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農業の現場の おはなしなどなど。

SDGsの6。日本もまた水不足に?

2021-10-14 16:21:09 | Weblog
SDGsの6。日本もまた水不足に?
SDGsの6である安全な水の努力目標の4・・・2030年までに全
セクターにおいて水利用の効率を大幅に改善し、淡水の持続可
能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足
に悩む人々の数を大幅に減少させる・・というものがあります。
この努力目標をみて、ぁあ水不足に悩む国もあるのだなぁ・・
などという感想を持つと同時に、日本は水にめぐまれていてよ
かったなぁど思われる方も多いかと思いますが、農業現場や地
方などでは たびたび干ばつや大干ばつがおこっていることも
往々にしてある。今回は 5月に一度ご紹介した文なのですが、
次回分の参考として そんなケースについてのご紹介です。
その1『カッパの王国を襲った大干ばつ』
その2『日増しに からっぼになっていくダムの水』
その3『極端な多雨・少雨が増えている日本。』
その4『日本の水に関する内訳』
その5『自衛隊にも襲いかかった“渇水危機”』
という具合に、宮崎県から九州、日本の水というふうな、水に
ついての当ブログの関係の回の2011年前後の干ばつ時の回
の再掲載となります。「牛丼一杯を生産するのにも 風呂おけ
10杯分、量でいえば2トン超の真水が必要
になる」ともいわ
れているのが農業生産の世界・・・そんな現実を認識しながら、
よろしかったら ご参考に。



その1『2010年/カッパの王国を襲った大干ばつ』

宮崎はカッパの王国といわれるほどに、県内には複数の大小の
河川がくまなく流れ、水に恵まれた土地柄なのですけれど、そ
んな宮崎に、昨年から水不足の傾向が顕著になってきています。

3月下旬から早期水稲の田植がはじまった宮崎県では、深刻な
水不足に悩まされています。宮崎地方気象台によると県内は今
年に入って少雨傾向にあり、宮崎市の3月の降水量は32ミリ
で、平年の180ミリを大幅に下回っている。4月も降水量の
少ない状態が続く見通しを発表しています。

4月1日の地方紙はそのような渇水の状況を次のように伝えて
いました。

『宮崎県内で水不足の影響が出始めている。昨年夏からの少雨
 が今年に入っても続いているためで「これまでにない深刻さ」
(県河川課)。ダムからの緊急放流や農業用水の取水制限など
 でしのいでいるが、一部自治体で稲作などへの影響が出始め
 ており、まとまった雨が降らなければ上水道への影響も懸念
 される。』

と、いうもの。

 状況.jpg
 田植後の干上がった田と、水不足の状況を伝える新聞記事

そのような状態を受けて、宮崎県の河野俊嗣知事は7日、少雨
のため一ツ瀬ダム(西都市)と渡川ダム(美郷町)の有効貯水
率がゼロとなり、枯渇したことを発表、他のダムも枯渇が懸念
されるとして、農工業用水の大口利用者や流域自治体などに節
水を呼び掛けます。

その後4日8日。気象台の予報では、『県内全域でまとまった
雨が降る』との予報であったにもかかわらず、残念なことに結
果は少雨に。

この少雨を受けて県河川課は『県の管理13ダムのにおいて、
ダムへの降水量は1月は4%、2月は42%、3月は16パー
セントでしかなかった』 『県内のダム46カ所のうち、枯渇し
た一ツ瀬と渡川のほか別の4カ所も放流量を調整。今後も雨が
降らなければ1-2週間で最低水位を下回り貯水率がゼロとな
る見通し』と、いう深刻な水の状態を報告するに至りました。

・・・この時期のこの渇水は誰しも記憶にないところ。宮崎の
農家の間では50年、いや60年以上も実施されたことのない
“雨乞い”の儀式の話が取りざたされるようにまでなっています。
天候というもは皮肉なもの、昨年のいまごろは多雨による日照
不足がつづいていたのですから、自然というものは、つくづく
予測のつきにくいものだと 実感せずにはおられません。

