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「動員」「4州併合」でプーチン・ロシアはどうなる???

2022年10月05日 | 政治・経済
国際関係アナリスト・北野 幸伯さんの「現代ビジネス」に掲載された記事からお伝えします。

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9月の後半、ロシア・ウクライナ情勢が大きく動いた。

プーチンは9月21日、「部分的動員令」を出した。続いて9月30日、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州併合に関する条約に署名した。

なぜ、プーチンは、国民の反発を覚悟して、動員を決断したのか? なぜ、国際社会の批判を無視して、4州併合に踏み切ったのか?

(ハリコフ州での大敗)
先月の記事にも書いたが、プーチンは最近まで「停戦交渉派」だった。
たとえば、プーチンは9月16日、ウズベキスタンでインドのモディ首相と会談した際、「私たちは全てをできるだけ早く終わらせたいと思っているが、ウクライナ側が交渉を拒否している」と語っている。

トルコのエルドアン大統領は9月16日、同じくウズベキスタンでプーチンと会談した際の印象について、「彼はできるだけ早くこの戦争を終わらせる意思があることを、実際に私に示した」と述べた。

このように、プーチンは「停戦交渉派」だったが、彼の要求は、ゼレンスキーにとって受け入れがたいものだった。

ロシア側の停戦条件は、
1)ウクライナがクリミアをロシア領と認めること
2)ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の独立を認めること
3)ヘルソン州、ザポリージャ州をロシア領とすること
などだった。

では、プーチンは、なぜ「強硬派」が長らく主張していた「動員」を発令し、「4州併合」に踏み切ったのだろうか?

理由は、二つ考えられる。
一つ目の理由は、ロシア軍が9月11日、ルガンスク州、ドネツク州に接するハリコフ州での戦いに大敗したことだ。

産経新聞9月12日の記事にはこうある。
〈 ロシアの侵略を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は11日、東部ハリコフ州の要衝イジュムを露軍から奪還したと宣言した。2月下旬の開戦後、首都キーウ(キエフ)近郊の奪還に続く大きな戦果となる。米シンクタンクの「戦争研究所」は、同州で露軍によって制圧されたほぼ全域を取り戻したと分析。東部戦線の補給路となってきたハリコフ州の喪失で、露軍によるこれ以上の占領地域の拡大が困難になる可能性が出てきた。〉

この敗北は、ロシアの支配者層に大きな衝撃を与えた。
プーチンは、交渉で「今ロシア軍が占領している場所はロシアの物」としたかった。しかし、欧米から無尽蔵の支援を受けるウクライナ軍は強い。ロシア軍が実効支配しているルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンも維持できないかもしれない。

この恐怖が動員の大きな動機になったことは、間違いない。

(ウズベキスタンでの屈辱)
もう一つ、「ウズベキスタンでの屈辱」が、プーチンの決断を後押した可能性は高い。
これは、どういうことか?

9月15日から17日まで、上海協力機構(SCO)の首脳会議が、ウズベキスタンで開催された。SCOは、中国とロシアが、「反米の砦」として育ててきた組織だ。当初は、中ロと中央アジア4ヵ国が加盟国だったが、2015年にインドとパキスタンが加わり勢力を増した。

プーチンは、SCO首脳会議を「ロシアは孤立していないアピール」に使いたかった。ところが、思惑通りにはいかなかった。待っていたのは、予想を上回る冷遇だったのだ。

SCO最大のパワーは、いうまでもなく中国だ。プーチンは、なんとしても習近平との蜜月を誇示しなければならない。ところが、習近平は冷たかった。なかなかプーチンに会おうとしないのだ。

習近平は、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン、モンゴルの首脳と会談。プーチンは、「順番待ち」をさせられた。このことは、重要なシグナルだろう。

日本でも世界でも、「最重要人物と最初に会う」のは常識だ。つまり習近平は、プーチンに、「あなたの重要度は、中央アジアの小国以下まで下がったのだ」ということを露骨に示した。

ようやく実現した首脳会談でも、習近平はプーチンを冷遇した。
プーチンは、ウクライナ戦争ついて、「中国のバランスの取れた立場を高く評価している」と感謝した。さらに、プーチンは、習近平に媚びるように、「我々は『ひとつの中国』の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星国の挑発を非難する」と述べた。
だが、習近平は、上から目線で「評価する」といっただけだった

