白馬国際は完全な夏の終わりと完全な秋の知らせをオレに告げる。
だからレースは、完全な秋晴れで雄大な北アルプスの山々が目前に迫り、
薄く雲のかかった白馬の街がシャモニーのように見えないといけない。
松川は清涼な水を運び、のどかな田園風景とクライムパート、ダウンヒルパートを交互に駆ける。
(すげー地味)
しかーし! ガチョーン! 朝から雨。途中では大雨。そしてまた雨。
雨が止むことはなかったよ。
山並みは一切見えず。 松川は濁流状態。
山はまるでチョコレートからできていて、雨で一斉にチョコが溶け出して、
それはそれはヌルヌル&ズボズボ、ツルンツルンの、滑り始めたらどうにも止まらないコンディション。
(とにかく地味。なんでこんな写真撮ったのか記憶にないね。)
(肥溜めに落っこちたみたいだな)
自然は変わるのだ。去年の快晴とは全く別の表情を見せた。
でも、変わらないものがあった。
白馬村のボランティアの小中学生、沿道のおじさん、おばさんの声援、
家の窓から手を振るおばあちゃん。
「そんなに窓開けたら雨が中に入っちゃうよーー!!!ありがとねー!!」
オレはこの日、とにかく声を出したよ。
前のランナーを抜くときは遥か後ろから大きな声を出す。
大声を出したらそれなりのスピードで越さなくちゃかっこ悪い。
それにこんな悪コンディション。笑えばなんとか凌げるのだ。
泥だって楽しい。
斜面を降りるときはヒャッホー!!と叫ぶのだ。
だってここは白馬。有名なスキーゲレンデなのだ。
泥にまみれ、川を走り、とにかく抜くときは声をかける。
邪魔なうるさいオヤジだったろうな。
でも何人かの女性には、
「こんなメゲそうなコンディションなのに、なんか楽しくなってきた!」
って言われたよ。
ラスボス八方の登り。ここはみんなゾンビ状態になってる。
止まる。座り込む。蛇行する。
ここでは見本を見せたよ。走って登るんだ。死ぬかと思ったけど大丈夫。
心臓は止まらなかった。 でも心拍190(笑)。
とにかくトレイルは翌日思い返すと楽しい。
あんなに過酷でもなぜか楽しい。
この歳で泥まみれで斜面を滑り降りるとは、転げ落ちるとは思ってもなかった。
スリップして転んで、サンバイザーがぶっ飛んだ。
斜面で仰向けになる。
斜面の上から下から笑いを含んだ絶叫が聞こえる。
みんな遊んでいるのだ。
雨が顔に当たり泥を流してくれる。
オレはまたトレイルが楽しいって思ったよ。
白馬国際トレイル ロング51キロ
エイジ別20位。オレの前にまだ速いジジイが19人もいるんだな。
(やっぱり肥溜めだな」