現在の中国に、若者層から熱烈に支持される月刊誌がある。その名は『知日』(日本では「ちにち」と呼ぶ)、中国人が日本のライフスタイルを「知る」ことをテーマとしている。2011年1月に創刊されるや話題を呼び、毎号5万~10万部を売り上げ、今、中国で人気を集めている。
「知日」の読者からは《今まで日本を知らなかったけど、『知日』を読んだら日本へ行ってみたくなった》《日本語を勉強してみたくなった》といった声が多く寄せられているという。
同誌は毎号ごとに特集するテーマを選んでいる。日本の文化や伝統、習慣などをさまざまな角度から掘り下げ、じっくり紹介する手法だ。
これまで、「美術館」「断捨離」「禅」「猫」「武士道」「礼儀」「鉄道」「設計」「明治維新」「妖怪」「日本食」「手帳」「制服」「森ガール」など30以上のテーマで特集し、どれもが一つのテーマを軸に時間、空間、ジャンルを網羅した一冊に仕上げている。
コアな読者として、およそ10万人が支持する月刊誌の存在感は侮れない。そこには「反日」の気配は感じられないが、だからといって「親日」とはニュアンスも異なる。あくまで知的好奇心の対象としての日本文化を学ぼうとしているのだ。
「礼儀」の特集では、「日本人から礼儀を学ぼう」という企画だったのですが、編集長を務める34才の蘇静(ス・ジン)さんは売国奴と非難されたというのです。編集長の意図は「それはわが国が礼儀知らずの国になってしまったから、日本に学び直す必要があると思ったからだ」と言うのです。
この『知日』を発行する出版社では、月に一度、読者サロンを開き、読者の感想を聞いている。
ある若い彼女は、「両親はよく『日本の製品を買うな』と言ってくるけど、私はその都度、忍耐と優しさをもってなだめています」と語った。
別の若い女性は、「私は日本に行って、震えるほどの優しさに触れました。バスに乗って旅行をしていたとき、道が分からない私のために運転手さんが地図を描きながら丁寧に教えてくれました。乗客は全員、文句ひとつ言わず、優しく見守ってくれました。我々の国はいつになったらこのようなレベルにたどり着くのかと、私は敬意を覚えるとともに同時に悲しくなりました」と言ったのです。
また、若い男性のリーさん(27才)は、1週間の日本滞在のなかで、もっとも印象に残ったことを話しました。東京・上野のオープンカフェで休んでいたときのこと、一羽の小鳥が飛んできて、リーさんが注文したケーキをついばみ始めたのです(写真を撮りました)。
「こんなことはありえないよ。感動のあまり、手帳にその絵を描きとめたよ。上野で過ごした半日は心地よい穏やかな時間だった。こんな体験は中国ではできないね。その国の国民性が動物にまで伝わっているのだろうね。人々と動物のこの距離感は長い時間をかけて出来たものだよ、絶対に。本来ならば、小鳥は人間を一番警戒するはずだ。本当に感動的な体験だったよ」
多くの日本人には見慣れた現象や当たり前のことであっても、中国の若者には好奇心をそそられる不可思議な文化が、日本にはあるというのだ。
最近は、日本の大学に私費留学する中国人が急増している。背景には中国内での就職難に加え、経済成長で拡大した中流層の子息が、日本語や技術を習得したいという事情があるようだ。
大連市出身の女子留学生の李可心さん(仮名)24才は2年半、滞在している。大阪府内の日本語学校を経て大学に進学した。留学前、両親から「日本人は暴力的だから気をつけて」と心配され、自身も「日本人は戦争中、中国人にひどいことをした」との学校教育を受けた。だが、来日後、学校やアルバイトを通じて「実際はやさしさの方が目立った。将来は日本で働きたい」と考えが変わったのです。
また、赤信号で止まる日本人に驚き、「中国人はルールを守る意識が低い。文化の違いがある。日本は食の安全も徹底している」。自分の見た日本に新鮮さを覚えたというのです。
日本の文化や習慣などに直接触れることで理解も深まり、中国の訪日観光客や留学生が抱く日本人像にも変化を与えている。
中国という国家の体制や運営には大いに問題がある。
しかし、徐々にではあるが、若者層に今の日本を深く知ろうという動きが広まり、間近に見た日本は少し違う、という認識が芽生え始めたことを歓迎したい。
---owari---
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます