このゆびと~まれ!

「日々の暮らしの中から感動や発見を伝えたい」

「あったか」な国、ニッポン

2022年07月20日 | 日本
機内で温かな人々が繰り広げた心温まる物語。

(空の上の簡易ベッド)
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小学校4年生の娘は心臓病を患っており、今回、東京で手術をしていただいたのですが、この日は完治しないまま福岡に戻ることになりました。

治っていないことは、本人がいちばんわかっていました。長い間、抱いていた、思いっきり走るという夢が、またまた遠くなってしまったことも----。
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ANA(全日空)の機内では、座席上に簡易ベッドが取り付けられ、それをベージュ色のカーテンで仕切って、娘はそこに横になりました。2回目とはいえ、まだまだ慣れない娘は、不安と緊張から顔がこわばっています。妻と私もそうでした。

そんな私たちを、たくさんのCA(キャビン・アテンダント、客室乗務員)が、「ご搭乗ありがとうございます」「大丈夫ですよ」と温かく迎えてくださいました。

席につくと、私どもを担当してくれるCAが挨拶に来られました。「本日担当させていただきます〇〇です。どうぞよろしくお願いいたします。何でもお気軽にお声をおかけくださいね。おつらくないですか?」と、やさしく笑顔で話しかけてくれました。さらに自分の小学校時代の笑い話なども披露して、娘の緊張を取り除いてくれました。

空港までの長時間の移動で疲れたのか、やがて娘は眠ってしまいました。飛行機が飛び立ち、飲み物のサービスが終わった頃、CAが話しかけてくれたので、手術のこと、娘が飛行機に乗るのを楽しみにしていたこと、実は、今日が娘の10歳の誕生日であることなども、思わず、口にしてしまいました。

(空の上の「ハッピバ-スデー、トゥーユー」)
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しばらくして、娘が目を覚ましました。
すると、担当のCAさんと一緒に2人のCAさんがいらして、「ハッピバ-スデー、トゥーユー」と小声で歌い始めてくれたのです。
それだけではありません。「おめでとうございます」と手作りのキャンディバスケットとクルー(乗務員)の方々が書いてくださった励ましのメッセージ入りの絵葉書を持ってきてくださいました。

娘は突然の出来事にびっくりしながらも、うれしそうに微笑んでいます。久しぶりに見た娘の笑顔でした。
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CAさんたちがバースデーソングの1番を歌い終わった、と思ったら、また「ハッピーバースデートゥーユー」が始まりました。それもカーテンの外で。

私たち家族、そしてCAさんまでもが驚き、顔を見合わせました。カーテンを少し開けてみると、近くに座っていた女性のお客さん方が歌ってくれています。娘のために。さっき、話していたのが、聞こえていたのでしょう。やがて男性の声も混じって、多くの人の歌声がカーテン越しに聞こえてきます。

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娘の誕生日をこんなにも多くの方にお祝いしていただくなんて・・・。
大変ありがたいと思う気持ちと、娘を不憫(ふびん)に思う気持ちで胸がいっぱいになり、涙があふれ出てしましました。
娘の目にも涙があふれていました。・・・

人って温かいな。世の中捨てたものではないな。
皆様に大きな勇気と温かさをいただきました。
カーテン越しに聞こえてくる皆さんの歌声に気づき、「私に?」と尋ねた娘の顔は今でも忘れられません。
これからも前途多難ですが、家族3人、力を合わせて生きていきます。
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(「ゆで卵食べるかい」)
新人のCAだった頃のある日、お客様の搭乗案内をしていた際、ある男性のお客様から怒鳴られた事がありました。満席で、そのお客様が搭乗された時には、すでに周りの物入れがいっぱいで、荷物を入れるところがない状態。「どこにしまえばいいんだよ」と、大きな声で怒鳴られてしまいました。

こちらが気づいて、すぐにご案内すべきところを後手に回った私のミスでした。他の場所をご案内して事なきを得たのですが、そのお客様の声が周囲の方々に聞こえ、驚かせてしまいました。「失礼いたしました」と他のお客様にもお詫びして、業務に戻りました。

