先日の早朝のことである。
近所の保育園の前を自転車で通った。
保育園を通り過ぎたとき、背後から、
『こら!待て!』
という怒鳴り声がした。
朝から、何かのトラブルがあったのか?
車同士の接触?
怒鳴り声がした方向に振り返ってみた。
保育園があって、朝の送りの親と子供が数組。
保育園の前の道路をほうきで掃除するジイサン。
トラブルらしきものはない。
ただ、その掃除ジイサンがオイラの方を物凄い形相で見ていた。
オイラはその視線を辿り、周囲を見回してみた。
周りには誰もいない。オイラしかいない。
オイラは思わず自転車を止めた。
待てってオイラに言ったのか????財布でも落としたか??
ジイサンがオイラの落とした財布に気付いて呼びとめてくれたのか?
すぐポケットに手をやったけど財布はあった。
だよな。親切心で呼び止めるなら、怒鳴ったりしない。
『こら!貴様!ポケットに手を突っ込んで自転車を運転するとは何事だ!
ポケットから手を出せ!』
ジイサンとオイラの目があったとたん、ジイサンはそう怒鳴った。
確かにその朝は寒くて左手をポケットに入れて片手運転していたのだ。
そう。オイラに向かって怒鳴ったのだ、そのジジイ。
コラマテジジイは、日本陸軍茅ヶ崎駐屯地の軍曹に違いなかった。
アメリカ軍がサザンビーチ上陸作戦を行う情報があったため、
非常にカリカリしていたのだ。
ジジイは南湖地区(保育園のあるところ)に陸軍病院の壕を掘り、
その土砂をホウキで掃いていたわけだ。きっと。
本土決戦を少しでも遅らせるため、
アメリカ軍を海岸に留まらせなくてはいけない。
ジイサンは保育園の前で掃除しているどころではなく、
エボシ岩のてっぺんで双眼鏡でアメリカ艦隊を見張ってればいいのだ。
オイラの自転車通行を見張る必要などないのだ。
とにかく思い切り戦争錯覚ジイサンなのだ。
もう絶対に軍曹に違いないとオイラは確信した。
だって、オイラを貴様と呼んだのだ。
お前ならいざ知らず、貴様呼ばわりだ。
貴様とオ~レ~と~は~ 同期のサ~ク~ラ~♪
同じ兵学校の庭に咲いちゃうよ!
『うるせえーー!!クソジジイ!!』
オイラも思い切り怒鳴り吐き返した。
朝から怒鳴るとは気分が悪い!
それからしばらくは自転車に乗り、
ポケットに何故か手を入れづらくなるオイラでした、とさ。