さてそこで。農業の現場で生産に携わっている身としては、こ
のような日本の雨の偏りの傾向は、今後も継続していくものと
考えていったほうがよいかもしれません。


その2『2010年 日増しにからっぼになっていくダムの水』

ダム湖沿いの道を走りながらの森林浴を楽しんでいると、この
ような緑に満ちた光景が目に入ります。

 森林浴.jpg

しかし↑今年の5月の風景は、例年とは大きく違いました。

 下がる喫水線.jpg

それは喫水線の位置・・・ダム湖の水の量が甚だしく少かったの
です。

 ダム湖の異変.jpg


いつもの年であれば、木々の緑の下は ほどなく水面。ダム湖の
いま見えている崖、白く見える部分は 例年なら湖水に沈んでい
る部分となります。


 干上がるダム湖.jpg


建設当時に『西日本最大のダム』といわれた一ツ瀬ダムのダム湖
の、本年の貯水量が こういった惨状なのですから、今回の東九
州における水不足がいかに激しいものであったかが わかろうと
いうものです。

ご参考までに、もうひとつのダムの風景がこちら ↓ 。

         低水放流.jpg

上の写真は、ここ一ツ瀬ダムよりも北、大分県にある北川ダムに
関する5月21日付けの新聞記事です。
このように50年ぶりとも形容された大干ばつによって、東九州
各地のダムでは、史上はじめての低水放流を実施しなければなら
ないほどの貯水率の減少 という事態に見舞われているのです。

・・・一般的な国民の認識として、“日本は水に恵まれている”と
いうものがありますが、この認識はそろそろ改められてしかるべ
きなのではないのかと、そう思えてなりません。


その3『極端な多雨・少雨が増えている日本。』

日本の農業生産にとって大事な水の問題を考える場合に まず第
一に挙げなければならないこと、それは日本の降水量の変化につ
いてです。

気象庁の全国の51地点での継続した調査や国立環境研究所の調
査で、とくに西日本を中心にしたほとんどの地点で年降水量の変
動が大きくなっていることが報告されています。つまり極端な多
雨そして少雨の年が増えている。 →気象庁の異常気象リスクマ
ップは こちら 。 → 注.2021年現在版は ​こちら​。

そうなんです、

「水がほしいのに、降らない」
「水が過剰なのに、まだ降る」

こういった気象/降水量の変化は、作物の生長に応じて水を継続
して必要とする農業生産にとって、きわめて不都合な話しとなっ
てくるのです。

渇水の話しをつづけますと、
たとえば 「露地もの」の葉もの野菜を大面積で栽培する場合に、
50日を越す渇水に見舞われたとしたら農作物の成長不良や枯死
などの被害が発生します。それでもまだ生産できればよい方で、
これ以上に水の絶対量が不足した場合は ・・収穫がゼロになっ
てしまうという壊滅的な打撃を受けることになる。

現実におこったこのような干ばつ/渇水の例としては、1978
年から1979年にかけて起こった福岡渇水が語り草になっいま
すが、この場合には 5月から翌年3月まで続いたといいいます
から、生産に携わる身としては 想像しただけでもぞっとしてし
まいますよ。

そんな被害ですが、渇水による農業被害の金額がはっきり出てい
る例としては、1994年夏に起きた全国的な渇水で、特に被害
が大きかったといわれる四国の松山市を中心とする当時の5市1
4町4村のケースがあります。
7月はじめから10月下旬までつづいた干ばつよってもたらされ
た農水産業被害は、70億円を超したといわれています。

またこういった水不足/干ばつは、たとえば給水設備のととなっ
ていないことの多い大面積の露地野菜栽培の場合、生産にかかわ
る費用の増大が経営にのしかかることになります。
作物が枯れないように人手と経費をつかって かん水作業をおこ
なうわけですが、この1994年の渇水の際には、生産すること
に対して平年の約3倍もの費用が必要になったとされております。
こうなってくると収穫できたとしても往々にして採算はとれない
なんてことになってしまうのですから、これはこれで生産者とし
はやりきれない話だとおもってしまいます。。

まあしかし考えてみればです。

農業生産に多少でも回せる水があるならまだまし・たとえばもっ
と長い、2ケ月越える渇水が起こったとすれば、水の節約のため
水道用水が減圧給水や時間断水される事態もはじまってくる。。
そうなると工場の操業短縮や停止といった被害が発生するでしょ
うし、家庭生活において食事の用意ができない、水洗トイレが使
えないなどの大きな影響が及ぶことになる。

