水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (86)二択(にたく)

2022年03月02日 00時00分00秒 | #小説

 …AかBか? どちらかを選択しなければならない場合を二者択一(にしゃたくいつ)という。略して、二択(にたく)である。明るく笑いながら、どちらでもいいだろっ? などと言ってられるお人は気楽で、まだ救いもある。ところが、いやいやいや、やはりAか…いや、待てよっ! Bも捨てがたいっ! などと深刻に考え込まねばならないと、これはもう、テンションはダダ落ちで暗くなる。しかも踏ん切りがつかず、刻々と時間を消費するから最悪だ。
 この男、蕗崎(ふきざき)も二択で暗く思い悩んでいた。かれこれ小一時間が過ぎようとしていたが、いっこうに結論が出ない。
「ええいっ! 誰か決めてくれっ!」
 ついに蕗崎は二択の結論が出ず、叫んでいた。
「ど、どうしたんですっ!? お父さんっ!」
 蕗崎の大声に驚いた妻の鍋子がキッチンから飛んできた。
「いや…いいんだっ!」
 バツが悪く、蕗崎は誤魔化して暈(ぼか)した。ただ、その内心は、まだ二択中だった。蕗崎が悩んでいる二択は、次の出張先のホテルをAにするか? Bにするか?
 だった。そして蕗崎が出した最終解答[ファイナル・アンサー]は? Cホテルだった。^^ 蕗崎はようやく暗い顔から抜け出し、雲間から太陽が顔を出すかのように明るく笑った。二択から抜け出られたのである。
 二択は結論が出なければ気分が暗く、出れば明るくなるのである。^^

                    完


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