このところワンコお告げの本すら読む時間がないほど忙しなく過ごしていたのだが、ようやっと少し時間ができたので、図書館に予約していた本など ’’積読'' を崩しにかかっている。
「テロリストの処方」(久坂部羊)
本の帯には、連続テロが発生!と赤い大文字が踊っているし、有栖川有栖氏の「一読して二度震えた。まずは緊迫のサスペンスに。次に医療破綻という現実に。」との推薦文があるので、どれほど怖い本かと大いに期待?して読んでみた。
一読して・・・有栖川有栖氏と同じ視点では震えなかったものの、二つの点でやはり恐ろしいと感じたが、そんな私の感想を記す前に、有栖川氏が震えたという日本の医療破綻の現実が記された箇所を引用しておきたい。
(『 』「テロリストの処方」より)
『医療の勝ち組と負け組が言われだしたのは、ここ数年のことである。2010年代の末から、日本の医療はセレブ向けの高級医療と、一般向けの標準医療に二分され、明らかな格差が発生した。背景となったのは、医療費の高騰である。
安全な医療には経費がかかる。安全で良質な医療は自ずと高額になり、それに連動して、保険料も値上がりした。公的医療保険の滞納世帯が30パーセントを超え、実質的な無保険者は二千万人に膨れ上がった。高額医療費の還付も、自己負担の上方改定が繰り返され、低所得者には救済の意味をなさなくなった。入院や手術は自己破産の危険を伴い、病院にいきたくとも行けない人が急増した。そういう人々にとって、医療保険は意味がないので、保険料を滞納し、結果として無保険に転落する人が相次いだ。’’医療負け組’’の発生である。』
『他方、政府の方針により「医療特区」が増え、混合診療枠が拡大して、外資や大企業が医療に参入した。医療のビジネス化にはじまり、富裕層をターゲットとした自由診療が横行した。富裕層は健康に投資するから、病気になりにくく、なっても早期に治療するから回復も早い。’’医療勝ち組’’の誕生である。』
これで思い出した話がある。
数年前、中高生3人の子供を育てる知人の父に癌が見つかり入院された。
知人の父は、若い頃に胃癌を患い完治された後 定期的の検査を続けておられたところ、petで新たな癌が見つかったという。
幾つかの臓器に転移も懸念される大手術だったうえに、予後がかなり悪く入院も長引いたので、金銭面でも友人は心配したようだが、その費用は、あまりにも安かったそうだ。
「高額療養費制度」
思いの外 治療費がかからなかった友人は、最初のうちこそ安堵し制度に感謝していたが、そのうち三人の子供の将来を考え不安になったという。
これでは早晩 医療制度は破綻するだろう、と。
このツケは全部、若者や子供にいくだろう、と。
もちろん本書で指摘されている通り、’’高額医療費還付の自己負担の上方改定は繰り返され’’ており、政治もただ手を拱いてるだけではないが、それにも限度があるため、実際には座視しているも同然である。
年金をはじめ、さまざまな分野で世代間の格差が云われるが、医療制度の恩恵を受けるうえでも世代間の格差は厳然と存在する。
しかもその格差は、本人たちではどうしようもない、’’勝ち組と負け組’’を生んでしまう。
だが、’’勝ち組と負け組’’が生じるのは、患者だけではない。
『勝ち組と負け組の格差は患者ばかりでなく、医療者にも波及した。もともと日本は医療機関が多すぎ、人間ドッグやメタボ検診で無理やり患者を増やしてようやく業界が成り立っていた。ところが、医療負け組が受診しなくなったため、経営難に陥る病院やクリニックが相次いだ。リストラされた医師やクリニックを手放した医師は、低額の外来診察や、当直のアルバイトをするしかなく、’’負け組医師’’と呼ばれるようになった。
その一方で、混合診療や自由診療で稼ぐ医師は、診療にホテル並の快適さや豪華さの付加価値をつけ、より高額な医療で破格の収入を得るようになった。’’勝ち組医師’’である。彼らは先行きの不安もなく、豊かな生活を楽しんでいた。』
