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今年の本屋さん大賞にもノミネートされている発売から間もないミステリー小説なので、詳細に内容を書くのは控え、あらすじを一言でいうと、若き女性医師が奇病の治療をする過程で世間を騒がす事件を解決するというミステリー、といったところか。
もう少しだけ詳しく書くと、主人公は、眠り続ける奇病(突発性嗜眠症候群 イレス)の患者を抱える若き神経内科医の愛依(あい)。原因不明で一月以上も眠り続ける患者の治療に行き詰った愛依は、霊媒師であった祖母の「患者の夢に入り込み、魂の救済をすれば目覚める」というアドバイスに従い、患者のムゲンの世界に入っていくのだが、そこで知ったのは、世間を賑わせていた幾つかの事件の断片だった。
そんな愛依を助けるのが、愛依の魂の分身であるククル(うさぎ猫)・・・・・ファンタジーが苦手な私は、この手の本が苦手であるし、ご多分に漏れず本書の帯も「予測不可能な超大作ミステリー」だの「魂を揺さぶるどんでん返し」だのと誇大表示なので辟易としたのだが、一気読み間違いなし、という点には大いに賛成しながら読み終えた。
予測不可能といいつつ途中でなんとなく結末が分かってしまう本書の魅力は、
私にとってはククルなんだな
そしてククルの存在から思い出したのが、「デミアン」(ヘルマン・ヘッセ)だったんだな
患者の夢に入り込んで、ククルと相談しながら事件を解決していくなかで、愛依は自分を見つめなおすことを覚えていくんだよ
その過程と結末は、「デミアン」に似ているように思えたんだよ
デミアンは物語の最後ジンクレエルの前から姿を消す前に、こう言うね
『君はたぶん、いつかまた、僕を必要とすることがあるだろうね ー中略ー
そうなって僕を呼んでも、僕はそんなとき、そう手軽に、来はしないよ。
そんな時はね、君自身の心に耳をかたむけなければいけない。
そうすれば僕が君の心のなかにいるのに、気が付くよ』(『 』「デミアン」より)
「デミアン」のデミアンと「ムゲンのi」のククルは、果たす役割が似ているし、
自分自身が心を声に向き合う大切さを説いて物語を終えるという結末も似ているね
ねぇワンコ
結末の予測がつくミステリー(しかもファンタジー)を一気に興味深く読めたのは、
おそらくククルにワンコを重ねていたからだよ
ワンコが天上界の住犬になってから、自問自答するとき思い浮かべるのは、ワンコだよ
重要な問題に対峙するとき、答えを見つけてくれるのは、自分の深いところにある自分であり、
それはデミアンだという「デミアン」
私にとってのデミアンはワンコだと思ってきたから、
「ムゲンのi」でデミアンと同じ役割を果たしているククルが、ワンコ同様とってもキュートなことが嬉しく、一気読みしたんだよ
ねぇワンコ
本書でワンコは、姿は見えなくても、心に耳を傾ければ心のなかのワンコとお話しできるよ、と教えてくれているんだろう
ありがとうね ワンコ
今年は年明け早々予言めいた本ばかりお告げしてくれたワンコ
来月はぜひ、明るい未来を(嘘でも)見せてくれるような本をお願いするよ ワンコ
だって、もうこの国はかなり切羽詰まってるだろう
そんなことはもう百も承知だから、
お告げの本の中だけでも、美しい夢幻の世界を見させておくれ ワンコ
追伸
しかし、本書は一つ恐ろしいことをさりげなく示しているね
能力のない精神科医は害悪だということ
もっと恐ろしいのは、精神科医が患者を意のままに操つり患者を破滅させること
そのことを疑い考えてきたことをワンコは知っているから、
本書で、その恐ろしさを示してくれたんだろう ワンコ
これからも考えるヒントをおくれよ ワンコ
🐾ワンコからのお返事🐾
バカだな君は
夢幻の世界の本なんて・・・夢幻とは儚いんだよ
君の好きな敦盛も言ってるだろう、
「人間50年、下天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり」
50だよ50
終わっちまうよ