もう一つ、ウズベキスタンでプーチンは、大きな屈辱を味わっている。
プーチンといえば、有名な「遅刻常習者」だ。プーチンと27回会談した安倍総理は、毎回遅刻するプーチンに苦しめられた。しかし、それは安倍氏に限ったことではない。プーチンは、ローマ法王とこれまで3回会談したが、3回とも遅刻している。2003年には、エリザベス女王との会見に遅刻している。

なぜ、プーチンは、そこまで遅刻するのか?
ロシアでは、「立場が上の人が遅刻する」ことは、しばしばある。「えらい人は、忙しいから遅刻する」というのだ。そして、「えらく見せるために遅刻する人」もしばしばいる。国際社会ではまったく通用しないロジックだが、ロシアではそうなのだ。

ということは、プーチンは、安倍氏のみならず、ローマ法王やエリザベス女王よりも「格上だ」と思っていたのだろう。

そんなプーチンに、「カルマの法則」が発動した。インド、トルコ、アゼルバイジャン、キルギスの首脳が、プーチンとの会談に遅刻したのだ。

大国インドのモディ首相やトルコのエルドアン大統領はともかく、アゼルバイジャン、キルギスは旧ソ連国だ。プーチンのセルフイメージは、「旧ソ連の皇帝」である。アゼルバイジャンのアリエフ大統領とキルギスのジャパロフ大統領は、旧ソ連内でロシアより格下の国の長ではないか。

この二国の大統領が、プーチンを軽んじ、会談に遅刻した事実は、彼に衝撃を与えたに違いない。
プーチンは今、明らかに尊敬を失っている。なぜ、失っているのか? それは、ウクライナに負けているからだ。

「ハリコフ州での敗北」、そして「ウズベキスタンでの屈辱」がプーチンに「動員」を決断させたのだろう。

(動員令に対するロシア国民の反応)
ロシア国民は、プーチンの動員令をどう受け止めたのだろうか。
筆者は1990年から2018年まで、モスクワに住んでいた。モスクワの知人、友人に聞いてみると、皆が口をそろえて「動員で明らかに雰囲気が変わった」という。

それまで、職場では、いわゆる「特別軍事作戦」を支持する人がほとんどだった。その大きな理由は、「遠くで行われている自分とは関係のない戦争」だからだ。

普通のロシア人は、特別軍事作戦以前と変わらず、仕事や学校に行く。働いたり、勉強したりして家に戻り、テレビをつけると、「今日もロシア軍が勝ちました」と大本営放送が流れてくる。ロシア国民は、夕食時にニュースを見ながら、「がんばれロシア軍!」と応援する。

これまでは、そんな日常だった。
ところが、動員令が出され、男性であれば自分自身、女性であれば、自分の夫、父親、息子たちが、戦場に送られる可能性が出てきた。

モスクワの知人、友人によると、「2~3日で特別軍事作戦は終わるのではなかったのか?」「ロシア軍は世界最強という話はなんだったのか?」など、職場には「怨嗟の声」が満ちているという。

実際、動員令が出されると、ロシア全土で大規模な「反動員令デモ」起こった。そして、召集を恐れたロシア人が、大挙して外国に脱出している。

旅客機の席はすぐ埋まってしまったため、多くの人は、陸路で逃げる道を選んだ。具体的には、フィンランド、ジョージア、カザフスタン、モンゴルだ。CNNによると、9月21日から29日までに、20万人のロシア人が国外に脱出したという。

(動員で戦況は変わるのか?)
では動員によって、ロシア軍は劣勢を挽回できるのだろうか?
筆者は、二つの理由で、難しいと考えている。

一つ目の理由は、動員された兵士の質が最悪であること。動員された人は、2週間の訓練を受けウクライナに送られる。しかし彼らが戦場で役立つはずはなく、動員された人たちは、死ぬ可能性が非常に高い。

二つ目の理由は、戦争の形態が昔とは変わったことだ。
現代の戦争は、市街戦以外、敵と味方の距離がかなり離れた状態で行われている。

ウクライナが劣勢を挽回できた大きな理由は、欧米から高性能の武器が供与されていることだ。たとえば携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」のおかげで、ウクライナ軍は、首都キーウに迫っていたロシア軍戦車の大軍を撃退することができた。トルコ製ドローン「バイラクタル」も、戦車部隊撃退に活躍している。

