橿原の地で即位して初代天皇となった神武天皇（前編・上）

（戦後教育で消された日本の神話）

橿原(かしはら)は、初代天皇である神武(じんむ)即位(そくい)の場所と言われています。

なお、私の若いころには、「神武天皇は、学問的には実在が疑われている」と考えていました。

私も、戦後教育で洗脳された口でありまして、戦前であれば、もう少しきちんと、いろいろなことを教えてもらえたと思うのですが、戦後は、神話部分が全部カットされていたのです。さらに、神話ではないとされる部分であっても、「証拠(しょうこ)がはっきりしないものについては、基本的には疑ってかかる」ということで、消していくような面がありました。

そのため、「我ながら、受けた教育が足りなかった」とは感じています。要するに、小・中・高、さらには大学を通じて、日本の成立についての正確な教育は受けていなかったのです。

その結果、勉強をし直さなければならなくなったものの、その後、数十年間、勉強を続けて、ようやく真実がはっきりと見えてきたと思います。

やはり、日本の戦後史の見直しと、海外から今、日本に迫(せま)っている「歴史認識を改めよ」という考えに対する打ち返しは、「真実の探求」から出発する以外に方法はないでしょう。

神武即位も伝説だと思われているものの、ここからが実在した人間としての天皇制の始まりであり、今上(きんじょう)天皇で百二十六代と言われているわけです。

神武については、詳しく『古事記』『日本書紀』等に書いてありますが、神武の次から八代の天皇については、業績というか、「どういうことをした」ということがあまり書かれておらず、名前ばかり並べてあるので欠史八代(けつしはちだい)、「これは数合わせをしたのではないか」など、いろいろと疑われることもあります。

また、その後の天皇についても疑うようなところもあるのです。要するに、『古事記』や『日本書紀』が編纂(へんさん)されるころまでの部分については、かなりの疑いがあって、「編纂した人たちが、自分たちの政権に都合がいいようなかたちで神話をこしらえたのではないか」という、左翼(さよく)的な史観が、かなり強かったということでしょう。

(日本の歴史書は外国の神話と比べて信用性がある)

しかし、神話の部分を、そんなにバカにしてはいけないと思います。民族には、それぞれ神話があるのです。

『古事記』や『日本書紀』等は昔のものなので、現代のキチッとした学術的な本をいろいろ読んでいる人の目から見れば、少しつじつまが合わなかったり、合理性がなかったりするように見えることも書いてはあります。

しかし、諸外国の神話と比べてみたら、決して日本の歴史書がおかしいということはありません。諸外国の神話には、もっと目茶苦茶(めちゃくちゃ)な話がたくさん出てきます。それに比べると、日本の歴史書には極(きわ)めて真っ当なことが書いてあるのです。

もちろん、象徴(しょうちょう)的な部分もあろうかとは思いますが、それでも、諸外国の神話と比べれば、かなり真っ当ではありましょう。

例えば、ギリシャ神話のなかのゼウスの“ご乱行(らんぎょう)”などと比べると、かなりまともな歴史です。まともな方々が、この国を支配していたことが書かれているわけで、ある程度、信用性があると考えてよいのではないかと思っています。

しかも、人間の天皇としては、神武が初めてですが、「神武以前にも存在するのではないか」という説がかなり強いのです。

正史(せいし)は、いろいろな各種の文書(もんじょ)を分析(ぶんせき)したり、それぞれの地方によってできていたものがあったので、それからつまみ出したりして編んでいったわけですが、それ以前のことについても、書かれたものはかなりあります。

神武以前の時代は神代(かみよ)に入りますが、そういうものを見ると、「天皇は、神武天皇を入れて、七十三代ぐらいあった」という説もあるのです（注。『竹内文書(たけうちもんじょ)』では、神武天皇から始まる皇室を「神倭朝(かむやまとちょう)」と呼び、その前に「不合朝(あえずちょう)七十三代（七十三代目が神武天皇）」、その前に「上古(じょうこ)二十五代（皇統(こうとう)二十五代）」、その前に「天神(てんじん)七代」があったとされる）。

それについては、これから徐々(じょじょ)に明らかにされるのではないかと思いますが、歴史が長いため、そう簡単ではないかもしれません。

ただ、日本の歴史について、もっともっと自信を持ってよいのではないかと私は思うのです。

---owari---