福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

福島章恭コンサートシリーズ Ⅲ 開催決定 / ベートーヴェン「英雄」&「第8」!

2023-10-03 08:10:00 | コーラス、オーケストラ

長らくのご無沙汰、失礼致しました。
このたび、《福島章恭コンサートシリーズ Ⅲ ベートーヴェン「英雄」&「第8」》の開催が決定致しましたので、ここにご報告致します。第2回(2021年4月)では、モーツァルト「フィガロの結婚」序曲&「ジュピター」、ベートーヴェン「第7」の演奏を通して、多くの聴衆と音楽の素晴らしさを共有することが出来ました。
第3回は、満を持して若きベートーヴェンの野心作「英雄」を採り上げます。カップリングは、ベートーヴェンの最も幸せで快活な精神の反映された「第8」を選びました。どうぞ、ご期待ください。

福島章恭コンサートシリーズ Ⅲ 開催決定!
♪The 62nd Birthday Commemoration 
 
2024年4月13日(土)14時開演
杜のホールはしもと
JR横浜線・京王相模原線 橋本駅北口ミウィ橋本7F

プログラム
ベートーヴェン
交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
交響曲第8番ヘ長調作品93
 
指揮:福島章恭
東京フォルトゥーナ室内管弦楽団
(コンサートマスター:相原千興)
 
一世一代、渾身のベートーヴェンを
《小学校6年生の春、親にねだって買ってもらったレコードはシュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィルによるベートーヴェン「英雄」「田園」の2枚組でした。来る日も来る日も繰り返し聴いたこれらのレコードがわたしに音楽への道を開いてくれたのです.。62回目の誕生日に、我が原点である「英雄」を振ることにしました。わたしを育て、導いてくれた全ての「人」と「歴史」に感謝を込めて》
 
全席自由 4,500円 12月1日発売
 
チケット購入・お問い合わせ 
かもっくす音楽舎 042-799-0182 akiyasu.concerts@gmail.com
ビーフラット 03-6908-8977
♪チケットぴあ&チケットMOVEの取り扱いも予定しています。
(12月15日 受付開始予定。詳細は後日)

ラヴェルの愛弟子ロザンタールによる「トスカ」仏VEGA盤

2023-03-24 13:33:16 | レコード、オーディオ


ラヴェルの愛弟子にして、フランス音楽のスペシャリストであったロザンタールが、「トスカ」の録音を残したことを、かつては不思議に思っていたが、その疑問が氷解したのは、ロザンタールの著作「ラヴェル - その素顔と音楽論」(マルセル・マルナ編、伊藤制子訳、春秋社)から次のエピソードを読んだときである。

ロザンタールがラヴェルに、マスネとプッチーニを非難したとき、ラヴェルが「トスカ」全曲を弾いたという。そして、ピアノで弾く手を止めては「すばらしい、よくできている!」と語っていたのだ。
後に、ロザンタール自身、その音楽そのものの力強さとオーケストレーションの完璧を賞賛している。

彼には「トスカ」を振る強い動機があったのだ。



プッチーニ:トスカ(全曲・仏語歌唱)
M.ロザンタール指揮パリ国立歌劇場管&合唱団. 
トスカ: J.ロード(Sop. )
カヴァラドッシ: A.ラーンス(Ten. )
スカルピア: G.バキエ(Br.)etc.
仏VEGA VAL.118
ST20.003/ 005 STEREO 3枚組


仏VEGAに入れた「トスカ」、2枚組のモノーラル・プレスは架蔵していたが、ステレオ・プレスのあることを知ったのは最近のこと。
探しに探してようやく見つけたのが、このファースト・プレスである。豪華な赤い布張りボックスはモノーラル盤と共通だが、ロザンタールの名の下にステレオのロゴマークがある。






まず、針を降ろしての驚愕は、生半可な最新録音には太刀打ちできない素晴らしいオーディオファイルであるということ。仏Adesから出されたロザンタール指揮によるラヴェルやドビュッシーの復刻盤も優れた音質に違いないが、生々しさはまるで別物だ。





ロザンタールの指揮は、常に明晰で、見通しがよく、彼が愛したプッチーニのオーケストレーションの美を余すことなく伝える。オーケストラは生き物のように語り、歌手たちも情感豊かに歌い、演ずる。聴き慣れないフランス語であることも、いつしか忘れてしまう。

この春の仕事のため、ドビュッシーの「夜想曲」を聴きまくり、わたしの中でのロザンタールの再評価から、この盤の存在を知り、出会いに繋がった。ネットサーフィンならぬロザンタール・サーフィンとでも言えようか?








