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歴史人物学習が育てる「共同体感覚」~ 歴人(歴史人物学習館)便り④

2024年02月03日 | 歴史
先人に対して「共同体感覚」を抱くことで、生徒は人格的に健全に成長していく。

(歴史人物学習館、半年の実績)
歴史人物学習館は2022年10月11日にNPO法人として認可され、以来、約半年、お陰様で順調に活動を広げています。現時点での活動状況は以下の通りです。

・サイト「歴史人物学習館」で紹介している歴史人物・・・45人
(小学校の学習指導要領で「歴史上の重要人物」として例示されている42人は、まもなくすべてカバーされます)

・感想文祭り参加・・・中学校3校、生徒計520人

・会員数・・・225人、会費収入:728千円、支出(3校表彰)51千円、残高:677千円

(偏向教育の「色眼鏡」を吹き飛ばした聖武天皇の肉声)
歴人便りでご紹介した、聖武天皇に関する中一女性徒の次の感想文は、まさに「偏向教育を吹き飛ばす歴史人物学習のパワー」を実証しています。

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奈良県にある大仏。私がそれを写真で初めて見たとき、なぜか惹きつけられたのを覚えている。誰が、何のために? 頭の中に「?」がたくさん浮かんだ。きっと歴史上の人物が自分の権力を示すために作ったに違いない。古墳のように…。
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普通に奈良の大仏を見れば、「ものすごく大きいなあ」とか、「指の曲がり具合など、見事な造形」などの点を驚いても良いと思うのですが、いきなり「きっと歴史上の人物が自分の権力を示すために作ったに違いない」と決めつけるところに、こういう色眼鏡でしか物を見る事のできないよう仕向ける偏向教育の影響が現れています。

それほど、小学校の歴史教育も偏向していることを、元小学校教師が証言しています。【歴史教育再生PJ】

しかし、こんな色眼鏡は、聖武天皇の声を聴くことによって、打ち砕かれてしまうのです。
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でも、それが、人々を救うために、国を鎮めるために作ったと言うことがわかった時、私は驚いた。
その時の聖武天皇の言葉が印象深い。「まことに朕が不徳のいたすところである」病気や災害が起きるのは、自分の政治が行き届いていないからだ、と。私はこの言葉を聞いたとき、聖武天皇の人々を思う気持ちや責任感に感動した。ここまで国を一心に考える人物はいないのではないだろうか。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「まことに朕が不徳のいたすところである」という聖武天皇の肉声は子供たちの心に届き、その感動で色眼鏡なぞ吹き飛ばされてしまうのです。ここに歴史人物学習のパワーがあります。


(「死を覚悟しているから殺されたとしても悔いはありません」という間宮林蔵の肉声)
先人の声に心動かされた生徒さんに、もう一人、登場願いましょう。江戸時代に樺太を探検した間宮林蔵を学んだ男子生徒はこう書いています。

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樺太で村長に大陸に連れて行ってほしいとお願いをしたときに、村長は殺されてしまうかもしれない、と言った。しかし間宮林蔵は、「死を覚悟しているから殺されたとしても悔いはありません。」と自分が言ったことをしっかりと守り抜いた。自分が言ったことに責任を持っているからこそ、このようなことを言ったのだと思う。

そして固く決意をすることで成功するまで努力を続けることができたのであろう。・・・最後まであきらめなかった間宮林蔵は正確な地図を作り、ヨーロッパと対抗できて、国を守り切ったのである。
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この男子生徒は「死を覚悟しているから殺されたとしても悔いはありません」という間宮林蔵の肉声に、思い詰めた使命感を感じとり、それに感動しています。生徒たちの心を揺り動かしているのは、先人の思いの籠もった肉声なのです。

(先人との繋がりを思い起こさせる歴史人物学習)
聖武天皇の肉声に感動した女子生徒、間宮林蔵の言葉に心動かされた男子生徒。二人の感想文の結びにも共通点が現れています。

この女子生徒は、感想文をこう結びます。
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私がいつか奈良県を訪れた時は、聖武天皇に「人々を助けてくれてありがとう」と言う気持ちを伝えてきたい。
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いかにも中学生らしい素直な一文ですが、よく考えてみると不思議です。奈良の大仏ができたのは、天平勝宝4(752)年、今から1300年近くも昔です。そんな昔の人々を助けてくれた聖武天皇に、この女子生徒は「ありがとうという気持ち」を伝えていきたい、と言っています。まるで、自分の祖父を助けてくれた恩人であるかのように。

間宮林蔵の声に感動した男子生徒は、こう書きます。
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僕が通う中学校の校歌に国のために努めよ、とある。僕も間宮林蔵のように日本のために努力しようと思う。
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こちらも、なぜ200年以上前の人物の言葉から、「僕も間宮林蔵のように日本のために努力しようと思う」という気持ちが出てくるのでしょうか?

