今日も国際関係アナリスト・北野 幸伯さんのメルマガからお伝えします。
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全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは! 北野です。
世界のスーパーエリートが集結する会議といえば、
「世界経済フォーラム」(通称 ダボス会議)
でしょう。
今年は1月16日から20日まで、年次総会が開催されました。
ブルームバーグ1月16日は、ダボス会議からロシアが締め出された状況を報じています。
<出席を登録した資産家の数は116人前後と10年前から40%増えたが、少し前まで常連で、モンクレールのダウンジャケットのように普通に見掛けたロシア資産家の参加は今年はゼロだ。
ウクライナ侵攻に西側諸国が厳しい制裁を科す中で、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)は事実上締め出された。>
わかります。
ロシア新興財閥の多くは、いまや制裁の対象。
欧米にあった豪邸やスーパーヨットなどは差し押さえられている。
プーチンのウクライナ侵攻によって、ロシアの新興財閥は、「世界エリートサークル」から追放されました。
そして、いないのはロシアの資産家だけではありません。
中国もです。
<新型コロナの爆発的な感染再拡大、富裕層の資産価値を2240億ドル(約28兆6700億円)相当消失させた2022年の株価急落の動揺が続く中国の資産家も今年は出席しない。>(同上)
中国は、習近平が強くなりすぎて、超富裕層が弾圧されるようになっています。
いい例が、アリババ創業者のジャック・マーさんでしょう。
彼は2020年10月に、中国政府を批判した。
その後表舞台から姿を消しました。
2022年、ジャック・マーさんは、半年ほど日本に滞在していたそうです。
そして、彼はアントグループの議決権を手放すそうです。
(おそらく、強制的にそうさせられたのでしょう。)
ロイター1月7日。
< 中国電子商取引大手アリババ・グループ傘下の金融会社アント・グループは7日、創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が経営権を手放すと発表した。株主が一連の株式保有調整の実施で合意し、同氏が議決権の大部分を放棄することになったという。馬氏はこれまで議決権の50%以上を保有していたが、ロイターの算出によると、今回の変更で6.2%に低下する。>
(変化するグローバリストと中国の関係)
ダボス会議は、いわゆる「グローバリストのエリートたちの集まり」といえるでしょう。
グローバリストとナショナリストのプーチンは、2003年以降、ほとんどの期間険悪でした。
しかし、ロシアの新興財閥は、グローバリストと親和性が高かったので排除されていなかった。
ですが、ウクライナ侵攻のせいで、さすがに今年は排除されています。
一方、中国は、どうなのでしょうか?
トウ小平、江沢民、胡錦涛は、欧米のグローバリストと協力して、中国を発展させてきました。
世界一の人口を抱え、貧しかった中国。
この国を発展させることは、グローバリストが大儲けする方法だったのです。
ところが、ナショナリスト習近平が出てきて、すべてが変わってきます。
この変化は、「よくしゃべるグローバリスト」ジョージ・ソロスの言葉の変遷を見るとよくわかります。
彼は、06年に出版された本
『世界秩序の崩壊~「自分さえよければ社会」への警鐘』
の中で、アメリカと中国についての考えを明らかにしています。
<ところが、ここに、皮肉にも愚かな事態が起きた。近隣の大国・中国が基本的に多極主義を受け入れ始めた矢先、アメリカ合衆国が正反対な方向へと動き、国際的な諸制度への疑念を強め、最近の国家安全保障面での難題に対して大幅に一極主義的な治療策を遂行したのである。
日本は、この両国の板挟みになった。
かたや最大のパトロンかつ保護国ながら、昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきたアメリカ。
かたやその経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある中国。>
ソロスによると06年当時のアメリカは、「昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきた」国である。
一方、中国については、「経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある」国。
06年時点のソロスの、「米中観」は明確です。
つまり、彼は、「アメリカ=悪」「中国=善」と考えていた。
この評価は、2010年時点でも変わっていません。
彼は2010年11月16日の「フォーリン・ポリシー」で、
<アメリカから中国への、パワーと影響力の本当に驚くべき、急速な遷移があり、それはちょうど第二次世界大戦後の英国の衰退とアメリカへの覇権の移行に喩えられる>
<今日、中国は活発な経済のみならず、実際に、アメリカよりもより機能的な政府を持っている」という議論を呼ぶであろう>
と語りました。
つまり、彼は当時、「イギリスからアメリカに覇権が移ったように、今は、アメリカから中国に覇権が移動している」と考えていた。
さらに、中国は「アメリカよりも機能的な政府を持っている」と。
ですから、2010年当時であれば、「バイデンは、グローバリストだから親中」というのは正解でしょう。
ところが、その後状況が変わりました。
2012年、習近平時代がはじまりました。
2015年3月、AIIB事件が起こり、アメリカの没落と中国の影響力の大きさが明らかになった。
そして、米中覇権戦争の前哨戦がはじまった。
この時、大統領はオバマ、副大統領はバイデンでした。
さて、国際金融資本、グローバリストの大物ソロスの中国観は、その後どうなったのでしょうか?
BUSSINESS INSIDER JAPAN 2019年1月28日を見てみましょう。
<世界経済フォーラムの年次会合(ダボス会議)で、ビリオネアの投資家、ジョージ・ソロス氏がスピーチを行った。1月24日の夜(現地時間)に行われたこのスピーチは、ソロス氏が中国に対して間違いなく批判的であることを示した。
「今夜、わたしはこの時間を、開かれた社会の存続を脅かすこれまでにない危険について、世界に警告するために使いたいと思う」 >
中国=「開かれた社会の存続を脅かすこれまでにない危険」だそうです。
9年前まで、「中国がアメリカにかわる覇権国家になってもいいよね」と絶賛していた人が、ずいぶん変わりました。
そして、ソロスは、「決定的発言」をします。
<「中国は、世界で唯一の独裁政権ではない。だが間違いなく、最も経済的に豊かで、最も強く、機械学習や人工知能が最も発展した国だ。これが開かれた社会というコンセプトを信じる人々にとって、習近平を最も危険な敵にしている」>(同上)
「習近平 = 最も危険な敵」
だそうです。
私たちが忘れてはいけないこと。
それは、ソロスは、「ただの個人ではない」ということ。
彼は、「国際金融資本」全体の考えを代弁している。
つまり、国際金融資本が、「習近平はもっとも危険な敵」と認定した可能性が高い。
巷には、いまだに「中国とグローバリストは一体化している」と主張している人たちがいます。
しかし状況は変化しているので、アップデートする必要があるのです。
---owari---
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