている。
完