2015年12月に、日本の岸田文雄外相と韓国の尹 炳世(ユン・ビョンセ)外相が会談して、いわゆる「慰安婦問題」についての合意がなされました。しかし、この問題はいつまでも解決することはないでしょう。韓国にはそれしか日本に難癖(なんくせ)をつける理由がないからです。
そもそも慰安婦問題のきっかけは、嘘(うそ)の吉田証言でした。
吉田清治という人物による「軍の命令で自身が韓国の済州島(チェジュとう、さいしゅうとう)で女性を強制連行して慰安婦にした」という証言を、1983年11月に朝日新聞が記事にしたことで問題化しました。
吉田証言はその後、他の新聞でも報じられましたし、テレビメディアでも取り上げられ、韓国に飛び火し、ついには韓国の国定教科書に「数十万人の朝鮮女性が強制的に慰安婦にされ、650万人の朝鮮人が強制的に動員された」と記載されるようになりました。
しかし、この吉田証言は朝日新聞が報道した直後から信憑性(しんぴょうせい)が疑われていましたし、秦郁彦(はた・いくひこ:歴史学者)氏らの済州島現地調査などにより、虚言(きょげん)であることが判明しました。
しかし、いったん火がついたこの問題は一向に収まる気配を見せませんでした。韓国政府にしてみれば、反日を煽(あお)ることで国民の不満を日本に向けられ、政権安定につながりますからまことに好都合だったわけです。
その頃、東京工業大学で慰安婦問題のシンポジウムがあり、私も招待されました。行ってみると、参加していたのは東京大学の教授をはじめとする韓国贔屓(びいき)の人たちで、「日本人はもっと反省すべきだ」と主張していました。そして、その中のひとりが、私に「日下さんはいろいろ言っているが現地取材していない。慰安婦にも会ったことがない。私たちは百人ぐらいの慰安婦に会ってきちんと話を聞いてきた。あの慰安婦たちが嘘をついていると言うのか」と言うのです。
それに対して私ははっきりと答えました。
「そうです。彼女たちは嘘をついているんです」と――。
それでも彼らは、「彼女たちの心の傷について詫(わ)びなければいけない。女性の尊厳の問題だ」と言うから、
「いえ、違います。これは日本の男の名誉の問題です」と言うと相手は沈黙してしまいました。
私が慰安婦問題など存在しないと発言していたのは、常識的に考えても、そんなことがあるはずのないことは明らかだったからです。
およそ、当時の朝鮮の経済水準の低さは、今の日本人の想像をはるかに超えていました。それに差別もひどかった。そういう境遇の女性たちを朝鮮人の業者が「うまい話がある。お嬢さん、どう?」と連れていったというのが現実です。あるいは貧しい親が娘を業者に売ったのです。日本軍が強制連行する必要なんてまったくなかったのです。
また日本の男たちは、十分以上に代金を払っていました。彼女ら慰安婦は日本の将校より、よほどいい収入を得ていました。外国の軍隊がやっていたこととまったく違います。だから私は「男の名誉の問題だ」と言ったわけです。
歴史的な事実を踏まえてもそれは明らかです。
日本が朝鮮を統治する以前の李王朝時代、朝鮮は王、王族、両班、常民、奴婢(ぬひ)、さらにその下という階級社会でしたが、その中に妓生(きしょう)という特別身分の女性たちがいました。
わかりやすく言えば、誰にも支配されない遊女です。
彼女たちは、諸外国からの使者や両班以上の高官の歓待や宮中内の宴会などに呼ばれてサービスを提供し、帰りにはたくさんの下賜品(かしひん)をもらって生計を立てていました。
そうした女性たちは、1937年に日支事変(にっしじへん)が始ると喜んで日本軍の求めに応じます。ただし、相手にしたのは将校だけでした。
しかしその後、日本軍の動員が続くにつれて女性が不足するようになり、日本からも多くの日本人女性が半島に渡るようになっていきます。また都市化が進み、朝鮮各地で娘の人身売買が公然と横行するようになります。
そこで日本政府は朝鮮全土で公娼制(こうしょうせい)を実施します。それは悪辣(あくらつ)な人身売買業者から女性たちを守るための方策のひとつでしたが、そこには日本人と朝鮮人の区別など存在していませんでした。
確かに今の価値観で見れば、そもそも公娼制自体が許されないことだということになります。しかし、当時はまだ、そこまで女性の人権を守るべきだという意識は世界のどこを見ても存在していませんでした。
山崎朋子のノンフィクション『サンダカン八番娼館』でも知られているように、日本人女性の中にも同じような境遇を生きた女性がたくさんいました。あれは、明治時代に天草からボルネオのサンダカンに、いわゆる「からゆきさん」として渡った女性への聞き取り調査を基にした作品ですが、彼女たちの問題と韓国の慰安婦問題は同じ問題を提起しているのであり、外交カードに使われるような性質のものではないのです。
そもそも朝鮮は、古くから宗主国の中国に何百人もの両班の娘を献上することを強制されていました。そんな歴史を持っていたから、吉田清治氏の偽りの証言に飛びついたのかもしれません。
それはさておき、朝日新聞は2014年8月になってようやく、紙面で<吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした>と慰安婦報道が誤報であったということを認めましたが、韓国政府はそんなことは一切関係なく、その後も「謝罪」を要求してきました。
それに対して、日本人は人がいいものですから、10億円もの金を韓国政府がつくる元慰安婦支援の財団に拠出する形で日韓合意を取り付けました。
それにもかかわらず、韓国国内では合意反対の動きが続き、白紙に戻りかねない状況が続いています。
繰り返しになりますが、結局、韓国が慰安婦問題にこだわるのは、それ以外に日本を負かせるカードがないからなのです。しかし、真実を見ないで嘘を根拠に謝罪しろというのは、少々下品過ぎませんかね。
(日下公人著書「『日本大出動』トランプなんか怖くない(2016年6月発刊)」から転載)
---owari---
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