「ゆで卵食べるかい」と声をかけられて、振り返ると、団体客の1人で高齢のご婦人が笑顔で私を見ています。

「ご用でございますか」と、お客様の元に戻ると、ゆで卵がたくさん入ったパンパンのビニール袋の中から、ラップに包まれた卵を一つ取り出して、渡してくださいながら、「あとでこれ食べて、元気だしな」とやさしい言葉をかけてくれました。

すると、今度は、隣の女性のお客様がタッパーを開けて、楊枝(ようじ)を挿し、「一つつまんでいきなさい。私が漬けた漬物。おいしいよ」

「ありがとうございます」と、ご好意をありがたく頂戴し、「日本茶でもご一緒にいかがでございますか?」と皆さんにお声をかけました。

するとゆで卵をくれた方から、「いろいろあるけどさ、人生いいこともあるからな、頑張りな」と温かい励ましのお言葉が返ってきました。男性客から怒鳴られた私を励ましてくださったのです。

(「ゆで卵ってこんなおいしいものだったの」)
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胸がジーンと熱くなりました。
この時、新人だった私は、自分では笑顔で業務をしているつもりでしたが、表情に出てしまっていたのかもしれません。・・・
そんな時のお客様の励ましと笑顔----。
これ以上、強いパワーと与えてくれるものはありません。

目からこぼれそうになる涙を必死で抑えながら、皆さんに、心の中で「ありがとう」を返しました。

到着後、次のフライトまでの休憩時間に、いただいたゆで卵を一口食べてみました。「ゆで卵ってこんなおいしいものだったの」と、驚くほど味わいのある卵でした。

一緒にいただいたお漬物を噛むと、ぽりぽりと小気味いい音がします。噛むたびに響くその音に心がどんどん癒やされ、軽くなっていく気がしました。
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CAが何気なくお客にかけたひと言に、感謝の手紙が来ることも少なくないという。「そして、お客様からの言葉や笑顔に励まされることも多々あります。おもてなしをしなくてはならない私たちが、反対にたくさんのものをいただくこともあります」と、このCAは記している。

(神様からのプレゼント)
ANAには、出発空港で子どもを預かり、到着空港で出迎えの保護者に引き渡す「ANAキッズ らくのりサービス」があります。夏休みともなると、祖父母や親戚宅に向かう多くのANAキッズが搭乗します。

そんなANAキッズの中に、なんとなく話しかけにくい雰囲気の男の子がいました。CAとして担当していた私は「緊張している? 大丈夫? さあ、間もなく離陸よ。空の旅を楽しんでね」と、その子の肩をポンと叩きました。

その子は、はっとして私を見て、か細い声で「はい」と返事しました。しかし、美しい雲海の広がる窓の外も見ずに、その子は暗い表情のままでいます。左手には、なにやらチェーンのついたペンダントらしき物を握っています。

「ペンダント持っているの? 素敵ね。誰のお写真が入っているの?」と尋ねましたが、男の子はこぶしをさらに強く握りしめるだけでした。

「ごめんなさい。お姉さん、変なこと聞いちゃったかな。気にしないでね。そうそう間もなく富士山が見えますよ」と取り繕いました。

そして、ANAキッズのみんなに向かって、「ほーら、間もなく富士山よ。山のてっぺんに雪が少しかかって、とってもきれいでしょう。みんな、見える?」と話しながら、通路側に座っていたその男の子をドアの窓まで案内しました。

「ほらね、きれいでしょ。こんな富士山、なかなか見られないのよ。みんないい子だから、神様からのプレゼントね。お姉さんもみんなのおかげでラッキー」と、オーバーアクションをしながら、「富士山は日本でいちばん高くて、大きな山です。こんなにきれいに見えたみんなは、富士山みたいに心の大きな人になれるからね」と付け加えました。「はーい」とANAキッズたちは応えます。

