うっかり、朝寝坊した浅見はカップ麺で、遅(おそ)めの朝食を済ませた。時の流れの、なんと早いことか…と有名な文学者にでもなった気分で思ってみた浅見だったが、よくよく考えれば、寝坊しないよう目覚ましをセットし、○時には起きるぞっ! と意を決して眠ればよかったのだ。単にもうこんな時間か…と寝たものだから、迂闊(うかつ)といえば迂闊だったのだ。そんなことを思っている間に、カップ麺は出来上がっていて、すっかり伸(の)びてしまっていた。浅見は腰のない軟(やわ)い麺をズルズル…と口へ運びながら、ああ、俺の人生もこんなものか…と侘(わ)びしく思った。気づけば、何もない人生の2/3以上が過ぎていた。浅見は、早い…と、また思った。
ようやく食べ終え、今日は何もすることがなかったな…と巡っていると、昨日(きのう)やり残した修理が残っていたのを、ふと浅見は思い出した。これは急がないとっ! …と腕を見れば、すでに1時を回っていた。慌(あわ)てて浅見は、やり残しの修理に取りかかった。修理は殊(こと)の外(ほか)手間取り、浅見が終わって腕を見ると、すでに5時前になっていた。休憩する間(ま)もなく、楽しみにしていたコーヒーの一杯も飲めない恨(うら)めしい気分で浅見は修理道具を収納し終えた。思わず、時の巡りは早い…と浅見は思った。だがまあ、これからひと息いれればいいか…とインスタント・コーヒーの粉を入れたマグカップに湯を注いだとき、ピンポ~ン! と玄関のチャイムが鳴った。なんだっ! と、浅見は少し怒り気分で玄関へ急ぎ、「はい!」とひと声かけた。するとすぐ、『書留ですっ!』と返ってきた。浅見が以前、受けた入社試験結果の返信の封書だった。結果は合格していた。早いなっ! と思ったが、その早さは浅見にとっては他の早さと違い、いい意味で早かった。
早い…と感じる場合も、良い悪いと、いろいろある。
完