さらに、東部南部の戦闘でウクライナ軍が劣勢を挽回できたのは、米国から高機動ロケット砲システム「ハイマース」が供与されはじめたからだ。ハイマースは、トラックにロケット弾の発射装置を搭載した形になっていて、射程距離70kmの「GPS誘導ロケット弾」を打つことができる。

つまり、70km先にある標的を正確に破壊することができる。そして、ミサイル発射後、すばやく別の場所に移動することができる。

これらの事実から、ウクライナ戦争では、「兵士の数」が勝敗を決める決定的なファクターではないということがわかる。それよりも、衛星、ドローン、通信傍受などによって、敵の情報を正確に知ることができること、その情報を活かして正確に攻撃できる兵器があることが、とても重要なのだ。

というわけで、動員でロシア軍が勝利することにはならないだろう。死人が激増することで、プーチン常勝神話は崩壊していく。

(「4州併合」の理由と結果)
プーチンは9月30日、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を、一方的に併合した。

この決定は、何だろうか?
既述のように、ハリコフ州での敗北は、ロシアの支配層に大きな衝撃を与えた。「このままでは、ロシア軍が実効支配している地域も、ウクライナ軍に奪還させる可能性がある」とプーチンは恐れた。

そこで、9月23日から27日まで、「なんちゃって住民投票」を実施し、併合を強行したのだ。
併合すると、何が変わるのだろうか?

ゼレンスキーは、「4州はロシア領になったから、攻撃をやめよう」とは、絶対にいわない。
では、併合した意味はあるのだろうか?

ある。
ロシアは、4州を併合した。つまり、4州はすでに「ロシア領」だ。そこにウクライナ軍が攻撃すれば、「外国からロシア領が攻められている。これは自衛の戦いだ」となる。メチャクチャな話だが、プーチンのロジックでは、そういうことになる。

「自衛戦争」になると、戦況は変わるのか?
ロシアの軍事ドクトリンによると、「自衛戦争」なら「核兵器」が使えるのだ。そして、プーチン自身も、繰り返し核兵器使用の可能性について言及している。

9月30日付のロイター記事にはこうある。
〈 ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナ東・南部4州の併合を宣言する演説で、米国が第二次世界大戦末期に広島と長崎に原爆を落とし、核兵器使用の「前例」を作ったと指摘した。

プーチン大統領は最近、自国の領土を守るために核兵器を使用する用意があると述べ、核兵器使用が懸念されている。
プーチン氏は演説で「米国は日本に対し核兵器を2回使用した」とし「米国が核兵器使用の前例を作った」と述べた。〉

ここでプーチンは、「77年前に米国が核兵器を使ったので、ロシアにも使う権利がある」と主張している。今後、ウクライナ軍が、4州への攻勢を強めれば、ロシアが戦術核を使う可能性が出てくる。

(プーチンはすでに詰んでいる)
では、ロシアが戦術核を使ったら、米国やNATOはどうするのか?
米国のサリバン大統領補佐官は9月25日、核を使えば「ロシアに破滅的な結果を与える」と警告した。このことは、ロシア側にもはっきり伝えているという。

「破滅的な結果」が何を意味するのかはわからない。しかし、ホッジス元米陸軍欧州司令官は以下のように語っている。
〈 米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。〉(FNNプライムオンライン10月3日)

ここでわかるのは、ロシアが戦術核を使えば、米軍、NATOが出てくるということだ。
当然、米軍、NATOには核がある。ウクライナ軍に対して劣勢なロシア軍が、米軍、NATO軍に勝てるだろうか?

絶対に勝てるはずがない。
苦し紛れの「動員令」「4州併合」「核による脅し」──それでも、大局は変えられない。プーチンは、すでに詰んでいる。
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以上が、現代ビジネスに掲載された北野氏の記事です。
北野氏の状況分析と判断は優れていますので、ここに転載させていただきました。

しかし、私は9月30日に行った「ウクライナ4州の併合式典」で、プーチン大統領が演説した全文を読んで、プーチン氏の覚悟を感じました。 *ロシア語翻訳・青山貞一(東京都市大学名誉教授)

この覚悟は、卑劣な英米グローバリスト(おもに米国ネオコン)に対して徹底的に戦うという気概を感じたのです。それだけに、最終局面の状況になると核兵器が使用されるのではないかと懸念しております。

機会があれば、このプーチン大統領の演説文をご紹介したいと思います。

---owari---
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