福島章恭様
『CDを送っていただきありがとうございました。少し連絡が遅れてしまいましたが無事受け取りました。漸く時間がとれて、先ほど、まずはブルックナーの8番を聴き終えました。私は還暦を過ぎた素人の音楽好きですが、少しばかり感想をお伝えいたします。
予感はありましたが、素晴らしい演奏に、久し振りに大変感動いたしました。聴き始めて程なく判ったのですが、テンポ感や息遣いといったものに、何か自分自身と合ったものを感じました。そして何故だかわからないのですが、遠い昔の自分に戻ったような懐かしさを感じる印象でした。
最近聴きなれた(というか聴きなれてしまっている)今風のスマートできれいにまとまった演奏とは全く違うのですが、何か忘れてしまったものを思い出すような、別の言い方をすれば、全面的に安心して寄り添って聴くことが出来る音楽の流れを感じました。これは最近では貴重な経験でした。
あとでCDのブックレットの福島さんの文章を読ませて頂きましたが、LP等を通じたブルックナーの音楽との出会いが、これまた殆ど自分と共通していることを知り、恐らくこれがすべての印象の底流にあるのではないかと思いました。
オケの方々も全面的に共感しながら演奏しているのがひしひしと感じられるので、演奏の温度感といったものも高めに感じられます(亡くなられてしまった宇野さん流の言葉を借りれば「切れば血の出るような演奏」、最近の演奏の多くはこの温度感といったものが総じて低い=よく言えばクールに思われます)。したがって私にとっては音楽の流れがとても自然に感じられ、聴き終わったあとに身体中一杯に音楽を吸い込んだような充実感が残りました。そしてこれも不思議なことですが、一期一会のライヴ録音にもかかわらず、後でまた繰り返して聴きたい印象がのこりました。
所謂「ブルックナー指揮者」といわれる方々が殆どいなくなってしまったような昨今、このような演奏をされる方がおられるということは、光を見出すようで素晴らしいことです。
以上とりとめなく綴ってしまいましたが、本当に素晴らしい8番をありがとうございました。
今後のご活躍を心から祈念し、これからもずっと応援しております。』
Y.E