下岸は買い物に出かけた。取り分けていつもと違うということはなく、ごく有りきたりの買い物をして帰宅した。
買い物袋を置き、ふと外を見ると、軒(のき)の雨樋(あまどゆ)に落ち葉が積(つ)もり、詰まっているのが見えた。恐らくは昨日(きのう)の激しい豪雨で流れ積もった・・と思われた。このままにしておけば、次に雨が降ったとき、雨水は下へ流れず、溢(あふ)れ落ちることは確実に思えた。このままには、しておけない! と、思う間もなく、下岸は動いていた。脚立(きゃたつ)を物置から出して雨樋の下で立て、上へ昇ると雨樋の落ち葉を少しずつ手で下へ掻き落とし始めた。しばらくすると、詰まっていた雨樋は、すっかり落ち葉がなかった状態へ戻(もど)っていた。下岸は幾らかの達成感を得て、満足げに脚立を元どおり物置へ収納した。さて! と買い物袋を手に家へと入り、買った物を出した。そこまでは何事もなかったように思われた。ところが、である。昼にするか…と、昼用に買って帰ったはずのチラシ寿司のパックを探したが見当たらない。買い物袋の物はすべて冷蔵庫へ収納したのだから、どこへも行くはずがない。買ったはずが…妙だ? と下岸は首を傾(かし)げた。レシートを確認すると、確かにチラシ寿司は買われていた。と、いうことは…と、もう一度、外へ出た下岸は、買い物袋を最初に置いた場所を確認した。だが、やはりチラシ寿司は落ちていなかった。となると…と、茫然(ぼうぜん)と視線を遠くに向けると、パックらしきものが畑の向こうに見えた。下岸が近づくと、食べられたあとのチラシ寿司のパックだった。カラスがカアカアカア…と嗤(わら)う声が聞こえた。してやられたかっ! と下岸は思った。つい、手抜かった失敗だった。どうも、雨樋を掃除している間に運び去られた形跡があった。やはり黒いだけのことはあるな…と下岸は失敗を反省し、油断ならないカラスの周到さに感心した。買ったはずが…と失敗しないためには、油断は禁物なのである。
完