お米作りが自然と日本人の性格を育ててきました。その特徴を引き続きお話します。
前編のおさらいです。
1つ目は、働き者であることです。
2つ目は、人と仲良くすることを大事にしたということです。
3つ目は、水路を作るために数学(和算)が発達したということです。
4つ目は、木を植える文化があることです。
日本は山国で、全国どこの都道府県に行っても山があります。
山や平野に雨が降ると、何もないところでは、その雨がみんな海に流れていってしまい、洪水や土砂崩れなど、さまざまな災害が起こります。その雨水をせき止めるためにはダムが必要です。昔は今のようにコンクリートなどもありませんでしたから、代わりに木を植えたのです。
木を植えることがダムになると聞いても、ピンと来ないかもしれませんね。木が生えているところには、実は水がたまるのです。たまった水は地下水になり、降った雨がそのまま地上を流れていきません。それで昔の人は、水を失わずしっかり保っていけるように、山に木を植えたのです。だから日本中の多くの山は、きれいな緑でおおわれているのです。
5つ目は、豊かな食べものの文化です。
お米はそのままの状態では長く保存できますが、炊いてご飯にしてしまうと、すぐに腐ってカビが生えてしまいます。ところが昔の日本人は腐ることを利用して、さまざまなものを作りだしました。お酒やしょうゆ、みそなどがそうです。
今、しょうゆは世界中に輸出されて「ソイソース」と呼ばれ、おいしい調味料として知られています。お寿司などにつけて食べれば、すごくおいしいですね。
こういった非常に豊かで健康にもよい食べものの文化もやはり、お米とカビのおかげなのです。
6つ目は、自然を大切にする心です。
お米作りでは、水をしっかり管理しなければいけないし、天候の具合を注意して見ていかなくてはなりません。風が吹く時も吹かない時もあります。あまり暑すぎたり寒すぎたりすると稲に病気が発生して枯れてしまったりもします。だからいつも天候や自然のことを、お百姓さんは注意深く見守り、そこでいろんな事を感じて米作りに生かしてきたのです。その結果、自然を大切にする心が生まれ、日本人の中でその心がすごく大きくなっていったのです。
神社のまわりには森があり、森の中で耳をすますと風の音が聞こえます。もっと耳をすましていけば、きっと昔の人は神さまの声を聞くことが出来たのでしょう。いつ種まきをしたらいいのかも、お祭りをして神様の声を聞いて判断していたようです。だから神社は自然の声を聞くところであるし、神様の声を聞くところでもあったのです。それが自然を大切にする心というものを作ってきたのだと思います。
以上は稲作が日本人の性格形成に大きく影響したと考えられる理由です。
次にお米と経済(税や年貢)、それからお米と神事についてお話します。
大和朝廷の誕生後、645年に大化の改新と呼ばれる政治改革が行われると、世の中が大きく変わります。天皇を中心とした国家づくりが進められ、法律を定めて田んぼを国有化し、国民ひとりごとに一定面積の田んぼを与え、収穫したお米の約3%を税として納めることが義務づけられました。この頃からお米が経済の中心になりました。
1590年に天下統一を果たした豊臣秀吉は、税を正確に取り立てるため、田んぼの面積や生産量などを調べる「太閤検地」を行い、その土地の課税の基準となるお米の収穫量を決めました。徳川将軍家や国を治めた17世紀以降も、お米を増やすことが財政を豊かにするという考えは変わらず、お米の重要度は増すばかりでした。その一方で、土地を治める領主は徴収したお米を市場に売って必需品を手に入れたことから、お米の卸売をする米問屋が発達し、お米の流通や輸送を行う豊かな商人が誕生したのです。
古くは稲作を進めていくための敷地を持っていることが富や権力の象徴となっており、江戸時代では所有している米の多さが大名の勢力を図るバロメーターとしても使用されていました。
今でいう「お金持ち」という表現は、その当時に合わせるなら「お米持ち」という表現になるのでしょうか。
近世の日本においては、その土地から何石分のお米が獲れるか? という観点で土地の生産性・価値を表しました。これを「石高制」と呼びます。「加賀百万国」とは、加賀藩の領地全体で100万石のお米が獲れるという意味を表しています。お米がたくさん獲れるということが日本においては古くから非常に重要なことだったのです。
また石高は課税の基準ともなりました。石高に応じて「年貢」が定められ、その土地の農民はその量のお米を年貢米として納めました。
ここで、江戸時代の大名の石高ランキングです。上位10位は以下の通りです。
*1863(文久3)年幕府大目付調べによる
1.加賀・金沢藩 120万石 前田家
2.薩摩・鹿児島藩72万8000石 島津家
3.陸奥・仙台藩 62万石 伊達家
4.尾張・名古屋藩61万9500石 徳川家
5.紀伊・和歌山藩55万5000石 徳川家
