福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

バチカン&アッシジで歌うツアー- なかにしあかね先生ととも その2 「4つの聖歌」誕生

2023-11-09 10:50:36 | コーラス、オーケストラ



東京練習会は4月より始まりました。
ピアニストには、「現地でピアノ、およびオルガン演奏の可能な方を」ということで、大野久美子先生にお願いすることができました。

嬉しい誤算は、ご参加メンバーの熱意と音楽性が高く、期待を上回るスピードでレッスンが進行したことです。
進捗状況によっては、「戴冠ミサ」の「クレド」を省略することも考えていたのですが、まったくの杞憂に終わりました。
ということで、なかにしあかね先生の新作を迎え入れる状況は整いつつありました。
一方、盟友・中村貴志先生にご指導を委ねた大阪支部では、「水のいのち」「戴冠ミサ」両作品ともに未経験、という方の割合が多く、東京よりも少ない練習回数の中、ご苦労をおかけしたようです。



なかにしあかね先生の新作が完成した、の報せの届いたのは、7月24日(月)の午後3時7分(LINEというのは時刻まで記録されていて有り難いような怖いような)。
「作品の届くのがツアーの直前だったらどうしよう?」という団員一同、およびわたしの不安が解消されたのは、本当に有り難いことでした。
「なかにし先生、本当にありがとうございました」
間もなく届いた封書には、ラテン語のテキストによる「4つの聖歌」がありました。
「Cantate Domino(入祭唱のための)」「Veritas mea(奉納唱のための)」「Pacem meam(拝領唱のための)」「De profundis(閉祭唱のための)」

まずは、最初のページから衝撃を受けましたが、スコアを紐解くうちに「これは、ただならぬ作品だ」の想いは強くなるばかり。
わたしのような者が述べるのも気が引けますが、これまで抱いていた「なかにし作品」とはテイストが違っていました。
硬派であり、辛口であり、より揺るぎなく堅牢なイメージ。
主に旧約聖書の詩篇から選ばれた峻厳なテキストが、作曲家にかくも崇高なインスピレーションを与えたのかと思うと、身震いすら覚えたほどです。

さっそく、次の東京練習会から「4つの聖歌」のレッスンに取りかかりましたが、
人の声によって歌われる効果は、ピアノでの試演を遙かに凌ぐものでした。そして、この作品は忽ちにして、ご参加者全員を虜にしました。
しかし、問題は、難易度も想定を超えていたことです。
「今日もひとつ」「よかったなあ」などを、ピクニックに例えるなら、「4つの聖歌」は小さな規模の登山と言えましょうか。
「このペースでレッスンを続けるなら、残りの全回数を捧げても仕上がらない」ことは、明らかでした。



そこで、わたしは一念発起し、「4つの聖歌」の全パートのための音取り用の音源を作成することを決意。
1作ずつ完成させては、メンバーに公開するということを繰り返していきました。
音取り音源作成のための、バーチャル音源、映像・楽曲作成のためのソフト、MIDIキーボード、ミキサーなどは、コロナ禍で仕事の全くなかった時期に揃え、使い方を学んだものですが、それがこんな形で生かされることがあろうとは!
皆さんが勉強熱心なだけに、音取り音源公開後のレッスンの進みはスムーズとなり、それが実り豊かな公演へと繋がることとなりました。
わたし自身にとっても勉強になったし、地方からのご参加で、東京や大阪の練習会に出席の難しい方のお役にも立ったようでした。

わたしに課されたもうひとつのお仕事は、テキストの意味を団員に伝えることでした。
しかし、ここで大きな壁にぶち当たることになります。それについては、次回に譲ろうと思います。

(つづく)