コレッ! といったアイデアが長時間浮かばなかったときの気分は、さすがに暗いだろう。そんなとき、パッ! っと、思いもよらなかったアイデアが閃(ひらめ)けば、間違いなく気分は明るくなるはずだ。とある大学の付属研究所でも、まさにそれが現実になろうとしていた。
「き、教授ぅ~~!! つ、ついに、で、出来ましたねっ!!」
「ああ、狸崎(まみざき)君、つ、ついに出来たよっ!!」
新しい万能薬が完成し、狐山(こやま)教授は助手の狸崎を思わずハグした。
「く、苦しいですよっ、教授っ!」
「ああ、すまん、すまんっ! だが、数年前に、なぜこの研究方法が閃かなかったんだろっ!?」
「教授、閃きっていうのは、閃くときに閃くものですよっ!」
「そんなもんかねぇ~?」
「ええ、そんなもんです。 現に最近、僕に閃いた通勤方法なんですがね」
「通勤方法? 何だい、それは?」
「鯖尾(さばお)駅から乗るより、一つ先の焼鰯(やきいわし)から乗った方がお得だってことです」
「何だい、それは? ますます、分からんっ!」
「大した距離じゃないんでね。自転車で五分差なんですよ。それで運賃が50円安いんですっ! ひと月の定期ですと、すごいですよっ!」
助手の狸崎は明るい顔で説明した。
「ああ、そう…」
狐山教授は、大した閃きじゃないぞ…と、暗く思ったが、万能薬の完成に水を差すと思い、そうとは言わず笑って暈(ぼか)した。
閃きに対する評価は人それぞれで、明るくも暗くも思えるのである。^^
完