光と歌の大伽藍 ~ パッパーノ&聖チェチーリア音楽院管のブルックナー

2023-02-02 00:16:21 | コンサート


ハンブルク滞在最後の夜に、愛すべきエルプフィルハーモニーで、このような素晴らしいブルックナーを聴けたことは、本当に幸せなことである。

今宵はパッパーノ&聖チェチーリア音楽院管のハンブルク公演2夜目。初日の昨夜は、プロコフィエフ「古典交響曲」、ラヴェル : ピアノ協奏曲、シベリウス「5番」というプログラムで、ピアノ独奏は、アルゲリッチの代役としてヴィキングル・オラクソンであった。昨夜は驚愕の天才オラクソンに尽きた。それについては改めるとして、いまはまずブルックナーを語りたい。

実のところ、パッパーノには甚だ失礼ながら、今宵の演奏には大きな期待をしていなかった。というのも、昨夜のシベリウスが、わたしには余りにエネルギッシュで力強過ぎたからである。パッパーノの指揮もフォルテになると力んだり、足を踏みならしたりで、シベリウスに求められる透明な詩情、冷たくな張り詰めた空気感などと全く無縁だった。「ブルックナーにも、こんなに力尽くで臨むのだろうか?」と危惧してしまったのも無理はないのである。

ところが、ブルックナーの音楽がそうさせたのか、今宵のパッパーノには、無駄な力みも、これ見よがしな効果狙いも皆無。目の前には、ブルックナーの美にひたすら献身する音楽家が居るばかり。

彼らのブルックナーを、独墺系のオーケストラと大きく隔てるのは、イタリアならではの艶やかに輝くサウンドと陰影のあるカンタービレである。それが、ブルックナー作品の中でも息の長い歌のつづく「7番」の美を最大限に引き出していた。光が眩いほど影も深い。儚く揺れたかと思うと強く押し寄せる歌の波、至福の音楽。

しかし、カンタービレという横軸だけでこの演奏を語るべきではなかろう。今宵の演奏の真価は、プロテスタントの質実剛健とはまったく異なる、贅を尽くしたカトリックの大聖堂のようであった点にある。即ち、まるでバチカンのサン・ピエトロ大聖堂を思わせる巨大で堅牢な造形と大理石のような艶やかな質感に優れていたのだ。ブルックナーの音楽はよく音の大伽藍に喩えられるが、今宵のブルックナーほどそれを感じたことはない。このアプローチが、遠い存在に思われがちなイタリアとブルックナーを一気に結びつけた。

言い方を変えるなら、パッパーノと聖チェチーリア音楽院管は、ブルックナーが、紛うことなきカトリックの音楽家であることを、強烈に印象づけたのである。彼らの演奏から、ライプツィヒのトーマス教会を想起する者はなかろう。

昨年12月に聴いたティーレマン&ベルリン・シュターツカペレとの「7番」とは、まるで違っていながら、それぞれに大きな感動があった。ブルックナーの音楽の仰ぎ見るような偉大さを改めて感じた夜であった。








「ムツェンスクのマクベス夫人」に打ちのめされる

2023-02-01 10:50:47 | コンサート


ショスタコーヴィチ「ムツェンスクのマクベス夫人」
指揮: ケント・ナガノ
演出:アンジェリーナ・ニコノーワ
カテリーナ: カミラ・ニールンド
セルゲイ: ドミトリー・ゴロヴニン
ボリス: アレクサンダー・ロスラヴェッツ
ジノーヴィ: ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー
ソニェートカ: マルタ・シヴィデルスカ
アクシーニャ: キャロル・ウィルソン