ここに歴史人物学習のもう一つのパワーが潜んでいます。

(歴史人物学習から得られる「共同体感覚」)
オーストリアの精神科医、心理学者のアルフレッド・アドラーはフロイトやユングと並び称される独自の心理学を確立しましたが、その中心的概念に「共同体感覚」があります。これは「同胞感」と言ってもよいでしょう。

人間は共同体の中で生まれ育ち、その中で人々と助け合って生きていく存在です。したがって、ある共同体に帰属し、その中の人々に同胞意識、すなわち「共同体感覚」を持つことは、人間として健全な心理的成長なのです。それが満たされないと、疎外感に苛(さいな)まれ、健全な発育ができません。

人間は共同体の中で、現在生きている人々との間の横軸の繋がりとともに、先人から自分を経て子孫に繋がる縦軸の繋がりでも結ばれています。

女子生徒の方は、1300年近く前の「人々」を自分が繋がった人々と感じ、それを助けてくれた聖武天皇に「ありがとう」と言いたいと思ったのです。

男子生徒の方は、間宮林蔵が国のために尽くそうとした気持ちを受け継いで、自分も同じ共同体の一員として国のために尽くそうと思っています。

こうして歴史人物学習を通じて、生徒たちは200年前、あるいは1300年も前の先人と同じ共同体に属しているのだ、という「共同体感覚」を抱きます。それは生徒の人格的発達にかけがえのないステップです。そして二人はその成長の喜びを感じてとっています。

(「共同体感覚」と教育基本法の「教育の目的」)
こうした「共同体感覚」を持った国民を育てる歴史教育は、教育基本法で謳われている「教育の目的」実現のための重要な手段です。

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(教育の目的)
第一条 教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。[文部科学省]
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「人格の完成」「心身ともに健康な国民」には「共同体感覚」は不可欠であり、なによりも「平和で民主的な国家及び社会の形成者」となるには、「国家および社会」の一員としての「共同体感覚」が必要なのです。

この点が、現在の歴史教育に決定的に欠けている点です。たとえば、中学歴史教科書では50%以上のシェアも持つ東京書籍は、聖武天皇の事跡を次のように記述しています。

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聖武天皇と光明皇后は、唐の皇帝にならって、仏教の力により、伝染病や災害などの不安から国家を守ろうと考えました。そこで、国ごとに国分寺と国分尼寺を建て、都には東大寺を建てて金銅の大仏を造らせました。[東書]
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歴史研究者の卵を育てるには、こうした史実だけを並べた記述で良いでしょう。外国人の学生が日本史を学ぶにもふさわしいと思われます。特に「唐の皇帝にならって」という一節には、中国の学生も自尊心を満足させられます。

しかし、こういう史実だけを並べた記述では、生きた人物が浮かび上がってきません。生きた先人が出てこないのでは、生徒たちも先人に対する「共同体感覚」を持てません。そして「共同体感覚」なき人間では「平和で民主的な国家及び社会の形成者」になろうという志も持てないのです。

(「ともになつかしむことのできる共通のいにしえを持つという強い心のつながり」)
「平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育てるための歴史人物学習といっても、どういう歴史人物を選ぶかには、注意する必要があります。

小学校学習指導要領の第6学年の目標としては、先人の業績を通じて歴史の重要事項を学ぶことを勧め、そのために42人の人物を例示しています。

その中の卑弥呼やザビエル、ペリーなどはそれぞれの時代を学ぶための登場人物としては重要ですが、これらの人物の言動そのものから、生徒たちが心動かされ、共同体感覚を得ることはありません。(歴史人物学習館のサイトでは、この点に留意しつつ、これらの人物も調べられるようにはしていますが)

しかし、それ以外の人物、たとえば、明治時代では西郷隆盛、明治天皇、伊藤博文、東郷平八郎、野口英世などが挙げられています。
いずれも明治日本の世界史的発展に大きな貢献をした人物で、これらの人物を日本中の小学生がともに学ぶことは大きな意味があります。天才数学者・岡潔氏は、こう言われています。
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ともになつかしむことのできる共通のいにしえを持つという強い心のつながりによって、たがいに結ばれているくには、しあわせだと思いませんか。(『春宵十話』)
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「ともになつかしむことのできる共通のいにしえを持つ」ことが、現在、生きている国民どうしの横軸の「共同体感覚」を生むのです。そのためには、国民それぞれが自分なりに敬愛する先人を心中に抱きつつも、共通に敬愛する先人たちに対してともに「なつかしむ」気持ちを持てなくてはなりません。

聖武天皇を敬愛する女子生徒と間宮林蔵を尊敬する男子生徒が、互いの気持ちに共感できることが大切なのです。そのためには義務教育の間に、最低限の歴史人物たちの声を聴く事が必要です。歴史人物学習館のサイトで、それぞれの人物に関して、数編のブログや動画を読み聞きすれば、小学生でも心動かされる学習ができます。

これらの共通の先人たちを学び、敬愛の心を持つことで国民どうしの縦軸・横軸の共同体感覚も発達し、そこから「平和で民主的な国家及び社会の形成者」も輩出していくでしょう。彼らが、明日の日本を支え、そしてより明るい未来を切り開いてくれます。

(1万人の生徒に敬愛する歴史人物を見つけるチャンスを)
歴史人物学習館の本年の計画は、会員200名、感想文祭り参加生徒6千名でしたが、すでに会員数は225名と目標を達成してしまったので、目標を引き揚げて、会員350名、感想文祭り参加生徒1万名にしようと検討中です。

一人の賛助会員の浄財3千円で、30人の生徒を感想文祭りに誘い、「聖武天皇にお礼をいいたい」女子生徒や、「間宮林蔵のように日本のために努力しようと思う」男子生徒のような学びをして貰えるのです。350人の会員を集め、1万人の生徒にこういう学びをして貰いたいと考えています。

教育は国家百年の未来を作る最重要の課題であり、しかも国民の誰でもが何かしら貢献できる分野です。賛助会員として30人の生徒に歴史人物学習の機会を与え、あるいは感想文祭りをお知り合いの教員に勧めるなど、「一隅を照らす」ご協力をお願い申し上げます。


(文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

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