有栖川有栖氏は、頻発するテロと医療破綻という現実に震えたと云うが、「私のとは、違うな~」(「臨場」内野聖陽ふうに)
本書がサスペンスと位置付けられるのは、’’豚に死を!’’ というメッセージとともに ’’勝ち組医師’’ を狙ったテロが頻発するからであるが、私がサスペンス(不安)を感じたのは、そこではない。
ツケを回される世代としては、医療制度の格差は気になるが、あの後期高齢者医療制度改革のドタバタが、政権交代の道具に使われただけで何の改善も無かったのを見てしまったため、もはや諦めの境地でしかなく、不安ではあるが身震いするものでもない。
それよりも怖いと感じたのは、医療被曝の問題だ。
『一回の(CTスキャン)検査でどれくらいの放射能を浴びるか知っていますか。胸のx線撮影の600倍ですよ。人間が一年間に自然から浴びる放射能の16倍から32倍です。それを10分ほどの短時間で浴びるんです。時間あたりにすれば、どれほど強烈な被爆かおわかりでしょう』
本書は、『医療を自由に任せているから、金もうけが大好きな病院と医療機器メーカーがやりたい放題するんです。それで日本は検査被曝大国ですよ』と云うが、危険にもかかわらず(不要な)検査が横行するには、果たして金儲け主義の医療関係者のせいだけだろうか。
あれほど被爆や放射能に敏感なはずの国民が、こと医療被曝に関しては無言を貫き、せっせと被爆を伴う検査を受けに行く。
多くの検査をしてくれ、多くの薬を笑顔で処方してくれる病院が、ウケる傾向にあるのは、事実だ。
患者さんのニーズあっての、CTスキャンなのだ。
ニーズの応えた病院がCTスキャンを導入すれば、収益をあげるために、どんどん使うしかなくなる。
必要のない患者さんにまで使う。
悪循環の堂々巡りの結果、日本は、100万人あたりのCTスキャンの保有台数が世界一で、全世界のCTスキャンの三分の一が日本にあると言われているそうだが、果たしてそれで良いのだろうか。
医療被曝に関する記述、それが本書で怖いと感じた、一点である。
もう一点については又つづく。
「テロリストの処方」(久坂部羊)
本の帯には、連続テロが発生!と赤い大文字が踊っているし、有栖川有栖氏の「一読して二度震えた。まずは緊迫のサスペンスに。次に医療破綻という現実に。」との推薦文があるので、どれほど怖い本かと大いに期待?して読んでみた。
一読して・・・有栖川有栖氏と同じ視点では震えなかったものの、二つの点でやはり恐ろしいと感じたが、そんな私の感想を記す前に、有栖川氏が震えたという日本の医療破綻の現実が記された箇所を引用しておきたい。
(『 』「テロリストの処方」より)
『医療の勝ち組と負け組が言われだしたのは、ここ数年のことである。2010年代の末から、日本の医療はセレブ向けの高級医療と、一般向けの標準医療に二分され、明らかな格差が発生した。背景となったのは、医療費の高騰である。
安全な医療には経費がかかる。安全で良質な医療は自ずと高額になり、それに連動して、保険料も値上がりした。公的医療保険の滞納世帯が30パーセントを超え、実質的な無保険者は二千万人に膨れ上がった。高額医療費の還付も、自己負担の上方改定が繰り返され、低所得者には救済の意味をなさなくなった。入院や手術は自己破産の危険を伴い、病院にいきたくとも行けない人が急増した。そういう人々にとって、医療保険は意味がないので、保険料を滞納し、結果として無保険に転落する人が相次いだ。’’医療負け組’’の発生である。』
『他方、政府の方針により「医療特区」が増え、混合診療枠が拡大して、外資や大企業が医療に参入した。医療のビジネス化にはじまり、富裕層をターゲットとした自由診療が横行した。富裕層は健康に投資するから、病気になりにくく、なっても早期に治療するから回復も早い。’’医療勝ち組’’の誕生である。』
これで思い出した話がある。
数年前、中高生3人の子供を育てる知人の父に癌が見つかり入院された。
