明鏡   

鏡のごとく

機織り

2022-03-23 21:24:02 | 
柳川で機織りをしている人がいた
うなぎが桶の中で行ったり来たりしているように
縦糸の間を行ったり来たりしている横糸
ほりわりの水の中
うなぎのぬめりはとけだして
緑に色づく布となり
柳暖簾を風が通り抜けるように
かすかな吐息を絡め取りながら
美しい一つの布になっていくのです
行ったり来たりするたびに
魂も糸と糸を通り抜けていくのです
あなたの魂も
あらゆる糸を引きついだまま
たぶん
そこにあります
緑の春も
赤い夏も
白い秋も
灰色の冬も
美しい布に乗り移り
あなたのように
かたんかたんと
足を踏みこむたびに
息づいていくのです


機織り

2022-03-23 21:20:05 | 
柳川で機織りをしている人がいた
うなぎが桶の中で行ったり来たりしているように
縦糸の間を行ったり来たりしている横糸
ほりわりの水の中
うなぎのぬめりはとけだして
緑に色づく布となり
柳暖簾を風が通り抜けるように
かすかな吐息を絡め取りながら
美しい一つの布になっていくのです
行ったり来たりするたびに
魂も糸と糸を通り抜けていくのです
あなたの魂も
たぶん
そこにあります
緑の春も
赤い夏も
白い秋も
灰色の冬も
美しい布に乗り移り
あなたのように
かたんかたんと
足を踏みこむたびごとに
息づいていくのです


雨茅

2021-11-11 18:33:10 | 
茅の上を雨が通りすぎていく
雨粒がコンパネの足場に垂れていく
雨粒が時のいっぽを刻んでいくように
雨は軒下を静かに垂れながら
いっぽいっぽと雨粒のさざ波を作りながら
今日の日を洗い流そうとしていた
雨の音が溶けていく
茅の上を滑っていく
雨粒の音をそのかぼそい筒ですすりあげるように
空から降り注ぐ
その命の一捻りですするのだ

木がたおれる

2021-07-25 22:52:50 | 
明楽園の木を切る
屋根に光が当たるように
年輪は56
木がたおれる
すっくとつきたっていた空から
みしみしと遠ざかりながら
木がたおれる
56年の年月が寝転んだ
空の記憶を水平に保ちながら
根っこと離れ離れになった木がたおれる
切れ切れの線になった年輪が筋を通すように
空にけば立つ
切り株は人っ子一人座れる
ソーシャルディスタンスなど
はなっからどうでもいいように
そこにあった
年輪から滲んできたみずを吸い込むように
切り株に座った

木は
この杉の木は今まで生きて
水を隅々まで
青臭い緑の葉の先まで
へ巡らそうとしていたのだと
杉皮はカサブタのように枯れ果てようとも
一皮むけばみずを含んだつるりとした白い木肌が
ライチのようにつるりと顔を出す
生きるも死ぬも皮一枚
皮は死衣装
皮を剥がれた木肌は裸になっても生きている
空を仰ぎみて
56年の高みから
56年の重みへと変わる瞬間
みしみしと音を立てながら
いくつもの枝が年老いた手を振るように
木がたおれる

「すいばり」

2018-03-24 22:14:36 | 
てぶくろが やぶれたままの あなのなか
すいばりが ささったままの いたみあり

おやゆびと ひとさしゆびの あいだには
ふくれあがった うみもあり

ひあぶり はりさき つきさして 
すいばり はいだす うみのそと

はれた たにまの むこうから
とうめいなあな はいだして

いたみ つついて はりついた
すいばり はいだし なくなりて

はれた たにまを のぞきみて
いつか なくなる いたみあり


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木の中にある穴をのぞきこんでみた。
穴の中はまっくらでなにもみえなかったが。
なんとはなしに、手を入れてみたくなった。
昨日からすいばりがささったままの手を。
まっくらでなにもないとおもいつつ。
穴のふちをさわってみた。
せなかのあかいまっくろな虫がはいでてきた。
せあかごけぐもかもしれないと。
足をかぞえてみたものの。
ろっぽんあしの虫だった。
ありにしては大きすぎ。
くもにしては足がすくなくみじかくて。
手の中のすいばりのようにくろかった。
いたみがあなからはいだして。
うろうろはいずりまわりだし。
のたうちまわるそのまえに。
うみといっしょにだしたいと。
そのときいたみの正体をみつけたようなきがしてた。
つかみきれないまっくらないたみをつついてしまったが。
そのときいたみをてにいれた。