つづき
セットは全部で30個あり、それぞれにモデルが1人いた。
モデルはほとんどAV女優のアルバイトであった。
我々としてもそのほうが、都合が良かった。
なぜなら、写真のモデル一筋、というのはプライドが高く、なにかと扱いにくいのだ。
その点、AV女優は日ごろヌードより過激なことをしているため、
脱ぎっぷりがいいし、こちらの要望をきいてもらえるからいい。
AV女優って、想像してるよりギャラが安くて、このようなアルバイト
をしている子が多いそうである。
満足いくギャラがもらえるのは、ピン作品に出ている子ぐらいらしい。
砂の地面に足をとられながら、最初のセットについた。
かなりの参加者だから、たとえセットが30個あっても、それぞれいっぱいの撮影者になっていた。
たとえるなら、角砂糖に群がる蟻である。
撮影会はまた、機材の自慢会でもある。
それは田舎のカメラ屋さんでは見かけないような、高級機材のオンパレードである。
なかには、「そんなもの今使うの?」とかいう、とんちんかんなものまで登場する。
モデルを何重にも取り巻いている群集のなかで、私は迷わず真ん中の一番前に進んだ。
なぜなら、バックがセットの場合、真ん中以外はカスなのだ。
脇から斜めに撮ると、セットの端が切れてしまう。
恥ずかしいとかいってる場合ではない、なにがなんでも真ん中を
とらなければ、写真にならないのだ。
撮影会を多くこなしている人はそのことを知っている。
私の後ろにだけ、長い行列ができた。
AV女優のモデルは自分でポーズをつくることができず、下着姿で棒立ちしていた。
ヌードといっても始めからすっぽんぽんではない。
下着のほうがセクシーとかいう奴らがいるためだ。
私は下着の写真などはフィルムの無駄と思っていたので(笑)、
シャッターを切らないでいた。
しかしいつまでたっても「脱がない」。
まただれひとり「脱いで」という人もいない。
アルバイトのモデルは言われたことはできるが、自分から動く
ことはできないのだ。これはこまった事態だ。
男はプライドと世間体を気にするあまり、自分の娘と同年代くらいの女の子
に「ブラジャー脱いで」とは言えないのである。
しかも、この大人数の中でならなおのこと言えるはずがない。
お通夜のようにシーンとしたセットにシャッターの音だけが響いた。
--- つづく ----
*2015年 追記
ファインダー式のカメラはモデルからミラーの跳ね上がりが確認できますが、
ミラーレスの場合、確認できなくてモデルも困るようです。
以前、室内のヌード撮影会にも参加したことがあるのですが、撮影会の
性質上、部外者に立ち入りしてほしくないので、1フロアー貸し切りにしました。
室内ですから光量が不足するため、ブルーライトと呼ばれる500Wの
デイライトをいくつも使用しました。
中之島会館というけっこう大きな建物だったのですが、なんとフロアーの
ブレーカーが落ちたのですよ。
しかたなく、ストロボ撮影に切り替えました。
そしたら、他人のストロボに反応して勝手にシャッターが閉じて(他人同調)、
えらい苦労しました。
当時はフィルムでしたから、OKなのか撮り直しなのかわかりませんでした。
しかし、撮影会の前にプロの先生のアドバイスとか主催のカメラ屋のオヤジの
挨拶とかあるのですが、だれも聞いてない。
「はやく、裸を撮らせろ!」って感じ。
笑った、笑った。