今年の蛍 2017-07-31 22:43:05 | 詩小説 久しぶりに散歩をした。 暗い夜道を歩いていると星がくっきりと見えてきた。 山の星は近くに見える。 しばらく歩いていると道端に 今年初めての蛍を見た。 この時期に見れるとは思ってもいなかった。 光っては消えていくほのかな明かりにつられて立ち止まった。 これからどうやって生きていけばいいのだろうか。 心の中で蛍に尋ねてみたくなった。 光っては消えていくほのかな明かりは 何も言わずにただそこにいた。
「最後の試合に」 2017-07-28 17:34:29 | 詩小説 高校生最後の剣道の試合に臨んだ倅であった 体が心を通り越して動くような 気持ちが重心になっているような それでも体の動きは自由の中にあった 一人抜き 二人抜き 切り込んでいくその体は自由そのものであった 凄まじい風を作るような自由 生の喜びの中 動き回るような あそこまで自由に動けるようになった倅の凄まじい努力を思うと 母は涙が自ずと出てきて止まらず いい試合であった 面白い友と出会えて 良き師に出会えて 幸せな時をもらって あなたが自分が生まれてきてよかったと思える時を あなた自身が自分の力で作っていることに 心から感謝する
「そこが抜ける」 2017-07-25 20:52:18 | 詩小説 そこが抜けたのは、小走りで走った日のこと。 古い板に自分の足を飲み込まれた。 足が入った先には。 刻刻の刃の欠けた鋸のような真っ暗な穴が口を開いていた。 急いではことを仕損じる。 今日、その穴をふさいでいただいた。 焦らぬように、ゆっくりといこうという戒めのような新しいそこ。
「蛇の抜け殻」 2017-07-20 01:25:11 | 茅葺 蛇が茅葺屋根にいたという 大きな腹をしていたという ことりがいなくなった 丸呑みにされたのだろう 街中のビルでは三、四階はあろう高い屋根の上に 蛇が息を潜めて生きている ことりを狙って 蛇の抜け殻があった 死んだわけではないのだ 抜け殻になっただけである その生身はきっと どこかで生きながらえている 帰り際 小さな蛇が道を横切っていた 脱皮した蛇ではなく 魂だけの まだ生まれたてのような 細く小さな体をくねらせて 草薮に消えていった