水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑える短編集 -14- 馬鹿と利口

2022年03月30日 00時00分00秒 | #小説

 課長補佐の川久保は、書類を手にコピー機へ向かいながら、馬鹿とハサミは使いようか…と、ふと思った。ならば、利口な場合はどうする? と、また思った。利口は、いろいろと対応を考える。馬鹿のようにスンナリ右から左へとは動いてくれない。その対応が、使おうとする者にとって厄介(やっかい)だったり、場合によると邪魔になってしまうのだ。左から右に動かれ、反発を食らうことも覚悟せねばならない。考えるなっ! とも言えず、難儀(なんぎ)なことになる訳である。かといって、馬鹿ばかりだと仕事にならない。
「君、これ…済まんが、ついでに頼むよっ!」
 課長の豚原(ぶたはら)は、営業先へ向かおうと席を立った餌場(えさば)に声をかけた。豚原の手には一通の封書が握られていた。
「はいっ! ポストへ入れておきます…」
 餌場は快(こころよ)く引き受け、封書を受け取った。私用ながら、豚原は課長という目に見えない地位の差を利用して餌場を使ったことになる。餌場は馬鹿ではないが、豚原によって利口に使われた・・ということに他ならない。この二人の話を同じ課の川久保は書類のコピーをしながら見聞きしていた。そのとき、川久保は思った。課長は利口に餌場を使った訳だな…と。川久保は今、昼をどこで食べようか…と、豚原を使おうとしていた。豚原は食い道楽で食い馬鹿だったから、使えるはずだ…と川久保は使おうとしたのだ。
「これ、プレゼンの書類です。あとでお目通しください」
「んっ? ああ…」
「おっ! もう、こんな時間か。課長、昼、どうします? いい店が近くに出来たんですがね」
 川久保は豚原を使い始めた。
「いい店か…じゃあ、行ってみるか」
 豚原は川久保によって上手(うま)く使われそうになった。毎度のことながら、豚原はプライド上、部下には必ず奢(おご)ってくれた。川久保が上手く使ったというのは、その癖(くせ)を見逃さなかったことである。事実、川久保はこの日も絶品の食事をゲットした。
 馬鹿と利口を上手く使えると、世間はスンナリと生きられる。

                    完


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