何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

NO Mountain NO Life

2024-08-20 13:33:07 | ニュース

実在の登山家を描いた本は多く読んできたが、生身の登山家にあったのは、このお二方だけなせいか、自分でも意外なほどにショックを受けた。

<平出さん、中島さんの救助打ち切り K2で滑落、所属先発表> 2024年07月31日06時36分   時事通信配信より引用
【ニューデリー時事】パキスタン北部カラコルム山脈にある世界2位の高峰K2(8611メートル)で、登山家で山岳カメラマンの平出和也さん(45)=長野県出身=と中島健郎さん(39)=奈良県出身=が滑落した事故で、所属先の石井スポーツ(東京)は30日、救助活動の打ち切りを決めたとホームページ上で発表した。同社によると、2人は27日にK2の西側の未踏壁を登っていた際、約7000メートル地点から滑落した。ヘリコプターから2人の姿を確認したが斜面の角度などの問題で着陸できなかった。滑落時点から2人に動きがないことや上部に亀裂があり崩落の危険性もあることから、家族の同意の下で活動終了を判断。2人の活躍をたたえ、「可能な限り支援を続けていく」とコメントした。
平出さん、中島さんは共に世界の優れた登山家に贈られる「ピオレドール(黄金のピッケル)賞」を複数回受賞したトップクライマー。近年はコンビを組み、多くの山の新ルートや未踏の壁に挑んできた。

 

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徳澤園で多くのファンに囲まれていた平出氏と中島氏は、偉業を驕るわけでもなく、前人未到を狙うギラつきもなく、ただ穏やかに笑っていた。
これまで、けっこうな量の山関連の本を読んできたのだが、実在の登山家を描く場合も、架空の小説※で山屋さんを描く場合も、本のなかで山に登る人は多かれ少なかれ屈託を抱えていた。その屈託を解消するためにギラギラと闘志を燃やして山に対峙する(イメージ)か、あるい自己実現ため山と向き合うか、それとも日常の膿むような疲れを癒してもらうために山へ逃れるか、いずれにしてもそこに屈託がまずあった。(ように私は感じていた)

けれど、平出氏と中島氏は違った。(もしかすると、話にしやすいので屈託を強調していただけで、本に描かれてきた実在の登山家たちも実は違うのかもしれないが・・・)

徳澤園の前でたたずむ平出氏と中島氏は、穏やかで優しげで柔らかなオーラをまとい、ただ笑顔だった。

実際に目にした初めての登山家というのが、平出氏と中島氏だったからだろうか、加えてそこが私が山に興味をもった切っ掛けの「氷壁」(井上靖)に登場する徳澤園だったからだろうか、ただ一度ほんの数分お見かけしたという、ただこれだけの接点なのに、このニュースに強いショックを受けている自分に驚いた。

だから、「氷壁」を読み返した。(『』「氷壁」より引用)
山へ穂高へ向かう魚津に上司の常盤は言う。
『危険な場所へ自分をさらす冒険(登山)は、いい加減なところでやめないと、いつか生命を棄てることになる』

これに魚津は反論する。
『登山というのは、自然との闘いなんです。いつ雪崩があるかも判らない、いつ天候が変わるかも判らない、いつ岩がかけないとも限らない。そういうことは始めから予定に入れてのことなんです。それに対して万全の注意を払っています。先刻貴方のおっしゃった言葉ですが、冒険というのは登山する者には禁物なんです。僕たちは絶対に冒険はしませんよ。少しでも天候が危ないと思えば登山は中止しますし、少しでも体が疲労していれば、山頂がそこに見えていても、それ以上登りません』
『先刻おっしゃった冒険が高貴に見える時期は、まだ一人前の登山家にはなっていない時期なんです。一応登山の玄人になると、冒険というものは一向に高貴には見えませんよ。愚劣な行為に見えてきます』

すると捻くれものの上司は、今度はこう言う。
「登山には、どうしてもそこに賭けがなければならぬ」と。
『一か八か、よしやってみようというところがなければ、しょせん登山の歴史は書けないだろう』と。

平出氏は、K2未踏峰ルートでの登頂について、それを心配する山仲間に「行けるところまで行って、もしもの時には帰ってくる」と語っておられたそうだ。

平出氏が所属していた石井スポーツは、準備も天候も体調もそろっていた(と思われる)ので思いがけないことが起こったに違いない、としているようだ。

登山の玄人中の玄人である平出氏と中島氏が無謀な冒険をされるはずもないので、思いもよらぬ不測の事態が起こったのだろう・・・・・が、一か八かの試み失くして未踏峰登頂がありえないのも事実ではないか。

それらを全てひっくるめて、「最後まで挑戦者だった」と彼らの友人は語るのかもしれない。

『登山は単なるスポーツではありませんよ』
『スポーツ、プラス、アルファです』
魚津の言葉が頭を回っている。

※架空の小説・・・小説の体をとっていても、明らかに実在の登山家をモデルのしていると分かる小説が多いので、そういったものと区別するため、※は本当に架空のものそ指しているつもり

お知らせ 遠征中K2|石井スポーツ


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