6位以下は、肥後熊本藩54万石(細川家)、筑前福岡藩47万3000石(黒田家)、安芸広島藩42万6000石(浅野家)、長門萩藩36万石(毛利家)、肥前佐賀藩35万7000石(鍋島家)と続く。
徳川幕府は天領(直轄地)からの石高が400万石あったということです。
全国の諸大名の数は185で、最少石高の大名は2万石でした。
ちなみに、1石とは10斗にあたり、同じく100升、1,000合に相当します。
日本では、1食に米1合、1日3合がおおむね成人1人の消費量とされているので、1石は成人1人が1年間に消費する量にほぼ等しいと見なされ、1年で約150キログラムの米を消費していたことになります(1000合/1日3合で333日分)。簡単に言えば、10万石の大名は10万人を食べさせられる収穫があったということです。もちろん、このお米で野菜や魚などを買っていたので、養える人数はもっと少なくなります。
お米は、日本においては非常に特殊な意味を持ち、長らく税(租・あるいは年貢)として、またある地域の領主や、あるいは単にお家の勢力を示す指標としても使われてきました。
これは同じ米を主食とする国でも、日本以外ではほとんど例がありません。
長く続いてきたお米中心の経済を変えたのは、日本が近代国家へと歩み始めた1873年に行われた租税制度の改革です。この改革で、税はお米ではなくお金で納めるようになり、お米は本来の食べるものとなったのです。とは言っても大正時代における米騒動や、戦時中の米不足などと合わせて、お米の不作が国家を揺るがす事態になるような時期を経て今に至ります。
日本人はお米によって文化を形成し、お米のために戦ってきた民族ですので、まさに、お米の歴史が、日本の歴史と言っても過言ではないでしょう。
日本人にとってお米とは単なる食べ物ではありません。様々な儀式や風習など、日々の生活様式にも深く関わる特別な存在と言えるでしょう。お米がたくさん獲れることを祈願し、お米が食べられることに感謝をする。それは日本人が生活を営んでいく上で欠かすことのできない精神の持ちようであると言えます。
日本神話では、「天照大御神(アマテラスオオミカミ)」が、孫の「邇邇芸命(ニニギノミコト)」に宮崎県の高千穂に天孫降臨の際、「鏡・剣・勾玉」の「三種の神器」と共に「稲穂」を与えたと言われます。稲を植えて人々がご飯を食べて生きていけるようにという願いが込められています。そして、お米は神棚にもお供えをする大切なものなのです。
今も残るお米に関する儀式や伝統行事をいくつかご紹介しましょう。
・新嘗祭(にいなめさい)
秋に収穫された穀物を備えて神様を祭る儀礼で、毎年11月23日(勤労感謝の日)に天皇が行う大切な祭儀となっています。飛鳥時代に始まったと言われる実に歴史ある儀式です。
新嘗祭の中でも天皇が即位して最初に行なうものを大嘗祭(おおなめさい)と呼びます。
・田楽
平安時代に成立した日本の伝統芸能で、田植えの前に豊作を祈願して行う「田遊び」から発達したものと言われています。音楽と踊りで米づくりの様子を表現するなど、地域によって様々な形式で今も受け継がれています。
現在では東京・板橋の田遊びなど20数件が重要無形民俗文化財に指定されています。
その他に御田植(おたうえ)・花田植(はなたうえ)や夏祭り・秋祭りなど、全国各地で行われるお祭りの多くは、田の神に向けての豊作祈願または収穫感謝のために行われてきたと考えられています。
また、相撲の所作である「四股(しこ)」には元々、大地を力強く踏みしめることで土地から災いを追い払い、豊作を祈願するという意味合いがあると言われています。
日本で美味しいお米ができる理由は以下の通りです。
①水が豊かであること(大きな河川がある、山々からの雪解け水が利用できるなど)
②水はけの良い土であること(新鮮な水がどんどん入って、酸素が根に供給されること)
③昼と夜の温度差が大きいこと(日照時間が長いことも必要ですが、昼間と夜との温度差が大きい土地ほど稲作に適している)
「新潟県魚沼産のコシヒカリ」などは最高級のお米としてすっかり有名になりました。
また、日本ではお米の品質の高さを支える技術として、現在も気候や生産条件に合わせた品種改良が盛んに行われているのです。
さて、最後になりましたが、お寿司について一言。
世界中で有名になった日本のお寿司。
お米を使った日本食の代表格とも言えるお寿司は今や世界中で食べられています。
世界の人びとは最初にお寿司を見てビックリしました。
それは、生魚を食べていることとお米がにぎって型崩れしないことでした。
モチモチとした日本米でなければ、お寿司はにぎれなかったのです。
お寿司は日本米でなければ成立しえなかった世界が認める大人気の和食なのです。
天照大御神(アマテラスオオミカミ)様、邇邇芸命(ニニギノミコト)様、有難うございます。
---owari---
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