何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

祈りの旅 静かな山 ②

2022-08-21 10:45:30 | ひとりごと

時々怖いなと思う。

このところ連日スマホが「三年前の今日」の写真とやらを届けてくれている(ということで今回の写真は三年前のもの)


ザイテングラードに取りつく前の、いよいよ登るぞ!と気がはやりだす地点

 


奥穂のてっぺんから望む槍

 

スマホから送られてくる写真のおかげで、三年前の夏はコロナもなく40肩(50肩)もなく、天気に恵まれご機嫌に山を歩いていたんだなとか、初めて奥穂に登った時に偶々ご一緒した(どこの何方とも知らぬ)素敵なご夫妻に明神館の前で偶然再会し旧交を温めたのもこの夏だったな、などと懐かしく思い出したのだが、月ごとにスマホに表示される行動(活動)履歴も含め、こんなちっぽけな機械に行動を見張られ管理されているような、うすら寒さを感じている。

三年前の夏は、その半年後に世界を揺るがすようなウィルスが出現することなど思いもしていなかった。
考えてみると近年は、大震災にしても大洪水にしても、「経験したことのない○○○」ということばかりなので、いつ自分が当事者になってもおかしくないという思いは持っている。そんな私でもコロナは思いもしないものだったが、それでも、どんなものであれ、明日そして一年後三年後が続いていくことを疑ってはいなかった。

それが、当たり前でないことを思い知らされる日々を過ごしている。

五月半ば、久しぶりに会った君は、かなりほっそりしていた。
久しぶり、といっても二月後半にコロナに罹患した直後にも会っていたので、たった二カ月ほどのことだった。
最近 合気道だか空手だかを始めたと聞いていたので、「体がしまってイケメンに磨きがかかってるね」と話しながらも、急激な変化に驚いていた。
そんな君がその次の週のある朝「コロナの後遺症か倦怠感が抜けないので病院に行ってみる」と知らせてくれた。その時 電話口から聞こえてきた君の声は、軽い後遺症か五月病か、と明るいものだったから、夕方の電話に衝撃を受けた。
「即刻の入院を告げられた。明日には骨髄穿刺をし、そのまま入院することになる」
君の声は震えていた。
私は、自分の声に涙が混じるのを必死で抑えていた。
それを聞くなり涙声になったのでは、どれほど不安を与えてしまうだろう、そう思い、必死にこらえた。

 

数年前「日々是好日」(森下典子)に出会って以来、自分なりに一期一会を大切にしてきたつもりだった。(『 』「日々是好日」より引用)

『人生に起こるできごとは、いつでも『突然』だった。昔も今も......。もしも、前もってわかっていたとしても、人は、本当にそうなるまで、何も心の準備なんかできないのだ。結局は、初めての感情に触れてうろたえ、悲しむことしかできない。そして、そうなって初めて、自分が失ったものは何だったのかに気づくのだ。
でも、いったい、他のどんな生き方ができるだろう? いつだって、本当にそうなるまで、心の準備なんかできず、そして、あとは時間をかけて少しずつ、その悲しみに慣れていくしかない人間に......』
『だからこそ、私は強く強く思う。会いたいと思ったら、会わなければいけない。好きな人がいたら、好きだと言わなければいけない。花が咲いたら、祝おう。恋をしたら、溺れよう。嬉しかったら、分かち合おう。幸せな時は、その幸せを抱きしめて、100パーセントかみしめる。それがたぶん、人間にできる、あらんかぎりのことなのだ。
だから、だいじな人に会えたら、共に食べ、共に生き、だんらんをかみしめる。一期一会とは、そういうことなんだ......』

 

だが、突然のしかも私より随分年下で元気印な君のそれは衝撃だった。

その日以来、景色の一部が色を失った。
とびきり優秀で人柄も良い君が突如病に襲われた不条理が許せず、治療が何やらはかばかしくない様子なのが許せず、読みものが全て噓くさく思えてきた。(それが本の感想が書けない理由の一つでもあった)

嘘が混じらないものに触れたい。

行きたいところに行き、それを100パーセント味わっておかなければならない。

そんな思いで、感染者急増のなか上高地へ向かった。

山へ向かう途中にメールをした。


奥穂から拝する朝日

きっと絶対必ず良くなる

 

つづく 


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