ここまでの非常事態に陥れば、野菜の生産やとくに水を必要とす
るイネ栽培を行う農業には回せる水がないといった処置がとられ
ることになるのでしょうね。

農業するものにとっては辛いはなしでありますけれど。


その4『日本の水に関する内訳』

「日本の農業は世界への農産物輸出を大量に増やせる」という説
があります。その説の裏づけになっているのが、「日本は水資源
に恵まれているから」ということらしいのです。そこで水の日の
本日8月1日。本当に日本が水資源に恵まれているのかを検証し
てみることにいたしましょう。

わが国の年間の降水量は、平均で約六千四百億立方メートルです。
そのうち約36パーセントは蒸発し、残りの約四千一百億立方メ
ートルが利用可能な水の量で、実際に使われている水の量は20
06年の取水量ベースでそのうちの八百三十一億立方メートル
〔ここですでに降水量の12パーセント〕となっています。

このような統計をみると、使用されていない水が多いように思え
てしまいますが、それらの水の一部は地下へ、そしてそのほかの
大部分の水は海へ流出していきます〔日本は山国であり、その急
峻な地形が影響しているためによけいに〕。

さて実際に使用されている 八百三十一億立方メートルの水の内
訳です。

用途別の使用状況〔2006年〕では、農業用水が使用される水
全体の66パーセントにあたる約五百四十七億立方メートル、生
活用水が19パーセントにあたる約百五十七億立方メートル、工
業用水が15パーセントにあたる約百二十六億立方メートルとな
ります。

こうみてくると農業生産のために必要な水の量が、いかに大量に
必要であるかがわかる数字ではありませんか。

そしてここでかんがえなければならないこと、それは現在の日本
は、もちろん時給率が3割程度の食料輸入国であるということで
す。そう、時給できていない7割の食料を輸入している国であれ
ばこそ、この約五百四十七億立方メートルの農業用水だけで事足
りている・・・そういった厳然たるという現実がある。

そこを忘れてはなりません。そこで結論ですが、

日本には大量に輸出するための農産物を生産する水資源はない

・・・これが農業の生産現場にいるものとしての意見です。

ちなみに輸入されるものの生産に必要とされる水の量についても
お知らせしておきましょう。いったいどれくらいの外国の水が使
用されているのか。
国土交通省の資料によれば・・・コメ・麦・豆・肉類に綿製品な
どだけでも約四百四十億立方メートルになるといわれています。

[主な輸入品の生産に必要な水量]

 水資源.gif

そう、繰り返しになりますが、日本に水がありそうに思えるのは
7割にも及ぶ海外からの食料のおかげ、もしその輸入が途絶える
ことになってしまったとしたら

 日本には農産物を自給できるほどの水資源はない・・・

のです。[水利組合などの弱体化などのマイナス要因もあること
ですし→こちら]残念ながら日本の水の将来は非常に脆弱な状況で
あるといわざるを得ないというのが実情だとおもいます。実際に
本年の九州の水稲作の植え付け時期には、大渇水が現実の問題と
なりました。

必要なときに降らず、不必要なときに大降りするもの・・・それ
が 雨。


その5『自衛隊にも襲いかかった“渇水危機”』

水の日の8月1日から、「日本は水資源に恵まれているわけでは
ない」という現実を、現場の話をお使ってお届けしたのですが、
そんな折・・・こんどは東京・硫黄島の水不足が深刻化しており、
『自衛隊は一部の隊員を引き揚げさせ、訓練も制限している。』
というニュースも発表されました。

ニュースは こちら です。

シリーズでお知らせしてきたこのブログの水不足に関する関連の
回はいじょうです。いわずとしれたことですが、日本は島国、そ
の日本という島が硫黄島のようにならないことを祈りながら、水
を大事につかっていきたいとおもいます。

余談ですが、「牛丼一杯を生産するのにも風呂おけ10杯分の、
2トン超の真水が必要になる」ともいわれている貴重な水をつか
って生産した農産物を大量に輸出している国々の水資源の将来の
ほうがむしろ心配になっちゃいましたね。

カリフォルニアとかオーストラリアとか干ばつと山火事は日常茶
飯事になってきているじゃないですが、それでも食料/水の化け
物を輸出する根性って、普通じゃない気がしませんか?