(「神様は必ず、もう一つのプレゼントをくださるはずだから」)
そんな中、先ほどの男の子が小さな声で話しかけてきました。「ねえねえ、お姉さん、神様からのプレゼントって一個だけなのかな。僕、もうもう一つだけでいいから神様のプレゼントが欲しいんだけど・・・」

「え? 何? 何が欲しいの?」 話しかけてくれたことが嬉しくて、すぐに聞き返しましたが、男の子は「あ、やっぱりなんでもないや」と言って、下を向き、また口を閉ざしてしまいました。その後もいろいろ話しかけたが、男の子は心を閉ざしたままで、結局、神様から何が欲しいのか、口にすることはありませんでした。

数日後、男の子のおばあさまから、一通の手紙が届きました。

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先日は孫が大変お世話になりました。
元気のない孫にいろいろ話しかけてくださったとのこと、ありがとうございます。

実は、あの子は先日、両親を交通事故で二人とも亡くしてしまったのです。
兄弟も誰もいない孫は、私のところで暮らすべく、初めて飛行機に乗ったのでした。

私が空港で迎えた時「大丈夫だったかい?」と聞くと、「とってもきれいな富士山を見たよ。神様のプレゼントなんだって」とか、「お姉さんがいっぱい話してくれたので、寂しかったけど涙が出なかったよ」って、うれしそうに言っていました。

寂しくてたまらないはずの孫に楽しい思い出と元気をくださり、本当にありがとうございました。
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その手紙を読んで、CAはこう記している。

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涙がこみ上げてきました。
そして、ただ元気にさせようと、張り切っていた自分が情けなくなりました。

ペンダントの中身は、きっとニコニコ顔のご両親だったのでしょう。自分の写っている家族写真だったのかもしれません。
あなたが言っていたもう一つの神様のプレゼントが何だったのか、今はわかります。

ごめんね。あなたの気持ちをわかってあげられなくて。一人であんなに小さい胸で悲しみ、苦しみを背負っていたのに、泣かないでえらかったね。

あなたならきっとこれからたくましく生きていけます。
神様は必ず、もう一つのプレゼントをくださるはずだから。
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(「あんしん、あったか、明るく元気」)
以上は、ANAの元CAで、現在、ANAラーニング株式会社の講師として、多くの企業・学校等で人材開発に携わっている三枝(さえぐさ)理恵子さんの『空の上で本当にあった心温まる物語』に出てくるエピソードである。

ANAでは「あんしん」「あったか」「あかるく元気」を大切にしているというが、これらのエピソードはいずれも乗客とCAたちとの「あったか」な心の交流を描いている。

そして人々の「あったか」な気持ちに触れて、心臓病の娘さん、両親を亡くした男の子、そして失敗して怒鳴られたCAが「あかるく元気」を取り戻すのである。

「あんしん」は、航空会社として最重要なのは言うまでもないが、それを築く原動力も、乗務員や整備士、パイロットたちの乗客のためを思う「あったか」な気持ちだろう。

「あんしん、あったか、明るく元気」とは、国家の次元でも大切なことだ。そして、それはわが国の伝統的な理想でもあった。戦国時代に来日した宣教師ザビエルから、明治初年に日本各地を訪れた女性旅行家イザベラ・バードまで、わが国の人々の親切さ、思いやりの深さを感銘を持って語っている。

実はわが国の建国宣言とも言うべき神武天皇の次の詔(みことのり)にも「あったか」な国を作ろうという理想が込められていた。

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天地四方、八紘(あめのした)にすむものすべてが、一つ屋根の下の大家族のように仲よくくらそうではないか。なんと、楽しくうれしいことだろうか。
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国民が「あんしん、あったか、明るく元気」で暮らせること、そういう姿がわが国の伝統的な理想であり、それを目指して多くの先人たちが努力して、実際にそうした国柄を築いてきた。その努力を継承する義務が現代の我々にある。
(文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
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