知人の父は、若い頃に胃癌を患い完治された後 定期的の検査を続けておられたところ、petで新たな癌が見つかったという。
幾つかの臓器に転移も懸念される大手術だったうえに、予後がかなり悪く入院も長引いたので、金銭面でも友人は心配したようだが、その費用は、あまりにも安かったそうだ。
「高額療養費制度」
思いの外 治療費がかからなかった友人は、最初のうちこそ安堵し制度に感謝していたが、そのうち三人の子供の将来を考え不安になったという。
これでは早晩 医療制度は破綻するだろう、と。
このツケは全部、若者や子供にいくだろう、と。
もちろん本書で指摘されている通り、’’高額医療費還付の自己負担の上方改定は繰り返され’’ており、政治もただ手を拱いてるだけではないが、それにも限度があるため、実際には座視しているも同然である。
年金をはじめ、さまざまな分野で世代間の格差が云われるが、医療制度の恩恵を受けるうえでも世代間の格差は厳然と存在する。
しかもその格差は、本人たちではどうしようもない、’’勝ち組と負け組’’を生んでしまう。
だが、’’勝ち組と負け組’’が生じるのは、患者だけではない。
『勝ち組と負け組の格差は患者ばかりでなく、医療者にも波及した。もともと日本は医療機関が多すぎ、人間ドッグやメタボ検診で無理やり患者を増やしてようやく業界が成り立っていた。ところが、医療負け組が受診しなくなったため、経営難に陥る病院やクリニックが相次いだ。リストラされた医師やクリニックを手放した医師は、低額の外来診察や、当直のアルバイトをするしかなく、’’負け組医師’’と呼ばれるようになった。
その一方で、混合診療や自由診療で稼ぐ医師は、診療にホテル並の快適さや豪華さの付加価値をつけ、より高額な医療で破格の収入を得るようになった。’’勝ち組医師’’である。彼らは先行きの不安もなく、豊かな生活を楽しんでいた。』
有栖川有栖氏は、頻発するテロと医療破綻という現実に震えたと云うが、「私のとは、違うな~」(「臨場」内野聖陽ふうに)
本書がサスペンスと位置付けられるのは、’’豚に死を!’’ というメッセージとともに ’’勝ち組医師’’ を狙ったテロが頻発するからであるが、私がサスペンス(不安)を感じたのは、そこではない。
ツケを回される世代としては、医療制度の格差は気になるが、あの後期高齢者医療制度改革のドタバタが、政権交代の道具に使われただけで何の改善も無かったのを見てしまったため、もはや諦めの境地でしかなく、不安ではあるが身震いするものでもない。
それよりも怖いと感じたのは、医療被曝の問題だ。
『一回の(CTスキャン)検査でどれくらいの放射能を浴びるか知っていますか。胸のx線撮影の600倍ですよ。人間が一年間に自然から浴びる放射能の16倍から32倍です。それを10分ほどの短時間で浴びるんです。時間あたりにすれば、どれほど強烈な被爆かおわかりでしょう』
本書は、『医療を自由に任せているから、金もうけが大好きな病院と医療機器メーカーがやりたい放題するんです。それで日本は検査被曝大国ですよ』と云うが、危険にもかかわらず(不要な)検査が横行するには、果たして金儲け主義の医療関係者のせいだけだろうか。
あれほど被爆や放射能に敏感なはずの国民が、こと医療被曝に関しては無言を貫き、せっせと被爆を伴う検査を受けに行く。
多くの検査をしてくれ、多くの薬を笑顔で処方してくれる病院が、ウケる傾向にあるのは、事実だ。
患者さんのニーズあっての、CTスキャンなのだ。
ニーズの応えた病院がCTスキャンを導入すれば、収益をあげるために、どんどん使うしかなくなる。
必要のない患者さんにまで使う。
悪循環の堂々巡りの結果、日本は、100万人あたりのCTスキャンの保有台数が世界一で、全世界のCTスキャンの三分の一が日本にあると言われているそうだが、果たしてそれで良いのだろうか。
医療被曝に関する記述、それが本書で怖いと感じた、一点である。
もう一点については又つづく。