ハンブルク州立歌劇場で鑑賞した4公演のうち、強く印象に残ったのは、1月25日(水)と28日(土)の「ムツェンスクのマクベス夫人」である。このプロダクションを観られただけでも、ハンブルクを訪れた意味があった! 充実したキャストと読み替えなしの正統的な演出(ここ、とても大事!) - しかも、洗練されている ー によって、心よりの満足と興奮を味わった。

どのシーンも絵的に美しい。まさにこれだけでも第一級の芸術作品。そして、時折、背景に投影されるビデオの何と効果的だったことか、と思って、ニコノーワのプロフィールを調べてみたら、彼女は著名な映像作家でもあり、プロデューサーでもあることを知り、成る程と合点した。

歌手では、カテリーナの移ろう心情を圧倒的な声と芝居で表現し尽くしたカミラ・ニールンドに心を奪われた。その声を聴くだけで、カテリーナの寂しさ、心の飢え、愛欲、絶望が胸に響いてくる。この公演後4日経つのに未だに我が胸に余韻が燻っているほどだ。

セルゲイ役のドミトリー・ゴロヴニンも、このどうしようもない男の性を、輝かしくもヤクザな声で歌いきった。立ち居振る舞い、顔つき、全てがセルゲイであった。

また、セルゲイが心を移すソニェートカ役、マルタ・シヴィデルスカは、ポーランドの若きメゾ・ソプラノ(と言っても年齢は知らないが・・)で、その美しさと深く豊かな声で、聴衆の心を掴んだ。そして、ストッキングをねだったり、履いたりするとき、また、セルゲイと抱き合うときに見せた生足の美しいこと! また、この見せ方(演出)が心憎い。 

ところで、アクシーニャ役はどこかで観た姿と思ったら、ヤンソンスによるネーデルランド・オペラのDVD (ライヴ)でも歌っていたキャロル・ウィルソン。はまり役なのだろう。今回は衣服を剥がされるような暴力的な演出でなく、ホッとした。



この優れたプロダクションは、「音による心理描写にかけて、ショスタコーヴィチはモーツァルト以後最高のオペラ作曲家ではないか?」
を改めて思わせてくれた。

「ムツェンスクのマクベス夫人」がスターリンの不興を買ったことで、以後、ショスタコーヴィチにオペラを書く機会の生まれなかったことは、大きな損失だった。でなければ、5年後、10年後にどんな大傑作が生まれていたことか!















聖ヤコビ教会のシュニットガー・オンガン

2023-01-27 09:15:28 | コンサート

一昨日(1月26日)、ペトレンコ指揮ロイヤル・フィルハーモニーを聴く前の夕、聖ヤコビ教会に於けるオルガン・コンサート(無料)を聴いた。

ここに設置されているオルガンは、1689年から1693年にかけて、史上もっとも名高いオルガン製作者のひとり、アルプ・シュニトガーによって製作されたもの。設置当初から今日に至るまで、その構想に大きな変化はなく、古い配管や見込み管はほぼ原型のまま保存されているとは、まこと驚異的なことである。1700年以前に作られた現存するオルガンの中では最大のもので、保存されているバロック楽器の中では最も優れたものの1つとされている。



奏者は、聖ヤコビ教会のカントル、ゲルバルト・レフラー。バッハとブクステフーデという美しいプログラム(写真参照)。



いや、なんと言おうか。
冒頭の一節が鳴り出した途端、異世界へ連れ去られるような感覚。これまで聴いたどのオルガンとも違う音の実在感。
生々しく鮮烈であり、どこまでも高く、どこまでも遠く、そして、無限なる深さを湛えた響き。
30分がまるで10分ほどにしか感じられない至福のひとときであった。
次のオルガン・コンサートはわたしの帰国後となるので、ただ1度の機会となったが、1度でも聴けたことを天に感謝したい。

ところで、教会でのオルガンは、背後から人々に降り注ぐ。我々が祭壇に正対しているためである。帰宅して、オルガンのレコードを聴くときは、椅子の向きを180度置き替えて、背中から聴いてみようと思う。